護送作戦

034 ニョムの勇気★

 

 ロランが"ドラゴン"ステーキと呼ぶ物の昼食を終え、満腹になった2人はカウチに腰かけていた。

 3人で「アーサー王と124人の宇宙騎士」の感想を言い合っていたが、ロランはふと真剣な顔でニョムに向き直る。


「ニョム、そろそろお前をシャイアル村まで送ろうと思ってる」

「ワウ! ほんとに? おうちに帰れるの? ……でも」


 ニョムは耳と尻尾をピンと立たせて嬉しそうにしたが、すぐに表情を曇らせた。

 彼女の中に、父親を失ったトラウマがよみがえる。

 その様子を見て、ロランはそっと彼女の頭をポンポンと軽くたたいた。


「大丈夫だ、ニョム。俺もお前も絶対にあいつらなんかにやられない。そのために作戦会議をしようと思うんだ。ニョムも協力してくれるか?」

「さくせんかいぎ……?」

エリクシルがそっと屈んでニョムに目線を合わせ、微笑んでみせる。


{そうです、ニョムさんも、ロラン・ローグも、みんなで安全にシャイアル村へ行くための計画を立てるのです}

「それをしたら、みんなで一緒にシャイアル村にいけるの?」

「ああ、だからニョムも一緒に作戦会議、協力してくれるか?」


 ニョムの瞳に光が戻り、今にもメラメラと燃え立つようなやる気がみなぎる。

 それを見たロランとエリクシルも自然と微笑んでいた。


「よし、作戦会議開始だ!」

「かいしだ!」


 ロランは立ち上がり、航行インターフェイスのあるテーブルに移動する。

 ニョムもロランの真似をして、大きな歩幅で彼の後ろをついてくる。

 エリクシルは、士官服のジャケットを脱ぎ、"必勝"と書かれた鉢巻を巻いた。


「エリクシル、それは……まあ、いいか」


 ロランはエリクシルの姿を見て一瞬止まったが、深く考えずにテーブルに触れた。

 ホログラムが立ち上がり、船の位置や森、丘、集落の位置が浮かび上がる。


「よーし、ニョム。まずはシャイアル村までの道を教えてくれ。どうやって来たか覚えているか?」

「うーん……帰り道はわかんないけど、おうちはこっちのほうだと思う」


 ニョムが指さした位置に、ロランはホログラム上でバツ印を付ける。


「シャイアル村はここか……山の向こうだな」


 ホログラムの地図には、船から村へ直進するルートが浮かび上がる。

 鬱蒼とした森と切り立った山が、その間に立ちはだかっていた。


「この山をニョムを連れて越えるのは無理があるな……。砦の方角はわかるか?」

「うーん、砦は少し離れてる。このへんかな。怖いのがいるってミョミョちゃん言ってた」


 ロランがニョムの指したところに印をつける。

 砦はコブルの集落から少し離れた位置にあった。


「とりでから村までは原っぱをつれてこられたよ、山を2つとおったの」

「なるほど。コブルたちも切り立った山を越えるのは避けて、平原側を進んだってわけだな。バイクで進めるルートがありそうだ……」


 エリクシルがホログラムのデータを解析し、最新の情報を表示する。


{現在、集落に常駐しているのは2体、最大6体まで確認しています。"杖持ち"と呼ばれる個体は、周期的にセンサーの範囲外へ姿を消しています。昨晩は集落にいたので、今日明日は姿を見せないと予測されます}


 ロランはその情報を聞き、ホログラムに映し出されたコブルの動きを確認する。


「"杖持ち"を倒すのも目標だが、まずはニョムを安全に送り届けるのが最優先だ。奴らが少ない時間帯に、バイクで一気に駆け抜けるってのはどうだ?」


 エリクシルはロランの提案に頷きつつ、追加の注意点を示した。


{交戦を避ければ、ニョムさんを無事に届けられる可能性が高まります。しかし、森を抜けてからの地形が不明確です。バイクで進むリスクも考慮する必要があります}

「ニョム、森に入ってからゴブリンの集落まではどれくらい長かった?」

「わかんないけど、シャイアル村の方が遠かったよ」

「そうか、ありがとう。森を抜けた後、平原が広がっている可能性が高いな」


 ロランとエリクシルはお互いに顔を見合わせ、頷き合う。

 その表情には決意が浮かんでいた。


「じゃあ、明日早朝に出発しよう。エリクシル、奴らが手薄になる時間帯を教えてくれ」

{"杖持ち"がいない朝の時間帯が最適でしょう。それに、常駐する2体のみなら、バイクで突破するには十分です}

「よし、それで決まりだ。ニョム、ありがとうな。いい作戦ができたぞ!」


「ほんとう? ニョム、役に立てた?」

「ああ、ニョムがいなきゃこんなにいい作戦は立てられなかった」

{ニョムさんのおかげです。本当に頼もしい仲間です}

「ワオーン! 嬉しい!」


 ニョムは褒められて、尻尾をぶんぶんと振りながら喜びを表現していた。


「出発の準備はほぼできてるから、今日は点検と休息にしよう。少し、肩の力を抜いておきたいしな」

{そうですね。出発前にしっかり休んで、万全の状態で挑みましょう}


 ロランは深く息を吐き、緊張から解放されたようにカウチに座り直す。


 ニョムを母親のもとへ安全に送り届ける――そのために、ロランは自分に言い聞かせるように決意を新たにする。


「ニョム、お前をお母さんのところに送る。絶対に無事に帰してやるからな」


 その言葉に、ニョムはロランの顔をじっと見つめる。


「ロラン……無理してない?」


 ロランの緊張感がニョムに伝わったのだろう。

 彼女は不安げにロランを見上げた。


「無理なんかしてない、大丈夫さ。それに、俺だけじゃない! エリクシルも一緒だし、バイクで行けばゴブリンも追いつけないさ」

{はい、私も全力でサポートします}


 エリクシルがニョムに優しく微笑むと、ロランも頷いてみせた。


「うん……ありがとうロラン! エリクシル! あ、でもプニョちゃんも一緒に連れていこうね!」

「あぁ、もちろんだ」


 その日の午後、ロランたちは作戦会議の緊張から解放され、ゆったりと過ごす。

「ギャラクシー・ウォーズ 帝国の逆襲」を観ながら、ニョムは劇中の名台詞を真似して遊んでいた。


「私はお前の母親だ!」


 ブランケットをフードに見立てたニョムが何度も繰り返す姿に、ロランは思わず噴き出す。

 エリクシルは{どう見てもお父さんでしたけどね}と冗談を交わし、ロランは「それが面白んだぜ」と笑って答えた。


 ロランははしゃぐニョムの姿に微笑みつつも、別れが近づく寂しさを感じていた。

 エリクシルもまた、彼を静かに見守っていた。


――――――――――――

船内の間取り図

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330665583731809

今回の作戦のおおまかな地図。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330665583757303

映画鑑賞。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093075707381820

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