第158話 使徒襲来 その4

~神の使徒:RB@Fixer 視点~




「──だからさっ、効かねぇってっ!!!」



俺の体は複数の斬撃によってバラバラにされていた。

しかし、瞬く間にその切れ目を炎が満たして繋いでいく。



「俺は特別な神の使徒……神の憤怒を体現する "炎" なんだよ」



選ばれた神の使徒たちはそれぞれRENGEに対する憎悪があった。

しかし、その中でもひときわ強い思いを抱いていたのが俺。

神は、そんな俺の内面を理解してくださったのだ。



「体が炎でできてる、ってワケ? 面倒な刺客ね」



気づけば、布で顔を覆って目元しか見えない小さな覆面女が、その肩に金髪のガキをおぶって、つるぎとか呼ばれた刀の女の後ろに戻っていくところだった。

どうやら俺が体を修復するスキを狙って回収したらしい。

ほかの金髪のガキの仲間だった受験生たちも、全員が逃げている。



「ちょこまかと……!」



まあいい。

これで受験生は全員か?

ならもう手加減してやる必要はない。

あとは全てを炭にしてやるだけのことだ。



「おまえたちは神の使徒たる俺を怒らせた。ここからが俺の本気だ。もう、生きては帰れないと思えよ?」


「おまえがな」



刀女が言う。



「神の使徒だか炎を男だか知らないが、おまえのせいで私の友人が怯えてしまっている。めざわりだ。手軽く、緒切家の宿願を果たすための踏み台にさせてもらうぞ」


「おい、なに家の宿願だって? なんだそりゃ?」



復讐のために人間を捨てた神の使徒である俺の物語に、脇役ふぜいがいかにも重要ぶった設定を勝手にぶち込んできやがって。



「おまえは即刻退場で決定だわ、死ねや」



俺は両手を左右に広げ、力を込める。

まさか、こんなところで俺の "火炎拳" を見せてやることになるとはな。

俺は左右に広げた両手で、地面に鉄槌てっついを下す。



「ハァァァ──ッ! "灼熱の大津波マグマ・ウェイヴ" ッ!!!」



地面から赤い炎の津波が起こり、刀女どもに迫っていく。

これは俺が創った火炎拳の中では中範囲ほどにダメージを与えることのできる全体技の1つ。

ダメージ量はそこまでないので、技全体でいえば "Tier2" くらいの評価だろう。

だが、ダンジョンのような密室で使う分には相手に逃げ場もなく、 "Tier1" になる。



……俺の戦略センスさえあれば、どんな技だって光らせることができるんだよな、マジで。



「仮にこの"灼熱の大津波マグマ・ウェイウ" を越えられたとしても、俺の火炎拳には20もの技がある。おまえらに "Tier0" クラスの大技、 "隕石衝撃拳メテオインパクト" や "大噴火パニッシャー無加減放熱アンリミテッドバーンズ" は見せるまでもないが、せいぜい俺を楽しませてくれやっ!」


「意味不明」



刀女が剣を振るうと、大津波が割れる。

火炎は受験生たちを避けて通り過ぎてしまう。



「なに、 "まぐまうぇいぶ" って。ぜんぜんマグマじゃなかったけど。斬った感じ、ただの炎だった」


「つるぎ、言ってやんなさんな。アレはマンガやアニメの技名をリアルで叫んで本気でカッコイイと思ってしまっている痛々しいヤツよ」



覆面女はやれやれといった様子で両手を上げて肩をすくめた。



「いるのよ。体だけ成長して精神性が子どものままの大人…… "こどおじ" ってヤツがね」


「……ッ!!!」



ブチン。

俺の頭の中で何かが切れる音がした。

この女、俺のことを見下した……?

神の使徒たる、この俺を……?



「殺す。もう手加減はナシ、本気を出す」



俺は火炎拳の奥義の1つを展開させる。

その名も、



──結界術・焔獄界。



俺を中心として、受験生全員を囲む大きな火の輪が描かれる。

特に効果はない。

だが、俺が本気になった証拠だ。



……この円の中で、全員焼死体にしてくれる!



「フンヌァァァッ!」



気焔を吐き、俺は刀の女へと迫った。

足は炎を利用したロケット噴射で、その距離をたちまちにゼロにする。



「両断するっ!」



刀女が鋭く縦に刀を抜き放つ。

その切先は俺の頭の頂点をとらえ、そして股下にかけて俺の体を真っ二つにする……

ハズだったんだろ?



「ハイ、残念w」



俺の本体は、覆面女の後ろに回り込んでいる。



「おまえムカつくからさぁ、先に死んどけw」



ゴウッ! と。

炎を拳を覆面女の後頭部めがけてぶちこんでやる。

しかし、首を横に倒されてかわされてしまった。

俺の拳が削れたのは女の顔を覆うその布だけだ。



「チッ、ちょっと手加減して声かけちまったぜ……」


「いや、魔力の流れでまるわかりだからさ、アンタの動き」



覆面女はステップを踏んで俺から離れつつ、俺の拳がかすめて火のついていた覆面を脱ぎ捨てて……



「ぉあっ!?」



素顔を現したその女を、俺は知っている。

誰だったかをいちいち思い出す必要もない。



「フハッ、フハハハハッ! おまえっ、NAZUNAだろっ!?」



覆面女の正体……

それはなにを隠そう、『見つけたら即殺』と神より言いつけられていたRENGEの妹、その者だ。



「さっきからかんに障ると思ってたが、そうかい、そういうことかい! フハハハッ! RENGEの妹だった、ってんならそれも納得だ!」


「はぁ、ウザ……」



NAZUNAが面倒そうにため息を吐いた。



「やっぱりアメリカで素顔撮られたのがマズかったか……あの時からヒジャヴ被っていればよかった」



周囲の受験生たちも、突然の有名人の登場に驚いているらしい。

刀女は首を傾げているようだったが、金髪のガキは口を酸欠の金魚みたくパクパクと開け閉めして目を見開いていた。



……まあそんな反応にもなるだろうな。確か情報によりゃ、NAZUNAはまだ中学三年にはなっていないはず。なんで受験に参加してんのかは気になるが……



「今はそれよりもっ! 神からの偉大なるご命令に従う時!」



見つけたら即殺。

俺は本気を出すことにする。



「残念ながら、もう手加減はできねーぜ、NAZUNA。本気を出させてもらう」


「さっきから何回本気を出してんの、アンタ」


「黙れっ!」



俺は両手の全ての指を合わせて輪を作る。

その中心へと炎を凝縮させて球を形成する。



「見せてやるよ、俺の "Tier0" の超必殺技を。その名も──"The・超新星爆発スーパーノヴァ ~炎の使徒の神撃による、とある旧世界の終焉しゅうえんと新世界の創造について話そう~"」


「何その売れないラノベのタイトルみたいなの……中二病とかじゃなくて、もはや狙ってるでしょ……」


「言ってろ、新世界をおまえたちに見せてやる」



俺の手の中心にあるのは、小さな "太陽" だ。

もちろん太陽系のソレと同じほどの質量はないが、しかし、この場においては充分。



「たとえこのサイズであっても、太陽が自壊したときに放たれるエネルギーがどれほどのものか……NAZUNA、おまえの頭脳ならわかるだろ?」


「……」



NAZUNAが黙り込む。

そりゃそうだ。

詳しい破壊力については俺も知るよしもないが、きっとすごいことになるに違いないのだから。



……そのエネルギーを、前方のコイツらに向けてぶっ放す!



「さあっ、喰らえ……これが俺のTier0の超々必殺技、The・超新星爆発スーパーノヴァだっ!!!」



俺の手の中のその小さな太陽から、ダンジョンの通路を埋め尽くすほどの白いエネルギー光線が放たれた。

それは一直線にNAZUNAたちの元へと駆けて──



──しかし。



「どっせぇぇぇぇぇいッ!!!」



爆音の掛け声とともに、かき消されていた。



「……はっ?」



意味が分からない。

いくら小さくとも、仮にも太陽の自壊エネルギーが相殺されただとっ?



「なんだっ、何が起こった……!?」



目の前にいるのは、先ほどまではそこにいなかったはずの赤色のクセ髪をした女。

拳を振り抜いて、NAZUNAたちの前に立っている。



……まさか、コイツが? あの規模のエネルギー光線を、拳で打ち消したっ!?



「あ、あり得ねぇ……!」



そんなの、人間業じゃない。

そんなことができるのはこの世界じゃ唯一、 " あの悪魔 " くらいのもんじゃないのか……!?



「お、お待たせしました、緒切さん、Nさん」



ソイツは、クルリとNAZUNAたちの方を振り返って、



「えっ──えぇぇぇっ!? ナッ……ナズナちゃんっっっ!?!?!? レンゲちゃんのブレインであり唯一無二の妹君たるナズナちゃんがなんでここにぃぃぃっ!?!?!?」



そう、発狂したように叫んでいた。

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