第116話 世界大会エキシビジョン その2
暗い暗い大穴の底へと向けて、私は頭から落下していく。
──ヒュオオオッ!
風を切る音が響く。
悲鳴にも聞こえる、鋭く高い音だった。
だんだんと陽の光が遠ざかり、それと同時に私の後ろに追随する十六機の"どろーん"たちが強い明かりを照射し始める。
その明かりは闇に呑まれるばかりだったが……
数秒後、地面を照らした。
「どうやら底みたいですね、着地します」
私は両手を下へと突き出して、逆立ちの姿勢で地面に触れる。
そして着地の瞬間、肘を柔らかに曲げて衝撃を吸収する。
そのまま"でんぐり返し"すると服が汚れそうだったので、手首に軽く返し、
──クルクルッ、ストン、と。
前転、そのまま続けて前方宙返りをして地面に降り立った。
>!?!?!?
>どんな着地方法だよwww
>200m落ちて着地する音じゃなくて草
>物理法則どこいったwww
>空軍も真っ青だわ
>さすがRENGEwww
>開幕早々目が離せない展開だなぁ
「あ、えへへ……ありがとうございます」
付けた"いやほん"からたくさん褒めてくれる言葉が聞こえてくるので、ついつい照れちゃうな。
地面に突いて少し汚れてしまった手を払いつつ、
「魔力を使えばもうちょっと綺麗に着地できたんですけどね。周囲の探知の方に割いちゃっていたので……」
>・・・ん?
>え?
>魔力を"使えば"、って言った?
「あ、はい」
"どろーん"が壊れないようにするためにも、空中から地面にかけての安全確認をしておく必要があったのだ。
そのため私は体外に纏う魔力を半径数百mの球状の膜にして広げており、身体強化には使えていない。
「魔力に頼らずとも、肘や膝をしっかりと曲げれば着地の衝撃はけっこう吸収できるんです。こう、クイッと」
まあみんな知ってはいるだろうけど。
関節というのは、人体を効率よく守れるようによくできているものだ。
いつだったか私がまだ小さいころ、山暮らしで使えそうなものを探しに、山奥にあった潰れた旅館内を捜索しているときのことだ。
今から考えれば明らかに動いていないだろうと分かるエレベーターに乗ってしまい、9階から落下したことがある。
でも、地面への衝突の瞬間に、とっさに膝をクイッと曲げることで衝撃を吸収し事なきを得た。
エレベーターは大破していたが。
「さて、それじゃあさっそくダンジョンの中を見ていきましょうっ! どんな光景が待っているのか、ワクワクしますねっ!」
>あ、うん、おう・・・
>そ、そうですね・・・
>魔力なしってマジ?
>純粋なフィジカルで着地したんか
>RENGEってマジで人間・・・?
>まあ、RENGEなら不思議じゃない、か?
>これ程度でツッコミ入れてたら1日終わってしまう
>せやな。進んでもらおう
なんだかコメントの歯切れが悪い気がするけど……
まあたぶん大丈夫だろう。
このダンジョンを機械で事前調査した"あめりか"の人たちから、この先に待ち受けているモノが何かは知っている。
それをみんなにも見てもらえたら、きっと釘付けになるだろうから。
「えーっと、北はこっちかな」
ダンジョンの中、手に持った"すまほ"の"あぷり"を見て方角を確かめながら歩いていく。
「下へと向かう緩やかな傾斜になっています。まだ周囲にモンスターの気配はありません」
穴の内側は広かった。
事前調査の結果によると、このダンジョンは"蟻の巣"のような形をしているらしい。
他にもいくつもの通路があるようだが、今回はまっすぐに北の方角にある真っ暗な通路を"どろーん"の明かりで足元を照らしながら進んだ。
「あっ、そろそろですね」
前方、数十メートルほど先。
地面が光っていた。
"どろーん"によるものではない。
>なんだ?
>金色に光ってるな・・・
>お宝かな
>ダンジョンの宝って宝箱に入ってるもんじゃないの?
>チョウチンアンコウみたいな罠系のモンスターかも
コメントからその光を予想する声がチラホラ聞こえてくる。
だけど、残念ながらその中に正解はない。
私はどんどんと近づいていく。
そしてその光の場所に立つ。
私の後ろの"どろーん"の何機かが、私の頭上から俯瞰するように地面を映す。
「みなさん、見えますでしょうか。光の正体は穴です」
私の目の前にはポッカリと地面に開いた、直径5メートルほどの穴だった。
そこから太陽光にも似た光が輝かしいばかりに湧き出している。
暗さで目が慣れてしまっていて少し見え辛いが、その穴の奥底にも地面があるようだった。
しかも、広い空間がある。
「ではさっそく!」
私はまたも飛び降りた。
今度は足から。
すると、一気に視界が開けた。
「わあっ!」
穴を落ちてそうそう、そこは広い地下空洞だった。
周囲の岩壁は黄金色の光に輝いている。
まるで夜の世界から一気に昼の世界に来たみたいだ。
「先ほどの穴から地面までの高さは30メートルくらいでしょうか」
これなら膝を曲げる必要もない。
ストン、と着地する。
そして顔を上げ、
「……すごい」
改めて、感嘆の息を吐いてしまう。
遅れて私の後に続いてやってきた"どろーん"たちがゆっくりと辺りを映し始めた。
>お、おおおおおおっ!?
>えぇぇぇぇっ!?
>おおおおおお!!!
>すげぇぇぇ!!!
>マジっ!?
>これ、やばくねっ!?
地面も壁も天井も、一面が鮮やかな真紅色。
そんな空間の中、光輝く黄金色の細い滝が何百本も下から上に向かって流れて、天の川や星々のように空を彩っていた。
黄金色の滝を成しているのは、"樹蜜"。
私の周囲に"さかさま"に生える真紅の木々、それらの天井を向いた"根"の先端から球のようになって溢れる蜜が宙に浮かびあがり、集まって滝になっていた。
「みなさん、ここが"はりうっど"ダンジョン地下2階層、"黄金蜜樹林"です」
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