第156話 使徒襲来 その2
~神の使徒:RB@Fixer 視点~
「──Hey, hey! はじめましてブラザー、俺がRB@FixerだぜSay, Yo!」
ワームホールを抜けて、俺はその渋谷ダンジョンへと降り立った。
懐かしの自己紹介とともに。
ちょっと寝坊しちまって駆けつけるのが遅くなってはしまったが、試験途中に乱入するってのもなかなかオツなものだと思う。
「お? いい画だねぇ。ガキんちょども、目を見開いて固まってるねーw」
「誰だっ、テメェッ!」
金髪の、いかにも "俺様タイプ" の男のガキがいっちょ前ににらみつけてくる。
こういうヤツ、どこにでもいるよな。
中学で『教師にもタメ口の俺、強ぇ~!』って思ってそうな、目上の人間をナメてっかかってくるいけ好かないヤツだ。
「おいおい、言っただろ、俺はRB──」
「おいっ、テメーらは青森先生がどーなってんのか調べてこい! コイツは俺が見てる!」
金髪の出した指示に従って、他の生徒たちがさっき俺が吹き飛ばしてやった大人の……生公か? のところに走っていく。
というか、自分から俺が誰かをたずねておいて、言葉を途中でさえぎるとかあり得るか?
「だからガキは嫌いなんだよな。マナーがなってねぇ……」
「あぁ? マナーだ? 俺たちの試験中に乱入してきた不審者が、何をほざいてやがる」
金髪は俺をにらみつけながら、右手に魔力を集中させて構えた。
「テメーが誰だかは知らねーし、どうやってここまで来たのかも知らねーけど、一回ぶっ飛ばしてから全部聞き出してやるよ。覚悟しやがれ」
「……悲しいねぇ。"圧倒的な実力差" ってヤツがわからないとは、嘆かわしいねぇ」
俺は顔を思いっきりしかめて、ため息を吐いてやった。
するとどうだ、金髪は簡単に頭に血を昇らせる。
チョロッw
「ぶっ殺すッ!!!」
金髪が腰のホルスターから自身の武器──銃を抜く。
そして地面を蹴るやいなや、その体は空間へと溶けるように消えた。
……へぇ、やるじゃん?
ガキのクセに、魔力の動きにいっさいムラのない高等な魔力操作をしやがる。
金髪はあっという間に俺の背面へと回り込んできた。
「ま、無駄なんだけどねw」
俺はその動きを完全に捕捉、俺に向けて莫大なエネルギーの込められた銃を突きつけている金髪の腕をガシリ! と掴んで、
……掴んだ、ハズなのに?
「あれっ」
俺の手は何も掴んでいなかった。
掴み損ねた、だと?
「──甘ぇんだよ、クソ不審者」
タァン! と。
俺の胴体へと、右斜め下側から巨大な水の弾が勢いよく撃ち込まれた。
……水の魔弾、かっ?
それが飛んでくる方を見れば、金髪がしゃがみ込んで銃口をこちらに向けていた。
そして間を置かずに俺の胴体へと巨大な水の弾をいくつも撃ちこんでくる。
俺の胴体をえぐるように、水が叩きつけられた。
「こちとら今日のために "チーム練習" をどんだけやってると思ってんだっ!? 不審者ごときにつまずいてる時間はねぇんだよ!!」
……チーム練習、なるほど。
別の受験生による "支援型魔術" の使用で、金髪のスピードを一時的に底上げしたってわけか。
涙ぐましい連携ってヤツだ。
だけど、
「──フフ、グファハハハハッ!」
効かないんだよなぁ、水の魔弾程度。
神より与えられし "特別な体" の前にはさっ。
「フンヌッ!!!」
俺は地面を思い切り踏み鳴らした。
直後、ゴウッ! と。
地面のアチコチから火柱が立ち上がった。
「ッ! アッツッ!」
火柱は
「火っ……!? クソがぁっ!」
金髪が水の弾で火の
そして仲間の籠も消そうとして、しかし。
「はい、残念www」
銃を使う暇などもう与えない。
ガッシリと。
今度こそ、俺は金髪の首を掴んで持ち上げる。
「グッ……ガッ、離、せ……!」
「え、やだw」
金髪は至近距離で水の魔弾をたたき込んでくるが、残念。
ビクともしないんだなぁ、コレが。
「とりあえずおまえもボコにしつつ、しばらく様子見ときますかw 上手くいきゃ、いま待機中の受験生どもがおまえらを助けにくるんじゃない?」
「……なにが、目的だ……」
「目的? それはねぇ、RENGEにいっぱいいっぱい傷ついてもらうことかなぁ」
「っ!?」
金髪が今日初めて驚いたように目を見開いた。
「お、もしかしておまえもRENGEが地雷ワードか? 俺の仲間じゃーんwww」
「……どういうことだ」
「俺たち "神の使徒" は、RENGEに憎悪を持つ中から選ばれし "元人間" だ」
RENGE……
あの "悪魔" に人生を狂わされたヤツは多い。
俺はあいつのせいでネット社会から爪弾きにされ、これまでの配信人生すべてを失った。
「RENGEが自らの力を誇示したせいでよ、世界は変わっちまった。RENGEのせいで職を失ったヤツ、利益が低迷して会社を倒産に追い込まれた経営者、RENGEに男を取られた女……たくさんの悲しみがこの世に生まれたんだよっ」
「……」
「だからわれらが神は、RENGEに天罰を与えることになさった! その1つがRENGEの周囲の人間をぶっ殺すこと! 肉体的に傷つけられないのであれば、まずは心から削ってやればいい!」
その先鋒という大役に、神は俺をお選びになったのだ。
それはいったい、なんたる光栄かっ!
「というわけでおまえはエサってわけ。他の受験生やら先公やらを呼び出すための
「……クク」
金髪が、俺に首を掴まれたまま小さく笑った。
「何が憎悪だよ、くだらねぇ。ただの逆恨みじゃねーか……」
「あぁ?」
「悪いのはRENGEさんじゃねぇ、テメーらの性根だ。性根が腐ってんだよ」
俺は指に力を込める。
その指で金髪の額を弾いた。
俺の爪の当たった部分の皮膚が爆ぜ、血が飛び散る。
「もっかい言ってみ? 俺らの根性が、なんだって?」
「……腐ってる、つってんだよッ!」
額から血を流しながら、なおも金髪は叫ぶ。
「RENGEさんを弱らせて倒そうって発想自体が雑魚の思考なんだよっ、カスッ! 正々堂々勝負できない時点で、おまえらなんざどんだけ計画を練ろうが、RENGEさんの足元にも及ばねー!」
「……も、いいや。おまえうっさいし、先に死んどくか」
俺、こういう調子乗ったヤツにはすぐに "わからせて" やりたくなっちゃんだよね。
このまま首を潰してやろ。
そうすりゃしばらくは意識のあるまま、自分がこれから死んでくんだって実感できるだろw
「じゃ、バイバ──」
ストンッ、と。
金髪のガキが地面に落ちた。
「はっ?」
俺はガキを掴んだまま、放してないんだが?
現に俺の右手は金髪の首を握ったまま……
……ポトリ、と。いっしょに地面に落ちてんじゃんっ!?
「はぁっ、はぁぁぁあっ!?!?!?」
チャキン、と。
少し離れた場所から音がする。
そこにいつの間にかたたずむ、1人の女の影がある
その女が、刀を鞘へとしまった音らしかった。
「誰だっ、おまえっ!?」
女はゆっくりと歩いて近づいてくる。
「緒切つるぎ。推して参る」
女はポツリとそう告げると、再び刀の柄へと手を添えた。
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