第107話 モスクワ軍事施設にて

「世界最強のドラゴン"キング"とRENGEの直接対決、これは一瞬たりとも見逃すわけにはいかぬ。分かっているな同志諸君」


ロシアにて。

モスクワ中央にある軍事施設、その一角で軍服に身を包んだ男たちが壁面に埋め込まれた6つの大型モニターに食い入るように見入っていた。

モニター内で戦いを繰り広げているのはキング、そしてRENGE。

頭上からのアングルではあるが、高い解像度でその動きを映し出していた。


「これだけの映像データを押さえられているのはわが国だけ! 今後のドラゴン研究、そしてRENGE研究で各国の先を行けるようになる! 座標ズレを考慮した映像補正は怠るなよ、一瞬でもボカしたらクビが飛ぶと思え!」


「ダーッ!」


その少佐の男の指示に、各人がそれぞれの作業へ集中し始める。

少佐は唐突に訪れたその幸運に手汗を握りしめていた。


……まさか、秘密裏にアメリカ衛星軌道上に仕掛けたステルス衛星"ワルキューレ"がこんな風に役立つとは。


ここ数年の軍事費の大半をつぎ込んで開発したワルキューレは、本来は軍事関係施設や大統領の動きの捕捉をするためのものだった。


しかし昨今の情勢を鑑みればRENGEこそが最も注視すべき存在。

ワルキューレの配置を日本上空に変更しようかという案が出ていた……

そんな折に訪れた、千載一遇の好機。


ダンジョンの配信映像だけではRENGE研究には充分でない。

また、利用済みダンジョンに残る魔力反応を探るのも不可能。

エーテル成分が混ざってしまい、純粋な魔力反応を測れないためだ。

だからこそ、地上での戦闘データが必要だった。


「"義勇隊"の準備はどうなっている?」


「さっそく基地を発ったという連絡がありました。およそ90分でハリウッド到着の模様です!」


「よろしい。上手いこと戦闘後処理にかこつけて魔力反応を探らせてもらおうじゃないか」


それまではモニターでRENGEの戦闘記録を付けていよう。

少佐が再びモニターへと視線を戻した……その時だった。


RENGEがキングの懐へと飛び込んで……

そこからの映像が途切れた。


いや、違う。

画面いっぱいが謎の光で包まれたのだ。


「なんだっ……!? 何が起こっているッ!?」


七色に、いや、それ以上にモニターが光り輝く。

キングの姿もRENGEの姿も見えない。




──ピシュゥッ!




モニター本体、そしてそれらに繋がる機器から電気が迸った。




──ピシュッ、バチィッ、バリバリバリ……!




「少佐っ! 各種機器がショートしています!」


「なにぃっ!?」


部下からの報告に慌てて男は機器へと近づいた、が。


「危ないっ!!!」


部下の男のタックルで止められる。

その直後、少佐が触れようとしていた機器が小規模な爆発を起こした。


「くっ、なんだこれは! テロかっ? サイバー攻撃かっ!?」


「分かりません、つい先ほどまではどの機器にも異常はなく……」


「NAZUNAかっ? 相当のハッキング技術があるとの話だったが」


「いえっ、そちらは衛星を動かし始めてからは常時警戒監視中です。対象は学校で大人しく授業を受けていると数分前に確認が取れています」


「ならいったい……まあいい。ワルキューレさえ無事であれば、後ほど映像データは回収可能……」


「しょっ、少佐……!」


「なんだ?」


その顔を真っ青にした部下のひとりは、震える声で、


「ワルキューレが、粉々に……」


「はっ?」


──バチンッ。


その報告の直後、その施設の電気系統すべてがショートし、辺りは真っ暗闇に包まれた。



======

↓続きます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る