第164話 芽吹く新世代 その5
~受験生 "乙羅サヤ子" 視点~
「う……う~~~ん……」
ガクリ、と。
RENGEちゃんはお腹を押さえたかと思うと、その場に膝を着いてしまう。
そしてぐぅ~っとそのお腹を鳴らした。
「お腹空いた……私、もうダメかも……」
「お姉ちゃんっ!」
ナズナちゃんが駆けていき、RENGEちゃんへと肩を貸す。
「お姉ちゃんのアレは代価が空腹なんだっけ?」
「う、うん。らーめん、食べたい……」
「それはガマンするしかないかもね。たぶん、あのキングを片付けたら各方面にいろんな事情を説明しなきゃならないから」
「えぇ……!?」
RENGEちゃんは肩をガックリと落としてうなだれた。
たぶん、今日イチの絶望の表情をしていたと思う。
そこへと、
「ドレダケ " コケ " ニスレバ気ガ済ムトイウノダ、レンゲ……!」
ナズナちゃんたちにキングと呼ばれたその黄金の炎が、ワタシたちの目の前のダンジョンいっぱいに広がって、低い声を響かせた。
「ナゼ、トドメヲ刺サヌ! 遊ンデイルツモリカ……!?」
キングは恨みがましい声をRENGEちゃんへと投げかけるが、なんというか、的外れすぎる。
「わっ、分からないんですね、あなたには」
ワタシは拳を握り、前に出た。
緒切さんも、城法くんも、そして周防もまた、RENGEちゃんたちの後ろからキングの前へと進み出る。
みんな分かっているのだ。
分かっていないのは、目の前のキングだけだ。
「レ、RENGEちゃんはワタシたちを信じて、任せてくれたんですっ。だっ、だから……そんなRENGEちゃんの風情も人情も恩情も解せぬ " 空っぽ " なあなたは、おっ、おとなしくワタシたちにブッ倒されておいてください……!」
「ハ……?」
キングは一瞬呆けたようにその炎の体を硬直させたあと、
「フ──フザケタコトヲッ……!!!」
その炎の体をいっそう激しく燃やし立て始める。
「乙羅さん……何も燃料を投下しなくても……」
「フハッ、いいじゃねぇか、もっと噛みついてやれよ!」
城法くんは呆れたように苦笑しており、周防は銃を指で回してゲラゲラと笑っていた。
緒切さんはフッと微笑むと、
「オラちゃんらしくて、いいんじゃない?」
その刀の柄に手を添えて、「いつでもいける」というようにワタシに視線を合わせてくれた。
ワタシは最後に、もう一度城法くんを見やる。
城法くんはコクリとうなずいて、
「いいよ乙羅さん。道は僕たちで作る。君はまっすぐ進んで、その拳を叩き込めばいい!」
「うっ、うんっ! ありがとうっ!」
ワタシはキングへと向き直る。
「じゃ、じゃあ、倒しますねっ……!」
そして地面を強く蹴り出した。
体へと掛けるのはいつしか周防にバカにされ、そしてナズナちゃんに改良して教えてもらった古い身体強化魔法。この倍率を今できる最大まで、いや、それ以上に引き上げる!
──身体強化・上限突破・200倍ッ!
ワタシの体は音速の十倍以上でダンジョンの壁や天井を跳ね、キングの大きく燃え上がる炎の体を拳と足蹴で散らしていく。
この拳を黄金の炎の中心に、キング本体を探して叩きつけるために。
「馬鹿メッ!」
キングはしかし、ワタシのウゴキに呼応して炎の体を動かした。
「ドレダケノ速サデ動キ回ロウガ、レンゲ程ノ理外ニ貴様ハ立ッテイナイ!」
黄金の炎は無限に湧き出すものなのか、ワタシが蹴散らした瞬間に再生し、そしてワタシを覆いつくそうと広がっていく。
でも、
「ワ、ワタシたちはRENGEちゃんみたいにはなれないかもしれません……でもっ、」
ワタシを囲う炎に無数の白線が走る。
かと思えば、その炎は切り刻まれた写真のようにバラバラに散っていく。
緒切さんの思念一刀が全ての障害を取り除いてくれていた。
ワタシは拳を握り、一気にキングのその体の中心に肉薄する。
「だっ、だからあなたを倒せないとかにはならなくないですかねっ? じょっ、常識的に考えてっ!」
「──! イイヤ、貴様ラタダノ人間ハ、皆ココデ死ヌッ!」
黄金の炎の体のいくつかの部位が不自然に揺らぐ。
それは攻撃の兆候……のハズだった。
しかし、その部位に、光が当たる。
「絶対に外さないでね、周防くん」
「誰に言ってんだよ、ザコ眼鏡」
城法くんがその指先から、初級魔術である " 光の投射 " で赤色の光をキングの体につけていた。その部位にめがけて、周防の水の魔弾が寸分たがわずに命中する。
「ナ──ッ!?」
キングからの攻撃は起こらない。
攻撃はされる前に潰せば楽チン……
RENGEちゃんのありがたい教えだ。
「だっ、だから言ったのに。サヨウナラ、キングさん」
ワタシは硬く握り締めたその拳を、全力で炎の体へと叩きつける。
爆風が吹き荒れるとともに、黄金が弾けて散った。
視界いっぱいを埋め尽くす輝きは、打ち出した拳が起こした空気の流れのままに、ダンジョンの暗い奥底へと消えていく。
「──わぁぁぁっ」
間延びした声と、パチパチパチッという拍手の音が後ろから聞こえる。
振り返って見てみれば、RENGEちゃんが満面の笑みで、
「おめでとうっ! みんなの勝ちだねっ!」
そう言って、ワタシたち手放しで祝福をしてくれていた。
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