第112話 世界大会本戦当日 その1

6月の初旬。

これまでの予定通り、アメリカのワシントンで世界大会本戦が開かれる運びになった。



『どうも、現地からの実況はお馴染みの私、生帆宇宗なまほうそうが担当しますよ。ヨロシク~~~~!』



>よろ!

>安定の生帆!

>ヨロシク!

>待ってたぜ、この瞬間をよぉ!

>とうとう本戦か!

>日本人の参戦十年以上ぶりだな

>楽しみにしてた!

>もう結果は決まってるようなもんよ



配信コメントは賑やかだった。


現在のワシントンは朝の11時半。

13時間の時差がある日本では真夜中である。

しかし今日のために寝溜めしてきた、徹夜覚悟だ、という人は多いようでいつにも増して視聴者の気合いが感じられる。



『今回の世界大会本戦、見どころは何と言ってもRENGE選手ではありますが……今回の本戦では他にもいろいろな"催し"があるのでそちらも注目したいところです』



>エキシビジョンがあるんだっけ?

>そう。確かチャリティーのやつ

>4月のドラゴン&ダンジョン発生で被害受けたところに寄付するヤツか



『おっ、みなさんご存じのようですね。チャリティイベントがあるそうで、グッズ販売なども行っているようです。現地ではいち早くグッズを確保しようとお客さんが詰めかけていたようです。映像を切り替えてご覧いただきましょう──あぁっと?』



生帆の声によって切り替わったカメラが映し出したのはワシントンの様子……

なのだが、画面に映っている半分くらいの人々がアジア系……いや、日本人だった。



『おいおい、まさかみんなRENGE目当てでワシントンまで飛んできたのか……? とんだファン根性ですね、恐れ入ります』



>いや草

>日本人の方が多く見えるんですがwww

>ここ本当にワシントン?ビッグサイト前だろ?

>日本のオタクどもはグッズ争奪戦に慣れてるからな

>面構えが違う



『なおグッズに関しては各選手の詳細データの載った"パンフレット"や、"選手ポストカード"、個別グッズが発売されている模様です。特に人気な商品は現地販売限定の英語版ポストカードで、RENGE選手のポストカードは英語版だと居眠り写真に差し替えらえているようですね』



>限定品で商売するの悪だろ・・・

>居眠り写真は欲しいなw

>転売される未来しか見えん

>確保できたやつ裏山



『さあそして、肝心の本戦の開幕は現地時間の午後1時からと予定されています。世界各国・各地域の代表8名が1名ずつRTAを行っていく形です。優勝候補はもちろん、言うまでもありませんが……あえて言いましょう。

 我らが日本代表のRENGE、その人です!』



>当然よ!

>寝なければイケるだろ

>今日ばかりは何のトラブルもないことを祈る

>最速を見せてほしいわ

>頼んだぞ、RENGE・・・!




* * *




「……やっぱり、色んな人たちが期待してくれてるんだなって思うと、緊張しちゃうな」



配信を聴きながら、私は世界大会本戦近くの"ばーがーしょっぷ"とやらで大きな"はんばーがー"へと果敢に挑んでいた。

ガブリ。

しかしひと口ではとうてい口に収まり切らない。

やっぱり"あめりかさいず"ってやつは大きいらしい。



「まあ日本代表だしね、当然よ。お姉ちゃんケチャップ付いてる」


「むぐっ」



ナズナにナプキンで口元を拭われる。

どうせまたかぶりつくのだから付いてしまうのに。



「有名人なんだから、いつ誰に見られてもいいようにしておかないとダメよ」


「だからって、口くらい自分で拭けるし」


「お姉ちゃんのお世話は楽しいのよ。子供のお世話してるみたいで」


「えぇ……私の方が姉なのですが」



まあ、ナズナがそれで楽しいならいいんだけど。

しかし大きいな、はんばーがー。

もうひと口いこうとして、しかし配信を私の耳に直接流してくれている"いやほん"の"こーど"が邪魔になる。



……ちょっとくらい外していいかな? えいっ。



「──Seriously !? RENGE is here !?」


「……zzz」


「お姉ちゃんっ! イヤホン外さないでッ!!!」


「……ハッ!」



ズボッと耳の穴に"いやほん"を差し込まれた感覚で目を覚ます。

恐るべし、あめりか。

"いやほん"を外した一瞬のスキを突いて英語が飛んでくるとは!

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