第119話 世界大会エキシビジョン その5
"翡翠の地底湖"を進み、
道中で飛び掛かってきたヤツメウナギとトビウオを合体させたようなモンスターを白焼きにして美味しくいただいたりしてから、2時間。
私はどんどんとダンジョンの奥深くへと進んで行っていた。
「次で20階……"えきしょびんびん"の時間的にここで最後かな」
今のところ、"どろーん"十六機はひとつも欠けずに私の後ろをついてくる。
ただ、視聴者さんは少々疲れてきているのか、
>もう頭パンクしそう・・・
>ダンジョン、いろいろ混沌とし過ぎw
>モンスターも環境もぜんぶ斬新で草
>驚きまくって疲れたわ
>家にいるのに叫び過ぎて喉タヒんだw
少しずつコメント量は落ち着いているようだ。
まあそれでも全然少ないわけではないし、反応も上々を維持している。
"えきしょびんびん"の目的は十分に果たせたんじゃないだろうか?
──そして、20階。
降り立ったその階層は一面の草原だった。
密閉されたはずの地下空間なのに風が吹き、草を揺らしている。
さらには空まであった。
白い雲の浮いた青色だ。
「……ううん、違うか。空色の天井と壁、みたいですね」
恐らくは天井と壁を形成している岩の成分なのだろう。
その岩は光の反射によって白い雲の模様が動いているように見えた。
そして光の発生源は、地面。
「向こうの地面から太陽のような光が出てますね。向かってみます」
これまでの階層と同じように、疑問を持った場所へと向かう。
この階層でもきっと、"モンスターを産む植物"や"意思を持つ川"など、視聴者さんの気を引く光景を見せられるに違いないと思って。
……しかし。
「えっ」
進んで行った先。
草原の真ん中に立っていたのはひとりの男だった。
>えっ!?
>人っ!?
>誰だっ!?
>男・・・?
>っていうか、人間なのか?
コメントがにわかに騒がしくなる。
地面から強く輝くまぶしい光のせいで逆光となっており、その姿が見えにくくなっている。
だが、その男が両手を広げ、
「わ──」
その口を開いた瞬間、私は"どろーん"たちを後ろに置き去りにしてその男に接近し、
「せぇいっ!」
思いっきり遠くへと投げ飛ばした。
「ふぅ……危なかった」
変なことを口走らせる前に放り投げることができてよかった。
あの男の人、以前この"はりうっど"で対面したドラゴンに気配が似てたんだよね。
「さて、と」
私は男を投げた方向へと向かって走り出す。
途中でブチン、と。
"どろーん"経由で配信と無線接続されていた"いやほん"と"まいく"が切断される。
よかった。
これで余計な音が入らずに済む。
「……それで、あなたは誰?」
投げ飛ばした先に着く。
やはりその男は無事だった。
背中から生えた"きんぐ"のものとよく似た翼を広げ、宙を羽ばたいていた。
「クックック……クハハハハハッ!!!」
男は竜のウロコの生えた顔で歪に笑うと、その両手に光を集める。
このフロアを照らす陽光に負けずとも劣らない輝きを持つ力だ。
それは極大の光線となり、私めがけて打ち出された。
「レンゲぇっ! 我はお前を待っ──むぐぅっ!?」
「静かにッ!!!」
私は男の光線を弾き消すと、その男の口を手で握って塞いだ。
"どろーん"から充分距離が離れているとはいえ、大声を出されたら届くかもしれない。
「あのね、今は"えきしょびんびん"配信中なの! だから、視聴者の人たちを怖がらせるような"余計な問題"は困るんだよぉ……!」
「むっ、むがぁっ……!?」
「あなたが"きんぐ"とどんな関係なのかは知らないけど、ちょっと大人しくできないかな? ねっ?」
「もごっ……ぐがぁ……!」
「大人しくしてくれるなら、"どろーん"に向けては私から言い訳しておくから。『なんか変な新種のモンスターだった』とか言ってさ」
「……ぐぼっ……コフッ……」
ガクリ、と。
男の体から力が抜けた。
……あっ、息止まってるっ!!!
男の羽ばたきが止まり、私と共に自由落下が始まる。
男は背中から地面に落下、私はしっかり膝を曲げて着地を果たす。
「──コヒューーーッ!!!」
どうやら背中を地面に打ち付けた衝撃で男の呼吸は戻ったみたいだ。
よかった……。
「あっ、あの……ごめんねっ? とっさに口塞いじゃってたもんねっ? 苦しかった?」
「コヒュゥ、コヒュゥ……ッ! おのれ、レンゲ……!」
おかしな呼吸をしながら、男は私をにらみつけてくる。
「我を、"余計な問題"だと……!? むしろ主題だろうが……!」
「あ、それは今、配信中だからで……」
「知ったことかッ!」
男は地面を荒々しく踏み鳴らす。
「よく聞け、レンゲ! 我は人類がキングと呼んでいた神の"分体"がひとつ、"
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