第80話 ドラゴンと戦ってみた その4

「まさかまさかですよ。未来なんて見えるわけないです」


AKIHOさんの言葉に、私は笑って答える。


「ただ、AKIHOさんたちとカメレオンの動きを見ていたらおぼろげに『マズいな』って思えてきて、『あ、1秒後にFeiFeiちゃんたちがあそこに飛んで攻撃を仕掛けようとして、でも逆にカメレオンがそれに合わせて反撃してくるな』っていうのが何となく分かったので先回りしただけですよー」


「未来視アル! それが未来視じゃなくてなんなのネ!?」


FeiFeiちゃんが叫ぶ。

ShanShanちゃんもウンウン頷いて、


「すごいなぁ、RENGEちゃんは未来まで読んじゃうんだぁ……!」


頬を染めウキウキとしたように私の目を覗き込んで来る。

いやいやいや。


「ほ、ほんとに未来なんて読んでないよっ? そんなことができたらスーパーの特別タイムセールの時間を読んで買いに行ってるもん」


「例えだとしても、もうちょっと良い使い方あると思うけどな……?」


AKIHOさんにツッコまれる。

とにかく、別に未来視なんかではないのだ。


「そ、それよりも3人ともっ! カメレオンがまだ生きてますよっ?」


部屋の奥、先ほど私の消毒弾で倒れていたカメレオンが復活を果たしていた。

舌も再生し、元通りになっている。


「また私は後ろで見てますから、3人ともがんばってくださいっ」


「え、死んでない……? そっかレンゲちゃん、私たちのために手加減してくれてたんだね。ありがとう」


「えへ……あ、でも帰りの時間もありますから、もう1時間もないですよっ」


「うん。分かってる。もらったチャンスは最大限活かさせてもらうっ!」


AKIHOさんたちはそうして再びカメレオンへと向かっていった。

今度はカメレオンの作戦を警戒して、もっと慎重に、そして先ほどよりも効率よく追い詰めていく。

しかし。

やはり一筋縄ではいかないようで、AKIHOさんがカメレオンの舌に足を掬われる。


「あっ!? マズい!」


FeiFeiちゃんたちが急いでAKIHOさんたちの救援へと向かった。

私もまた消毒銃を構えて、


「アッチとソッチと……コッチっ!」


今はまだ何もいない天井、壁、床へと消毒弾を撃ち込んだ。

するとやはり予想通り、カメレオンは地面に倒れるAKIHOさんに向けてではなく、天井へと貼り付くように飛び上がった。


……やっぱりね。


カメレオンの狙いは私だ。

AKIHOさんを助けるために動く私のスキを突こうとしたんだろう。

でも、あらかじめ私の放っていた1発目の消毒弾がその翼を撃ち抜いた。

カメレオンは態勢を崩し壁際へ……


だが、

そこへとまたもやあらかじめ撃っていた2発目の消毒弾が先に壁に当たり、跳弾してカメレオンの胴体を撃ち抜いた。

カメレオンは吹き飛ばされて地面へ。

辛うじて着地の姿勢を取ろうとする……


……が、しかし。

さらにまた先回りして撃ち込んでいた最後の消毒弾が着地直前のカメレオンの脚を撃ち抜いた。

カメレオンは地面に倒れ込む。


よしよし。

制圧完了だね。


「AKIHOさん、大丈夫ですか~?」


「「「いや、未来視スゴすぎッ!!!」」」


「えぇっ!? いやだから未来視じゃないですっ!」


AKIHOさんの元へと駆け寄りつつ、私は否定する。

未来なんて読めるわけじゃない。

ただ何となくモンスターの次の行動が分かってしまうだけなのだ。


「ま、まあ未来視かどうかはともかく……ありがとねレンゲちゃん。今度は私が助けられちゃった」


「いえいえ。これがクリスマスの"ぷれぜんと"なんですから、いくらでもお付き合いしますよ」


AKIHOさんに手を差し伸べて、立たせてあげる。


「AKIHOさん、この前よりすごく動きが良くなっていますよね? すごいと思います。たくさんがんばっているんだろうなって。だから私も私のできる限りAKIHOさんを応援したいんです」


「レンゲちゃん……」


「あっ、ちょっとすみません」


私はAKIHOさんをギュッと。

自分の方へと抱き寄せた。


「っ!? レンゲちゃんっ!?」


「えーっ!? ごちそうさまですっ!」


「オネーチャン、テンションおかしいヨ?」


AKIHOさん、ShanShanちゃん、FeiFeiちゃんと三者三様の反応があるが……

直後、


──スバッと。


AKIHOさんが先ほどまで立っていた場所に鋭いナニカが突き立っていた。

飛んできたそれはどうやらカメレオンの牙らしい。

受けた傷を再生しながら私たちの不意を突こうとしたんだろう。

でも、


「おぼろげに牙が飛んでくる"映像"が頭をよぎったので牙が飛んでくると思ったんですよ」


「……あ、ありがとう。それにしてもこれ、未来視じゃなかったら本当に何なのかしら……?」


AKIHOさんはそう言って困ったように笑う。

それに対して、


『──姉のそれは私もまだ研究途中ではありますが、姉のそれは未来視ではなく"既視感応型無意識による現象波捕捉とそのイメージ化"によるものだというのが私の考えです』


"すぴーかー"から難解なナズナの言葉が聞こえた。

"きしかんのーがた"……?

なんだろう、それ。

そして私は実の妹にいったいどんな研究対象とされているのだろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る