第86話 アジア予選実況 その2
~実況者:
「カウント10から始まり選手たちはスタートの準備を始めます! 果たして勝つのはどの国か、5、4、3、2、1──スタートですッ!」
ダンジョン入り口の部屋で構えていた走者たちが一斉に地面を蹴り出した。
さすがは各国の代表選手なだけあってその技術はみな惚れ惚れするほどに高い。
しかし、やはりその中でも抜きん出ていたのが日本代表、そして韓国代表たちだった。
「スタートダッシュから魔力爆発の連続使用です! やはり強かった日本と韓国! 3位4位をグングンと引き離していきます!」
映像内ではFeiFei・ShanShanがグルグルと回って進むプロペラ走法で先頭を、その後ろ数メートルに一列となった韓国代表、さらにその後ろをピタリと付いてうかがうようにAKIHOと、一団となって走っている。
なおHARDモードダンジョン内の通常モンスターはもはや障害にすらなっていない模様だ。
先頭を行くFeiShan姉妹がそれぞれの手に持つ刀剣の回転を前に、ただただ両断されていく。
>コイツら暴走列車過ぎるwww
>もはやHARDがヌルゲー過ぎて草
>パワーバランス崩壊しちゃってるよぉ
>来年からはベリハかヘルでヨロ
>ヘルはRENGEくらいしか無理っしょw
>というかRENGEは?
「RENGE選手の様子は……あっ、入り口の様子が見えましたね」
ダンジョン入り口の様子が配信画面の右上にワイプで切り抜かれる。
未だアイマスクをしたまま寝っ転がっており、その口がムニャムニャと動いていた。
『……zzz なずなぁ、今日のごはん……あめりか産和牛すてーきだょ……zzz』
「RENGE選手は寝言を言っている模様です。まだ起きる気配はありません!」
>和牛か。良いモノ喰えるようになったじゃねーか泣
>なんかめでたいことでもあったのかな?
>夢の中で幸せそうなのでOKです
>はよスタートしろwww
>起きない展開とかないですよね?
>まあ最悪寝ながら動くだろ、また
配信コメント欄のRENGEへの信用は未だ高い。
しかし生帆には気にかかっていることがあった。
その気がかりについて配信スタッフに情報を集めてもらっていたところだったが……
ちょうどソレが紙で手渡された。
「RENGEについて追加情報がやってまいりました! 本日の会場入りの際、RENGEはすでに眠りに就いた状態だったそうです!」
>ん?
>は?
>眠った状態だったってどゆこと?
>まさか寝ながら歩いて会場まで来たってわけ?
>んなバカなwww
「なんでも会場とダンジョンの入り口へはAKIHO選手が眠っていたRENGE選手を背負って来ていたとの現地目撃情報があった模様です。つまり今日一日誰もRENGE選手が目を覚ましているところを目撃した人は居ない……ということでしょうか」
生帆は自分でそこまで言って気が付いた。
……そうだ、これは日本予選の時とは明らかに違う。
日本予選の時のRENGEはスタートと同時に眠りに就いていた。
つまり、"ゴールをする"という心構えがあった上で睡眠状態に陥っていたのだ。
しかし、今回は違う。
RENGEはずっと寝ている。
ならば会場に入ったことすら"自覚していない"だろう。
ましてやすでにアジア予選がスタートしていることすらも。
……おいおい、本当にコレ大丈夫か?
そんな状況で今回のアジア予選でも"眠りながらゴールを目指す"ことが可能なのか?
生帆が一抹の不安を感じていたところで、
「──おっと! 先頭集団で動きがあった模様です!」
ワイプ外、配信メイン画面において一列で走っていた韓国代表たち、その最後尾から銀の髪をたなびかせてLiUが飛び出して来ていた。
* * *
~AKIHO視点~
「……ハァ。もういい。失せろ」
AKIHOの前を行く韓国代表の列、その最後尾からそんな低いドスの利いた声が響く。
LiUのものだ。
彼女がその言葉を向けたのはしかし、AKIHOやFeiShan姉妹に対してではない。
「ジャマだ」
LiUは自らの目の前……
韓国代表の1人の肩を鷲掴みにする。
「なっ……!? おいLiU! この態勢で20階まで行くという話だったろう!? 勝手なマネは、」
「黙れ人間ふぜいが。私に指図するな」
LiUが脚に力を込め、直後。
魔力爆発とはまた違う異質な力を放ち前方へ大きく飛び出した。
自らの前を走る同じ韓国代表走者たちを弾き飛ばして。
「うわっ……無茶苦茶なことするなぁっ!?」
その速度はおよそ人間が出しているとは思えない、音速に匹敵するほどのもの。
LiUの背中はAKIHOを置いて曲がり角の先へと一瞬で消える。
しかし、
「まあ、レンゲちゃんほどの速度ではないかな」
AKIHOは体に纏う魔力をさらに増やす。
魔力操作、身体強化魔法17倍。
魔力爆発準備OK。
──
衝撃波を生む速度で、AKIHOもまた階層に続く道を駆け抜ける。
曲がり角もロスを極力減らしたターンでスムーズに。
すぐに先駆けしていたLiUへと追いついた。
「アイヤー、見てよオネーチャンAKIHOも来たヨ。さすがだネ!」
「AKIHOさんだもん、当然だよフェイフェイ」
LiUが走る手前には未だにFeiShan姉妹の姿。
依然としてトップをひた走っていた。
「……!? なぜだ、何故この双子を抜けない……!? それにどういうことだ、なぜさっき置き去りにしたヤツが今の私に追いつける……!?」
LiUが信じられないようなものでも見るかのような目で見てくる。
どうやらLiUはAKIHOたち程度が相手なら容易く大差をつけられるとでも考えていたのだろうか?
……だとしたらなんとも、ナメられたものだ。
「日本のRTA走者が"RENGEちゃんかそれ以外か"だなんて呼ばせる気はないのよ、私たちは!」
AKIHOはさらに自分の内へと力を込める。
そして略式詠唱・身体強化。
これはRENGEに教わった体の外側に纏う身体強化に加え、従来通りの自分の内側から強化するエンハンス2つを混ぜ合わせたAKIHOオリジナルの身体強化魔法だ。
──これによってAKIHOが出せる速度は音速を軽く越える。
ひと足でLiUを抜き切った。
「なっ……!?」
驚きに表情を歪めるLiUを後ろに置き去りに、AKIHOはそのままFeiShan姉妹を差し切ろうとして、
「でも私たちは抜けないヨ、AKIHO!」
「そうです、抜かせませんっ!」
FeiShan姉妹はAKIHOが速度を上げた分だけ急加速してみせる。
その2人の新たなプロペラ走法は、後ろから迫る魔力の強さを追い風にして速度を上げる走りに進化していた。
「クッ……!? 待てっ!!!」
LiUが後ろから追い縋る。
しかし、AKIHOたちはその差をどんどんと確かなものへと広げていく。
「なんだ、お前たちは……! ただの人間が、なぜ……!」
──RTA開始から4分。
ダンジョン地下18階にて。
珍しく長い直線のみで構成されるフロア。
そこで明らかになったのは3位AKIHOと4位LiUの差、およそ300メートルという事実。
それはよほどのことがなければここから30階までに巻き返すのが困難だろうと言われる距離だった。
「ふざ……けるなぁッ! こんな結果認めんぞッ!!!」
LiUのその背から、銀に輝く翼が生える。
同時にその体はこれまで以上の加速を見せ、AKIHOたちへと迫った。
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