050 魔のつく石、物、法、道具★
「ふぅ、ムルコさんの茶は何度飲んでも旨いですな」
コスタンがお茶を楽しみながら、ゆったりとした時間を味わう中でしみじみと言った。
「美味しいお茶ですね」
ロランもお茶を飲みながら同意をした。
すると、コスタンがふとしたことを思い出したかのように言い始めた。
「……「ロランさん、レベルが1なのは、ダンジョンで魔物を討伐していないのと、魔石を砕いていないからでしょうな」
「ええ、どちらも経験はありません」
ロランの答えにコスタンは頷きながら続けた。
「ダンジョン内の魔物は倒せば魔素が得られますが、地上の魔物は魔石を取り出して砕かねば魔素は得られません。まぁ、売ったほうが金になりますが」
エリクシルが興味津々で尋ねる。
{ダンジョンと地上で魔素の吸収法が違うのはなぜでしょうか?}
「ダンジョンは魔物の体内のようなもので、倒した魔物は塵となってダンジョンに戻りますが、少しだけ私たちにも魔素が取り込まれるのです」
《なるほど、魔素が濃い環境なんだな》
{{"タロンの悪魔の木"の中が魔物の体内と考えると、ダンジョンに近づいた時に通信が途切れたのも納得がいきますね。そして魔素の一部だけを得ているとはとても興味深いです}}
《ダンジョンを覗き込んだ時、深い水の底にいるような感じがした。ひょっとすると魔素が濃いのかも》
{{魔素が濃すぎて通信が途切れた、あり得そうです。……それにしても魔石を砕くことでも魔素を吸収できるのですね。プニョちゃんのように……体内に取り込んだ方が効率が良さそうですが……}}
《……あいつらの体にあった石を飲み込めってか? ……俺は嫌だね》
{{実際にそういった方法もあるのかどうか、あとで尋ねてみましょう}}
エリクシルが興奮しているのか間髪入れずに通信で反応してくる。
「ところで魔石をご存じということは、魔物から取り出したことがあるということですかな?」
「はい、
リファイナリーから動力を抽出したと説明するのはややこしくなるばかりだ。
「……実はプニョちゃんにあげてしまったんです」
「ほぉ、スライムに与えましたか。少しもったいない気もしますがな!」
ロランはプニョちゃんのことを思い浮かべつつ、魔石が価値のあるものだと改めて実感する。
「魔石は"マドウグ"の燃料や"マホウ"の触媒にもなります。ギルドや商人が買い取ってくれるので、冒険者にとっては貴重な収入源です」
《ダンジョンでお金も稼げるわけか。ダンジョンを倒すと手に入るアイテムもあるんだな》
{{そのようです。ところで、その"マドウグ"や"マホウ"というのも気になりますね}}
ロランはエリクシルに促され、話題を向けた。
「コスタンさん、"マドウグ"と"マホウ"について教えてください」
「まず"マホウ"ですが、これは魔素を操る術や方法のことです」
《魔法! ……完全にファンタジーだな》
{"魔素"を基にした"魔法"ですね。現地語に統一します}
「おおぉ……! 俺、魔法を使えちゃったんだ!」
ロランはガッツポーズをしながら、自分も魔法を使えることに喜びを隠せない。
コスタンも微笑みながら、さらに続ける。
「はっはっは、そして"マドウグ"は……、これも実際に見た方が早いでしょう」
コスタンは立ち上がり、ムルコのいるキッチンへとロランを案内した。
ムルコはテーブルに座って、極彩色の鳥の羽を毟りながら麻袋に入れていた。
そのトサカから察するに、鶏の羽を処理しているのだろう。
恐らくは今晩の食事の支度の一環と思われる。
{{ここだけ切り取って見れば、古来の中世より少し進んだ程度の文明レベルに思えますね}}
《中世……がいまいちわからん》
エリクシルがキッチンの様子から文明レベルを推し量るが、ロランにはさっぱりだ。
ヒト族にとって最も親しいと言える歴史ですら、星歴以前の地球に限局される。
もちろん歴史の大きな節目などは学ぶことはあるが、一般的な学生はもちろん、教師ですら行ったこともない惑星の歴史を熱心に教えないし学ばないのだ。
つまり中世について知っているのは、よほどの物好きか歴史研究家くらいのものだ。
「ロランさんこちらです」
コスタンは釜戸の前に立つとロランを呼ぶ。
ロランが隣に立つのを待ってから、コスタンがしゃがむと釜戸の底を指さした。
「これが魔"ドウグ"に取り付けられた魔石です」
「魔石が赤いですね」
「そうですな。まぁ見ててください」
コスタンが魔石に触れると、釜戸が瞬く間に火が燃え上がり、薪を燃やし始める。
ロランはその光景に感嘆の声を上げ、驚きを隠せない。
コスタンは"マドウグ"についてさらに説明する。
「これには魔石を少量の魔素で活性化する仕組みがあります。少ない薪で火が絶えない仕組みですが、実際には魔石を節約しているので薪を多めに使っています」
ロランはその便利さに感心し、エリクシルもまた驚嘆の声を上げる。
{魔石を使用した道具がこうして生活を支えているのですね。魔"道具"という言葉も、これで納得です}
「あそこの水瓶の蓋にも魔石が埋め込まれてるみたいですが、あれも魔道具ですか?」
「うむ、そうですぞ。あれは中身を冷やすことができるのですぞ」
{これが魔道具……。これらもやはり魔素に関連して名付けられたということでしょうか }
「おお、エリクシルさん流石ですな。まさしく魔素をもとにこれらが存在していると言われていますな。そして魔道具は便利なものです、私たちの生活を豊かにしてくれます」
「たしかにこれは便利ですね。火を起こすのも楽だ」
ロランはそう返事をすると伸びをする。
先程までずっと座りっぱなしだったためか、バキバキになってしまった身体を伸ばしたのだ。
コスタンはそんなロランを見て口を開く。
「長話で身体が固まってしまいましたかな。……宜しければ散歩がてらに村を紹介しますが見ていきませんか?」
「ええ、ぜひお願いします!」
ロランは伸びをして身体をほぐしながら、コスタンの提案に心から同意する。
{わたしからもお願いします! }
「では、ムルコさん少し村を案内してきますぞ」
コスタンは作業中のムルコに声を掛けた。
「はーい、気を付けて行ってらっしゃいね」
ロランたちが玄関に向かうと、今度はそれに気づいたニョムが声を掛けた。
「ロラン、エリクシル、でかけるの?」
「ああ、コスタンおじいちゃんと少し散歩をしてくるよ。ニョムはお母さんと兄弟と一緒にのんびりしてな」
ロランがそう言うとニョムが「うん!」と笑顔になり、ロケットのようにキッチンに駆けて行く。
キッチンからどん!と音がし、すぐに「こら!飛びつくんじゃありません!」というムルコの声が響く。
そして少ししてからムルコがニョムをおんぶして出てきた。
二人とも極彩色の羽まみれになっており、ニョムロケットがどんな軌道を描いたか想像に容易い。
それでもニョムは満面の笑みで、ムルコも困り眉にはなっているが、優しい顔で笑っていた。
ロランとエリクシルはそんな光景に微笑むとコスタンとともにムルコの家を後にする。
ムルコとニョムが見送る中、ロランとエリクシルは冒険心を抱きながらコスタンとともに村の散策へと出発した。
―――――――――――――
ムルコさんの家の厨房。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330667968624251
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます