第88話 アジア予選実況 その4

~RENGEの視点~


焦った焦った。

だいぶ焦ってしまったよ。


「本当ならもっと早く起きれるハズだったんですけどね……?」


AKIHOさんたちを前に、ついつい照れて言い訳がちになってしまう。

だってたぶん私、相当熟睡してたんだろうし。

どれだけ速く走っても全然先頭集団のAKIHOさんたちに追いつけなかったから、もしかしたらすでに"ごーる"されてるかもとヒヤヒヤものだったのだ。


だから焦って光速も超えてしまったし、

そしたら周りの景色と自分の見る景色との間に変に時間差が生まれてしまって感覚がおかしくなって変な光線にぶつかってしまったし、

ついでにこの階層にたどり着くまでの記憶や時系列もあいまいだ。


これじゃあウッカリ者と思われても仕方ないよね……。


「なんだと、私のブレスを、コイツ……!」


私の後ろから聴き慣れない声がする。

ん?

と思って振り返ろうとすると、AKIHOさんがダッシュで近づいてきて私の両耳をガシッと塞いできた。


「ダメよレンゲちゃんっ! LiU選手が話してるのは韓国語! レンゲちゃん寝ちゃうわ!」


「あ、AKIHOさん……落ち着いて落ち着いて」


「ダメ、今レンゲちゃんが寝ちゃったらさすがに危険よ……!」


「大丈夫ですから、寝ませんよ」


私はAKIHOさんの両手に手を添える。


「そのための"寝溜め"だったんですから」


私はサッとAKIHOさんの手から離れると、そのまま後ろの韓国の代表選手に向き直る。

うわ、すごい。

銀髪の女の子だ。

リウさんっていうんだっけ?

すごく綺麗。

美少女っていうのかな、こんなお人形さんみたいな人が実際に居るんだなぁ。


「"はろー"!!!」


まあ何はともあれまずは挨拶。

言語は分からずとも挨拶は大事だから。


「ハローだと……? なんだコイツ、ナメているのか……?」


「"あいむふぁいん、せんきゅー"」


「よし、ナメてるんだな?」


いっさいの予備動作なく、リウ選手が広げた銀色の翼からひと筋の光線が私目掛けて発射された。

ん? 翼?


「どうして翼が生えているの???」


私はその光線を、自分の手前に発生させた魔力空間ポケットへと吸い込みつつ首を傾げた。

あの翼も剣とか銃みたいに、何かの装備だったりするのかな?


「チッ、この程度じゃRENGEには効かないってわけか……なら、直接ブチ当ててやろうッ!」


リウ選手が外国語で呟きつつ接近してくる。

ふふ。外国語で、だ。

いやあ、それにしてもすごいなぁ。

30時間も寝ると未知の言語を聞いてもまったく睡魔が襲ってこない。

ホントにすごいことだよ、これ!


私はリウ選手が高速で繰り出してくる突き、蹴り、尻尾の振り回しを捌きつつ感動してしまう。

世界大会本戦もしっかり寝て臨もう……

……って、あれ?


「リウ選手、さっきまで尻尾なんて生えてましたっけ?」


「クソッ、不意打ちもダメかっ!? RENGE、どうしてこの速度についてこれる……人間じゃ到達不能領域のハズだろうが!」


気付けばリウ選手の体は翼、尻尾が生え、その額から角のようなものまで生えていた。

加えて体中のアチコチが銀色に染まりつつある。

まあ国が違い文化も違えばそういうこともあるのかもしれない (?)

それよりも、


「あの、リウ選手……日本語だと通じないかもしれないですけど、RTAの大会って実は選手が他の選手に暴力を振るっちゃいけないっていう"るーる"があるんですよ。ダメ、パンチ、バーン! ダメ絶対! おーけー?」


「……フン、これがRENGEか。どうりで政府が世界への牽制のため、私を送り込もうと考えたわけだ」


「あ、返事が返ってきた、外国語だけど……通じてるのかな? "あいむふぁいんせんきゅー"!」


「RENGE、お前は危険だ。この場で殺す……」


「私の名前を何回も呼んでくれてる……もしかして仲良くなりたいだけ? これまでの攻撃もじゃれついているだけだったりとか……」


「誇れRENGE、お前の相手をするのにこの体のままではいささか手に余ると認めよう」


リウ選手は何事かを呟くと、自らの首へと手を突き刺した。

ブシュリ、と果物が潰れるような音が響く。

しかし出血はない。

それどころか直後、

リウ選手を中心としてこれまで感じたことのないほどの大きく異質な魔力が湧き出した。


「首輪を外した。これでもう何の縛りもありはしない。政府の思惑など知ったことか」


リウ選手は不敵な笑みを向け、そしてその体を膨張させていく。


「この程度の制御で"我ら"を保有してるとは笑わせる。全くの逆だ。我々はあえて捕まってやったのさ。貴様らがまた数を増やすのを待つために」


「え、体大丈夫ですかっ? 膨らんで……なんかいろいろと生えてきてますけどっ!?」


「半世紀待った。もう充分だろう。我が先駆けとなりこの世界に再び混沌をもたらしてくれる……!」


リウ選手の体に亀裂が入り、そして爆発するように真っ白な輝きを放った。

その光が収まったあとその場に居たのは……

光沢のある銀の鱗を持ち、赤い瞳を邪悪に爛々ときらめかせるドラゴン。


「り、リウ選手がドラゴンになっちゃった……!?」


「気を付けてレンゲちゃんっ! ソイツ、私たちを殺そうと襲ってきたわっ!」


AKIHOさんたちが後ろから、しかも結構遠くに離れてこちらをうかがっていた。


「それに……あの姿、やっぱり。私の考えが正しければそのドラゴンは教科書に載るくらい有名なヤツだよ。この世界に現れて、討伐されないままどこかへ消えた最強の1体……"光滅竜こうめつりゅう"」


「こ、こーめつりゅう……!? 私、どうしたらっ!?」


「とりあえずソイツに何かされたら私たちはレンゲちゃん以外全員死んじゃうから……先手必勝でお願いっ!」


えっ。

AKIHOさんたちが──

死んじゃうっ!?


「は、はいっ! じゃあ──倒しましたっ!」


死んじゃうなんてそんなのは絶対ダメだから、私はドラゴン (元リウ選手?)を地面へと倒れさせた。

私は直接手を触れていない。

しかし直後遅れて響くのは魔力爆発の爆音。

ドラゴンの四肢が弾け、煙を上げて宙に舞っていた。


「グッ、グォォォオッ!?」


ドラゴンが悲鳴を上げた。

相当痛むのだろう……

四肢が舞っているのだから当然だ。


「ご、ごめんなさいドラゴンさん。AKIHOさんたちのことを考えたら、焦って力の調節が上手くいかなくて……」


「なんだっ、何が起こった……いや、そうじゃない! それは分かっている! だが、貴様……なぜ"我の魔力"を用いて魔力爆発を起こせた……!?」


ギロリ。

ドラゴンがその紅い瞳で私に問いかけてくる。

……何を?

それは分からない。

外国語だから。

そんなことよりも、


「本物のドラゴン、なんだよね? でもリウ選手でもあるんだよね? じゃあこのままトドメってワケには……いかないよね?」


いったい私、この後どうすればいいんだろう?




* * *




~実況者生帆なまほの視点~


「んー……何か電気系統のトラブルが起こっている模様です。10階層地点でRENGE選手の姿がワープしたかのように消えたかと思ったら、11階から19階層までに設置してあった固定カメラが全て壊れてしまった模様ですね。たぶんRENGE選手の移動が高速過ぎたのだと思います」


>RENGEェ・・・

>RENGEおまえ・・・

>起きたと思ったらコレかよ!

>破壊神で草

>毎回何かしらトラブルを起こすな、この子w


「しかし色々と気になりますね。カメラが消える直前、19階層でLiU選手の翼らしき装備が輝いたように見えましたが、そもそもアレはいったい……? そしてRENGE選手やAKIHO選手たちが揃って19階層から出てこないのはいったいどういうことでしょう……?」


>まあ便りが無いのは元気な証拠というが・・・

>撮れ高仕事して

>カメラ復旧マダー?

>はよRENGE映して

>RENGE、1位取るって信じてるぞー!


生帆は実況者として繋ぎのために他の国の選手たちの状況を解説していく。

その傍ら、LiU選手のあの銀の翼、そして光には覚えがある気がする……

と考えたが結局思い出すことはなかったのだった。

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