第118話 世界大会エキシビジョン その4
ダンジョンの雰囲気は変わっても、やはり同じダンジョン内であることには変わらないようだ。
蜜樹林は蟻の巣のひとつの通路のように細く長く道を続かせており、なだらかな傾斜になっていて、奥へ奥へと進んで行くほどに坂が急になっていく。
「"すたぐらんと"が多いですね、なんだか奥に行くにつれてどんどんと多くなっているみたいですっ」
真紅の木々の根の間からは絶え間なく"すたぐらんと"が湧いて出る。
みんな好戦的で、どうやら私が奥に行こうとするのを止めているようだ。
とはいえ、そんな妨害を受けてはいられない。
私がえっさほいさと"すたぐらんと"たちを放り投げて進んで行くと……
「えっ?」
目の前に、唐突に壁が表れた。
いや、正しくは壁ではなく"網"といったところか。
目の前の道には黄金色の蜘蛛の巣状の網が張り巡らされ、その真ん中に大きな"蜂の巣"のようなものが吊るされて塞がれている。
「なんだか事前調査での報告と違う気がする……」
確かこの道は下層へと一本道で繋がっていたはずだ。
こんなものに塞がれているなんて話はなかった。
>もしかして巣か?
>スタグラントの巣?
>出入り用の穴も空いてるし、そうだと思う。
>デカ!
>こいつら糸も作るんか
>その糸、RENGEの手刀で斬れない?
>成分が分からないものにはあまり触らん方がいい。
確かに、触ってくっついたりしたら嫌だしなぁ。
蜘蛛の巣の目は細かくて、触れずに間を通り抜けることも難しそうだ。
なら、仕方ないか。
「あのぅ、お邪魔しまーす……」
私はひとっ跳びでスタグラントの巣穴への入り口に着地した。
巣の表面に空いていた、直径2メートルほどの丸い穴だ。
……そう。巣の中を通っていけば、反対側に続く道があるかもしれない!
>ちょっwww
>即判断即行動www
>RENGE・・・そういうとこだぞ!(好き)
>ダイナミックお邪魔しますで草
>モンスターの巣に飛び込むのに躊躇が無さすぎるw
私が巣穴へと入るなり、巣の奥の方がにわかに騒がしくなった。
ガシャガシャと足音が聞こえて、"すたぐらんと"たちが一列になって私の居る入り口へと詰めかけてくる。
「お邪魔っ、しまーすっ!!!」
ガシリ。
先頭の"すたぐらんと"の両ハサミを両手でつかみ、ググッと押す。
「ちょっとだけ、通らせてねぇー!」
私はそのまま足で踏ん張りつつ、前進する。
私が直接掴んで押している先頭の"すたぐらんと"のお尻が、その後ろに詰めかけてきた"すたぐらんと"の頭に衝突し、さらにその後ろも同様。
自動車の玉突き事故のごとくドカドカと音が響く。
そのままズルズル、押す。
たぶん10体くらい同時に押しやって、奥へと進む。
「よいしょっ、よいしょっと」
巣の中は路が枝分かれしているようだったけど、一番太い路を選んで進む。
最終的にたどり着いたのは、"すたぐらんと"や白く太い幼虫たちが蠢く広い空間。
その中央にいたのは羽を生やした、ひときわ大きな"すたぐらんと"だった。
>女王じゃねっ!?
>クイーン・スタグラント!
>事前調査にないなら新発見!?
「く、"くいーん・すたぐら"……zzz」
>誰だ今コメントで英単語言ったやつ!
>寝るなっ、起きろー!
>逃げろスタグラント!ハチノコにされる!
>せっかくの新発見が料理に・・・!
>起きろRENGEぇぇぇ!!!
「……ハッ!」
危ない、今一瞬眠りかけてしまった気が……
両頬を叩く。
今は全世界に向けて配信中なんだ。
気を引き締めなければ!
〔クワワッ、クワワワワッ!〕カチッ カチッ カチッ
どうやら女王であるその"すたぐらんと"は、アゴのハサミをかち合わせて音を鳴らしていた。
その足元には、きっと生まれたばかりであろう白い幼虫たち。
「そっか、そうだったんだ。やたら"すたぐらんと"たちに進路を妨害されるなと思ってたけど、巣にいるこの子供たちを守るためだったんだね……」
この女王を倒すことはきっとできるだろう。
でも、そんなことをしたら……
きっと子供たちが悲しむんじゃないだろうか。
「ごめんね、女王さん。すぐに出ていくからっ」
周囲の"すたぐらんと"たちが女王を守らんとして一斉に襲い掛かってくる。
私はそれらをかわしつつ、
「えぇいっ!!!」
巣の中、ダンジョンの奥側に続く道に面している壁を殴りつける。
──パァンッ!
破裂音と共に、その壁に直径3メートルほどの風穴が空いた。
私はそこから飛び降りる。
「お邪魔しましたぁっ!」
>見逃すのか。
>RENGE、優しいじゃん
>いや・・・言うほど優しいか?w
>巣がぁぁぁぁぁ!!!
>ダイナミックお邪魔しましたで草
>RENGE「出口が無いなら作ればいいじゃない」
>命があってよかったね、スタグラント・・・
地面に着地。
後ろから"すたぐらんと"たちが飛んで追ってくるけれど、それよりも早くダンジョンの奥へと駆けて行く。
すると、すぐに下層へ続く大きな穴が見えた。
仄暗いエメラルドグリーンの光が漏れ出るそこへ、私は飛び込んだ。
──数メートル落下し、一転して辺りは暗くなる。
天井や壁に灯りとなるものがないのだ。
その代わり、視界いっぱいを占める"湖面"がエメラルドグリーンに輝いている。
「みなさん、ここがダンジョン地下第3階層目の"翡翠の地底湖"ですっ」
湖面にチラホラと存在する隆起した地面、そのひとつに私は着地を果たした。
この階層は足場が少ない。
舟を使うか、ジャンプして移動するしかないみたいだ。
"みたい"というのには理由があり……
「この階層からは事前調査がほとんど及んでいない階層になります。なのでつまり……政府のみなさんも、私も、そして視聴者さんたちにとっても、本当の意味で初公開される光景ということです」
>マジかっ!
>え、これ超歴史的な資料になるのでは・・・?
>俺のバカみたいなコメントも後世に残ることに?
>すげぇぇぇ!
配信コメントはいっそう活気づいてくる。
同接数は私からは見られないけど、たぶんかなりの数になっているんじゃないだろうか?
「よーし、じゃあ行ってみましょー!」
みんながもっともっとダンジョンに興味を持ってくれるよう、配信をしっかり盛り上げていこう!
* * *
「……来たか、レンゲ」
ハリウッドダンジョン地下20階層地点の、とある草原の真ん中。
オリハルコンの岩の上に座した屈強な男がひとり。
「今一度、お前の混沌を見せてみろ……!」
男は竜のウロコの生える頬をニヤリと歪ませ、そう独り呟いた。
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