第99話 サンタモニカ丘陵大爆発

【↑98話の続き】

本日2話更新しているので、

こちらを先に開いてしまった方は

前話から先にお読みください。


===========




4月18日 21時05分。

アメリカ合衆国カリフォルニア州にて。


戒厳令が敷かれ軍に国道を封鎖されてなお、秘密裏にハリウッドへと近づいてカメラを回す者たちがいた。

彼らはアメリカ新興ニュースメディアであり、主に配信で収益を上げている"ベガス・ウォッチ"。


『御覧ください、このハリウッドの様子を。まるで町が死んでいるように静寂に包まれています。半日ほど前に避難勧告が出されてから人っ子一人見当たりません』


高層ビルの屋上、マイクを持ったキャスターの男が言った。


"天然の毒ガスがサンタモニカ丘陵付近から発生している。そのため付近の住民は至急避難を"というのが国からの説明だった。

しかし、


『我々ベガス・ウォッチは信じません。きっと政府には何か"企み"があるはずなのです』


彼らが売りにしているのはいわゆる"陰謀論"。

隠された真実という言葉にロマンを感じる人間は存外に多く、特にこういう体を張った取材は面白半分で見てくれる視聴者も多い。

現に、


>マジで侵入してやがるlol

>軍にスナイプされるぞ?

>いいぞもっとやれ


配信に寄せられるコメントはそういう層がとてつもなく多い。

もちろん、


>軍が何かをサンタモニカ丘陵に隠しているのは確か

>ハリウッドにあんなデカい貯水池が必要な理由に"ナニカ"が関与しているのは間違いない。ぜひ真実を暴いてほしい:<


そういった"いかにも"なコメントもあるにはあるが。


まあしかし、何が起ころうと起こるまいと、

彼らにとっては封鎖されているハリウッドに入ったというそれだけで十分すぎる話題性ではあったが……


『ここでこれから一帯なにが起こるというのでしょうっ? ハリウッドサインが五色に光って宇宙と交信するのでしょうか、それともUFOの発着がみられるのでしょうか、あるいは軍の秘密兵器によってこのハリウッドが消し飛んでしまうのでしょうか!?』


できることなら何かが起こってほしいと願いながらキャスターはしゃべり続ける。

ちょっとした不可解現象でいいのだ。

謎の光の点滅とか、宙に舞う未確認飛行物体とか。

その正体がたとえ人工衛星や上昇気流で巻き上げられたビニール袋だとしても、何かが映りさえすれば"こじつけ"のしようがある。


『暗闇が町を包む中、サンタモニカ丘陵のハリウッドサインだけが輝いています。さあ、現在時刻は21時10分。まだまだ中継を続けていきます。我々ベガス・ウォッチは例え軍の邪魔が入ろうともカメラを手放すことは──』


──ゴォォォォォンッ!


そのカメラの回る中、

サンタモニカ丘陵が大爆発を起こした。

"HOLLY WOOD"の文字が上空へと吹き飛ばされる。

まるで火山の噴火のごとく。


『……は?』


あぜんと、キャスターはそれらを見上げた。

そして次の瞬間、

その目が、カメラが捉えたのは黄金の両翼を広げた獅子顔の巨大生物。


〔グォォォォォォォオオオン──!〕


怪物その口が開き、天に向かって吼えた。


『──』


キャスター、カメラマンは2人同時にその場で言葉もなく尻もちを着いた。

コメントなんでしようもない。

というか、舌が回らなかった。

遠目から視ただけで気圧されていた。


>!?

>!?

>なんだ!?

>CG、だよな?

>生中継だろ!?

>なにあれ・・・ゴズィラか!?


配信コメントだけが活発に動いていた。

現場のキャスターたちは凍り付いたように動けない。

空から落ちてきたハリウッドサインが暗い町へと降り注ぎ、映画でしか聞いたことのないような破壊音を奏でる。


>これリアル?ホントにリアル!?

>だから生中継だっつってんだろ!

>おい、そこから逃げろ!

>アレが何かは分からんがマジで死ぬぞ!?


『あぁ、あ……あぁっ!!!』


驚愕のあまり大きく開けた口を塞げないまま、ズルズルと手を這わせてキャスターは後ろへ後ろへとさがる。

腰が抜けてまるで立てない様子だった。

怪物がもう一度吼える……

それにキャスターが肩を震わせると同時。


──今度は夜闇を切り裂くような銀色の輝きが瞬いた。


>!?

>!?

>!?

>次は何だよっ!?


カメラが捉えたのは怪物へと掴みかかる──

銀の輝きを放つもう1体の巨大生物。


『おんああっ!? おんおんっ!!!』


驚きの連続で関節の可動範囲を超過したキャスターの顎は外れていた。

しかしそれでもその顎を懸命に動かして、キャスターはその生物を指さす。

カメラマンはその意図を汲み取ってズームする。

カメラが映し出したのは……


『ほはほんっ!?』


>ドラゴン!?

>ドラゴン!?

>はぁっ!?!?!?

>絶滅したはずだろ・・・!?

>ドラゴンって、オイオイオイッ!?


コメント欄の騒ぎが収まる間もなく、動きがある。

銀のドラゴンが何をするでもなく、獅子顔の怪物の頭が"凹んだ"。

かと思えばその怪物は隕石のごとく、サンタモニカ丘陵へと墜落した。


>・・・!?!?!?

>はっ!?

>ワッツ?

>誰か俺に説明をしてくれないか???

>怪物が地面に落下したとしか・・・

>何が何だかわからねぇっ!

>ん?あれ?あのドラゴンの頭の上に何か乗ってね・・・?

>なんか今、ドラゴンの頭に変な影が・・・


カメラマンもその"小さな影"が気になったのだろう、さらにズームされる。

その銀のドラゴンの頭の上に動く影。

それは1人の少女……


『んあぁぁぁぁぁっ!? へんへっ!? へんへっ!!!』


黒髪をたなびかせドラゴンの頭上に立つのは、RENGE。

世界最強の少女がその右拳から煙を上げ、内股気味に腰を落として佇んでいた。

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