第115話 世界大会エキシビジョン その1

"はりうっど"に着いたのは世界大会本戦が終わって2時間後。

軍の専用"じぇっと"機に乗せてもらって着いたそこは、未だ厳戒態勢が敷かれているようで、銃を持った兵隊さんたちをアチコチで見る。



「お姉ちゃん、アイマスク」


「うわっ」



ナズナに目と耳を塞がれてしまう。

まあ、外国っぽいところとか目撃してしまったら寝ちゃうかもしれないし、仕方ないんだけど。

後ろから突然視界を塞ぐのはやめて欲しいな……。


"じぇっと"機から降りてナズナに手を引かれて進んで、また車で移動。

車に乗ると、"いやほん"だけはすぐに外して貰えた。

送迎してくれる運転手の人は日本人のようだった。



「お姉ちゃん、渡したメモはちゃんと持ってるわね?」


「ああ、うん。"はりうっど"ダンジョンの事前調査で分かったモンスターについてのヤツだよね。ちゃんとポッケに入れてるよ」



新しく現れたダンジョンには、新種のモンスターがいくらかいるようで、今回の新ダンジョン探索配信においてはそういったモンスターの紹介もしてほしいと言われていた。


とはいえ、私は説明下手。

"あめりか"の人たちの調査結果はナズナに聞いてもらって、ナズナに分かりやすくまとめてもらったメモを私がもらっている。


なので、新種モンスターに出会ったらこれを読めば一安心。

ちゃんと視聴者さんに具体的な情報を説明できるというわけだ。



「噛まないようにしないと……あ、え、い、う、え、お、あ、お~」



活舌の訓練をしていると、どうやら1時間とちょっとで目的地に着いたようだ。

車から降りるとアイマスクも外される。



「お姉ちゃん、私はここまでだから」


「うん、ありがとう、ナズナ」



視界が開けた先、私の目の前に広がっているのは巨大な"穴"だった。



「これが、はりうっどのダンジョン……」



日本のソレとはだいぶ雰囲気が違う。

直径100メートルほどの円形の大穴が、ポッカリと口を開けて人々が落ちるのを待っているような、禍々しい雰囲気がある。



「足場は……無いんだっけ」


「そうみたいね。ここの事前調査によれば深度200メートルまでは掴まるところも何もないから、現状は自由落下に任せるしかないみたい」


「了解」



……日本のダンジョンよりも環境は厳しそう、なのかも?



今日までの間に私は、日本の本物のダンジョンには何度か潜ったことがあった。

政府の人に要請を受けてのことだ。


北海道の平野に現れたダンジョンは自然と調和したような雰囲気で、直径1キロほどの円形の範囲にわたって、広い螺旋状の緩やかな傾斜の道が下へ下へと向かって続いているものだった。



「まだ無人機しか降りてない未知の多いダンジョンよ。お姉ちゃん、万が一のことは無いと思うけど、億が一にでも危険を感じたならすぐに引き返してね?」


「分かってるよナズナ、心配しないで」



ナズナとそんな会話をしていると私の後ろに十六機の配信カメラ搭載"どろーん"がやってくる。



「よし、がんばるぞぉ……!」



私の今回の目的はダンジョンの完全攻略ではない。

この"えきしびょんびょん"を配信で観てくれている視聴者さんたちに、謎に包まれたダンジョンの内部を見せること。



──今の世は、間違いなく、ダンジョン"ぶーむ"だ。



しかし、未だダンジョンに対して恐怖や忌避感を覚える人は世界に多いらしい。

各国が税金などをダンジョン開発の予算に充てるためには、これからそういった人たちも巻き込んでいかなくてはならない。


そのためには、ダンジョンに"良い"印象を持ってもらう必要があるそうだ。



……きっと、大丈夫。



日本に現れたダンジョンの内部は過酷でありながら、美しかった。

これまで私たちが見たことのないような動植物や鉱物が溢れ、胸が高鳴るものだった。



……だから、私が体験したその感動をみんなにも知ってもらおう。より多くの人がダンジョンに好奇心を持てるように!



日本人の、たぶん今回の配信に関わる人がやってきて私に"いんかむ"を渡してくれる。

"いやほんまいく"を装着すると、どうやらすでに配信されていたらしい映像に対するコメントが流れ込んでくる。



>待ってたっ!!!

>ついに本物のダンジョンか!

>あの穴が入り口?

>怖くねっ!?

>RENGEがんば!



私に聞こえる言語はぜんぶ日本語に即時変換してもらえているらしい。

私の声も、すぐに翻訳してくれるらしく言語の壁を私が意識する必要はない。


みんな、目撃の準備は万端の模様だ。


クルリ。

私は十六機の"どろーん"へと振り返って手を挙げる。



「じゃあ、さっそく行ってみましょー!!!」



私は大きく跳び上がり、そして真っ暗なその大穴へと頭から潜っていった。

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