第149話 サンパウロダンジョン その3
「──レンゲ、レンゲ」
「……あれ、ここって」
私は気づけば見覚えのある山の麓にいた。
そして呼びかけているのは竜太郎だ。
「なんで竜太郎がここに?」
「なんでもなにも、ここはわれらの秘奥世界なのだが」
「えっ」
それって確か、ヤトさんたちのいる場所の?
「言ったろう、次に来るときはあらかじめ言っておいてくれと」
「いや、私も来る気はなくて……というか、私っていま、ダンジョンに潜ってたはずなんだけど」
「ここにいるということは現実のレンゲは、少なくとも半分は寝ているはずだがな」
「うそっ? 私、眠っちゃってるのっ? ……って、"半分" 寝ているってどういうこと?」
「今のレンゲが半透明だから」
竜太郎がアゴをしゃくって私の体を指す。
私は自分の体を見下ろしてみる。
……体の向こうに、景色が透けて見えていた。
「ホントだ、ゆうれいみたい……」
「がんばれば起きれるんじゃないか?」
「そうかなぁ?」
フンッと気合を入れてみる。
だんだんと体が透けていく。
あっ、なんだかもう一息な気がする。
「それじゃ竜太郎、また来るからー!」
「うむ」
私の体は完全に透明になると、それとともに意識が急速に上へ上へと引っ張られ始める──
* * *
「──ハッ!」
目が覚める。
あたりはうす暗く、お尻が冷たい。
どうやら私は現実に戻って来れたらしい。
とすると、ここはダンジョンの中だろうか?
なぜか私は座っているようだったが。
「"待て" だからね、レンゲちゃんっ!」
AKIHOさんの声が聞こえる。
その当人はガキンガキンと。
剣を振るっていた。
褐色の肌に、山桃色の髪をした女の子と激しい攻撃の応酬をしている。
……え、どういう状況だろう?
私はどうやら、AKIHOさんが戦っているのを観戦でもするかのよう、両足を抱える体育座りの状態で眠りこけていたらしい。
というか、ゆったりそんなことを考えてる場合じゃない!
はやくAKIHOさんの援護に向かわないと!
私が立ち上がろうとすると、
「レンゲちゃんっ、"メッ" ! 暴れちゃメッ! "おすわり" して "待て" だからね──っ!」
「えっ」
AKIHOさんに止められてしまう。
なんだかワンちゃんを扱うみたいに。
「は、はい……」
私はペタリと再びその場に座り込んだ。
手出ししちゃダメだったのかな……?
「……って、あれっ!? レンゲちゃん、起きたっ!? 半目じゃなくなってるっ!」
AKIHOさんが目を丸くしてこっちを見た。
半目?
半目ってなにっ?
よくはわからないけど、
「すみませんAKIHOさん、私また眠ってしまったみたいで……」
「よかった、本当に起きたのねっ!」
AKIHOさんは "敵" を剣でなぎ払い、その反動で私の側までやってくる。
「さっきまでのレンゲちゃんは半目で、単純な言葉にしか反応してくれなかったからちょっと大変だったよ~」
「……なんだかよく分かりませんが、またご迷惑をおかけしたみたいですみません。私、いったいどれくらい……」
「まあ、20分くらいかしら」
昼寝並みにグッスリしてしまったらしい。
申し訳ない。
どうやらその間にもダンジョン攻略は進んでいたようだ。
辺りの景色が、先ほどいたトンネルのような場所から、闘技場のような広い空間に変わっている。
そんな中でも一番の変化というと、やはり、
「AKIHOさん、彼女はいったい?」
私は正面で立ち上がり始めている褐色少女へと目を向けた。
先ほどのAKIHOさんの攻撃を喰らってもピンピンとしているようだ。
好戦的な笑みで、私をまっすぐに見ている。
その周囲にはRTA配信などでよく見る "配信用どろーん" が浮き、その "かめら" をこちらに向けてきていた。
「アレが例の "ブラジリアンRENGE" よ」
「あの人が……!」
でも、おかしい。
確か "ぶらじりあんRENGE" はこのダンジョン内に今はいないハズじゃなかったっけ?
そんな疑問に答えるように、AKIHOさんは口を開く。
「ワームホールよ。以前レンゲちゃんがアジア予選で使っていた空間を移動する技、あれで私たちの目の前までやってきたのよ」
「……!」
私が "リシム" にならなければ発動できない、あの技を使って……!?
驚きだ。
この "ぶらじりあんRENGE"、よっぽど賢いのだろうか。
「たぶん "キング" の力ね。実際、私がまともに "戦えている" 以上、ブラジリアンRENGE自体の実力はそれほどだわ」
AKIHOさんはそう言って、通路の奥を指さした。
「あの先へ進もうとしたら邪魔されたのよ。だからおそらく、神って呼ばれてるモンスターはそこにいる。レンゲちゃんは先にそこに行ってちょうだい」
「えっ、でも……」
「いいから。ここは私に任せて」
AKIHOさんは私の前に立つ。
「前もって決まっていた通りよ。レンゲちゃんはブラジリアンRENGEに手出ししちゃダメ。ナズナちゃんの話は聞いてたでしょ?」
「わ……わかりましたっ」
私は駆け出した。
ひと息に通路の奥までたどりつき、その地面にポッカリと空いていた暗い穴へと飛び込み、最後に後ろを振り返った。
ブラジリアンRENGEがこちらに向かって何かを叫んだように口を開けていたが、その声はAKIHOさんの放った魔力爆発によってかき消される。
──行って。
AKIHOさんの口パクに頷くと、私の体は闇に包まれた。
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