第114話 世界大会本戦
走り出した心は、もう留まるところを知らなかった。
眠ることもなく、
意識を失うこともなく。
私は高ぶる気持ちのありったけをぶつけて世界大会本戦へと臨んだ。
〔今回の記録は0時間00分01秒。HARDモードダンジョン、世界記録更新です〕
"すたーと"の合図と共に私が完走すると、日本語でその機会音声が流れた。
私のために、言語設定を変えておいてくれたらしい。
世界各地域からの代表8人の中ではたぶん、トップだろう。
思った通り、私がダンジョン入り口まで帰ると、8万人が収容できるという会場にものすごく大きな歓声が響き渡った。
『応援しに来たのに、まったく見えなかったぞー!!!』
『でもよくやった!』
『やってくれたなRENGE!』
やはり本番前と同じで、日本人観光客の声が大きく響く。
ここまでやり切って、そうしてみんなの歓声を受けて、ようやく私は自分の目標にひと区切りがついたんだなーと、そう実感した。
ダンジョン"ぶーむ"がやってきたのだ。
何万、何十万、ひょっとしたら何億という人々がダンジョンに熱中する時代が。
施設長との約束をひとつ、私は果たせたんだ!
それがなんだか、ものすごくうれしい。
……でも、これで終わりじゃない。
これで世界大会は終わるけれど、まだこの先がある。
「お姉ちゃん!」
控えの個室に戻った私のところに、すぐにナズナが駆けつけてくれる。
「おめでとう、お姉ちゃん。これで名実ともに世界一のダンジョンRTA走者ね」
「ありがとう、ナズナ。ナズナがいなかったらここまで来れなかったよ」
物理的にも、精神的にも。
たくましく頼もしく、そして可愛い妹を優しく抱きしめると、ナズナはちょっとジッとしてだんまりとして、それから強めに私の背中を叩いて離れると、
「さっ、移動するわよ! 次の予定まで、移動時間を含めたらそんなに無いんだから」
敏腕秘書よろしく手帳と腕時計を確認し、私の荷物をサッとまとめたかと思うと私の手を引っ張った。
「エキシビジョン──特別行事が待ってるわ」
* * *
移動中の車内、私は再び"いやほん"を強制的に付けられていた。
流しているのは日本語の配信だ。
『いやぁ、しかし驚きでした。もうRENGE選手についてはいい加減驚き尽くしたと思っていたんですがねぇ……まさか、スタートと同時にゴールを決めてしまうとは。会場も配信コメントも、10秒くらい、みんな呆気に取られてシンとしてましたね』
>いや、するだろwww
>まじで意味が分からなかった。
>1秒はわけわかんなくて草
>RENGEが優勝するとは思っていたけれども
『会場では急遽予定を変更して、RENGEの走りをスーパースロー映像で流すようですね。私もぜひどういった走りをしていたのか分析したいところ──で・す・が! ただ今回の世界大会本戦、どちらかといえばむしろ"これから"の方が大きな注目要素でしょう!』
その生配信の実況者はそう煽りを入れると、映像を切り替えた。
そこにはカタカナで、
"エキシビジョン:リアルダンジョンアドベンチャー"
と書かれている。
『みなさん、世界に"本物"のダンジョンが表れて早2か月が経とうとしております。まだ世界各国でこのダンジョンの情報などは厳重に封鎖されており、内部は謎に包まれておりましたが……いよいよです!』
実況者は力強く、"まいく"に息の音が乗るほどに興奮した様子で、
『いよいよ、ダンジョンの未知のベールが取り除かれようとしています。今日、この日、このエキシビジョンで! あのRENGEがドローンカメラを伴って、アメリカ、ハリウッドに現れた本物のダンジョンに潜る日がやってきたのです!』
そうまくし立てていた。
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