第98話 王者の目覚め
エクスカリバー・フルエディションの弾丸は一筋の光線となって、キングを閉じ込めている氷塊を貫いた。
そしてその内側で弾が暴虐の限りを尽くす。
ソレはキングの魔力に反応し、乱反射するように縦横無尽に駆け巡った。
氷塊へとヒビが入る。
「やったかっ!?」
U.S.T.メンバーのひとりが叫ぶ。
リーダーは思わず額を押さえた。
「おいお前、それはいわゆるフラグ──」
そう言い終わる間も無かった。
氷が砕ける。
そして、その中に封じられていた"キング"がその翼を広げた。
「リーダー! 対象に傷ひとつついていませんっ!」
「……! ウソだろ、半世紀前はただのエクスカリバーで捕獲ができたという話だったはずじゃっ!?」
キングが紅い双眸を見開き、その獅子の顔を下へと向ける。
その顔に浮かぶ感情は無粋な目覚ましへの苛立ちでも、力なき者に対する憐憫でもない。
路上の蟻を眺めるような無関心だった。
「くっ……ダメだ、撤退ッ! 撤退──ッ!!!」
このまま作戦を遂行したところで万にひとつも勝ち目はない。
リーダーはそう悟った。
ゆえに現在の最優先事項はこの情報を持ち帰ること、それに尽きる。
だが、
「とうとう僕の出番、というわけですかね」
愛銃のマグナムを片手に、Swallowが1歩前に出た。
「お前っ、正気かっ!?」
「正気か正気じゃないかなんてささいな問題ですよ」
言葉と行動とは裏腹に、Swallowの顔は冷や汗でビッショリと濡れていた。
「僕がここに呼ばれたのはこの時のためでしょう? 何もせずには帰れないな」
「バカ……実物を前にして分かったろっ!? これは人間が相手にできるような相手じゃないっ!」
「僕は人間なんてとうにヤめてるつもりですよ」
直後、Swallowの身に纏う魔力が変質する。
分厚く濃密なオーラがその脚、マグナム、目を覆っていた。
「身体強化魔法には2つの種類がある。ひとつは従来の内側の魔力を練り上げるもの、もうひとつはRENGEが考案した魔力の外装を纏うもの……才能ある者たちはその2つは両立できる。そしてさらに、一握りの天才はその先を視る」
Swallowはマグナムのシリンダーを開くと、そこへ胸ポケットから取り出した濃密な魔力の込められた弾を装填する。
「身体強化魔法の最奥……"
マグナムのハンマーを下ろし、キングへと狙いを付けてSwallowは不敵に微笑んで見せた。
「今の僕の身体強化魔法は40倍に迫る。15倍が限界とされていた人間のソレを遥かに超えて、ね」
ズドンッ、ズドンッ!
腹の底に響く2つの重い発砲音。
辺りに衝撃波をまき散らし、マグナムの一撃がキング目掛けて一直線に飛んでいく……
だけではない。
「真正面からの攻撃が通じると思っているほど、僕はドラゴンをナメちゃいないさ」
その場の誰もSwallowの姿をとらえることができていなかった。
Swallowはキングの真後ろ、頭の後ろへと一瞬で移動していた。
先ほどまで彼の立っていた場所には大きな穴。
2つに聞こえた発砲音のうちのひとつは、Swallowが思い切り地面を蹴って飛び上がった足音だった。
そして、マグナムはキングの後頭部へと向けられる。
「喰らいなドラゴン! これが今のアメリカ最強だ──ッ!!!」
スガンッ!!!
Swallowはマグナムへと込める魔力をさらに練り上げ、自身の限界を越えた一撃を放つ。
それはHELLモードダンジョン10階層付近に現れる、堅さならばドラゴン以上と言わしめる"メテオゴーレム"すらもたちまちに屠るほどの威力。
──ポトリ。
その弾はキングの体に触れるや否や、終わる線香花火のように力を失って落ちた。
「は……?」
キングは一瞥たりともしなかった。
その翼を大きく広げ、羽ばたかせた。
轟音が響く。
巻き起こった疾風でSwallow、そしてU.S.T.メンバーたちが吹き飛ばされた。
「ぐがッ!?」
優に数十メートル以上は水平に飛ばされSwallowは、壁に叩きつけられつつも天井を見つめ、呟いた。
「オワった……」
天井には真四角をした大きな穴。
そこから差し込む月光。
それが示すのはつまり、
「あのバケモノが、地上に出ちまった……!」
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長くなってしまったので2話に分割してます。
続きはすぐ投稿します↓
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