第79話 ドラゴンと戦ってみた その3
これから相手にするドラゴンの呼び名は推定で"カメレオン"に決定した。
ナズナに調べてもらえばそのドラゴンの名前も分かるだろうけど、たぶん聞いても私、覚えられないし……。
カメレオンでいいや、となった。
「では行きましょうっ」
そう言って私が拳を天に突き上げると、
「えっ、ちょっと待って?」
AKIHOさんたち私以外の3人は再び座り込んで顔を突き合わせていた。
「えっと、みなさん何を……?」
「作戦会議だよ」
当然のようにAKIHOさんが言う。
「これからドラゴンとの対決なんだから、万全を期さないと」
「な、なるほど……」
自由奔放な性格のFeiFeiちゃんをShanShanちゃんが押さえつけ、3人は膝を突き合わせて作戦を詰めていた。
そっか。
普通はこうやって対策を練るんだ。
……もしかしたら私も、こういう作戦会議から得られることが何かあるかも?
近くに座りつつ、邪魔しないように聞き耳を立てさせてもらう。
ふんふん。
カメレオンは巨体で素早いから地上で一塊になっているのは危ない、と。
FeiFeiちゃんたちは宙から、AKIHOさんは地上からそれぞれまずは観察に徹して……
いけそうと思ったら"さいん"を出して、攻撃中は互いに"ふぉろー"をし合……
「……zzz」
「zzz……zzz……」
「zzz……zzz……zzz……」
「レンゲちゃん? 起きてー?」
「……ハッ!」
目を開けると、いつの間にか他の3人は立ち上がっていた。
「あれっ、さ、作戦会議はっ?」
「さっき終わったよ。お待たせしちゃったね」
「そ、そうでしたか……」
私はまたいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
勉強させてもらおうと思ったのに……。
「はぁ……」
「レンゲちゃん、大丈夫?」
「あっ、ごめんなさい。なんともないですっ!」
こんな落ち込んではいられない。
今日のこのドラゴン討伐は私からみんなへのクリスマスの"ぷれぜんと"なんだし、動画撮影のお仕事も兼ねているのだから。
私は腰に差していた"消毒銃"を抜いて、しっかりと調整する。
「みなさんが危険な時は任せてください。私がしっかりお守りしますのでっ!」
私たちはそうして、50階の最奥へと向かった。
* * *
いつも通り、そのカメレオンは階層最奥の広い部屋へ居た。
天井も高く、20メートルはある。
ダンジョン施設の構造はどこも同じなのかは分からないけど、50・60・70・80・85・90・95・100階の最奥の部屋が広く取られている。
そしてその中央に"巨大"なモンスターが現れる仕様だ。
中央で丸まって寝ていたそのカメレオンが眼を開く。
そしてその状態を起こした。
「これが、ドラゴン……!」
AKIHOさんが震える声で呟いた。
FeiFeiちゃんたちは圧倒されているのか、目を見開いて固まっている。
上体だけで優に私たちの身長の3倍はあるのだから仕方ない。
……私も最初に見た時はビックリしたもんなぁ。
竜太郎の方が大きいとはいえ、ね。
「……2人とも、作戦通りに!」
AKIHOさんの掛け声で、3人が動き始める。
どうやら地上と空中両方からカメレオンを攻めようという作戦らしい。
「行くよッ!」
AKIHOさんが地面を強く蹴り出した。
1カ月前よりも格段にスムーズな魔力爆発が起こる。
またそれと同時に魔力を外側に纏っての肉体強化にも成功していた。
AKIHOさんを迎え撃つようにカメレオンが舌を飛ばすように突き出すが、
「問題なしッ!」
AKIHOさんはしっかりと見切ってそれらを避けた。
速度を見るに、恐らく肉体強化の倍率としては10倍近く出せていそうだ。
そのまま先陣を駆ける。
「私たちも行くヨ、オネーチャン!」
「ウン! やってやろうフェイフェイ!」
AKIHOさんがカメレオンの意識を向けている間、2人は回転して遠心力を蓄えていた。
そして、
「「アイヤーーーッ!!!」」
2人同時に魔力爆発を起こして宙高くに浮いたかと思えば、"どろーん"のごとく素早く宙を舞う。
カメレオンの視線を翻弄するようにその周囲を旋回した。
──そこからの連携攻撃は卓越したものだった。
AKIHOさんが地上から足を狙って攻撃をしている間は空中からFeiFeiちゃんたちがカメレオンの気を引き、その逆もまたしかり。
AKIHOさんたちの作戦が機能してカメレオンを圧倒していく……
そういう風に一見すれば見えた。
でも……
「あ、コレまずいかも」
私は消毒銃を抜く。
安全装置解除。
魔力充填100%。
照準合致。
「えいっ」
消毒弾を放つ。
私が狙いを定めたその先には今はまだ何もない。
だが、
「この一撃で仕留めるネ!」
AKIHOさんの足元への攻撃にたまらず伏せったカメレオンに対し、FeiFeiちゃんたちが落下の速度を利用して攻撃を仕掛けるその瞬間。
カメレオンの口が開く。
AKIHOさんたちが優勢に見えていたのはカメレオンの作戦だ。
FeiFeiちゃんたちは誘い込まれていた。
カメレオンはその変幻自在の舌をFeiFeiちゃんたちへと伸ばす──
──が、しかし。
私があらかじめ放っていた消毒弾がその舌を撃ち抜いた。
カメレオンが後ろにのけ反り倒れる。
「「「えっ!?」」」
3人が驚きにこちらを振り向いてきた。
えっ?
「い、今の手を出しちゃダメだったかな……?」
AKIHOさんたちは全員私の近くへと戻ってくる。
「RENGE、さっきの助かったヨ」
「ありがとうRENGEちゃん。ただ……」
FeiFei・ShanShanちゃんたちがまじまじと私の手に持つ消毒銃を見る。
「今の、いったいどうやったネ? あまりにも舌が伸びてきたのと同時に弾飛んできたヨ……?」
「え、どうやった、と言われても……」
上手く説明できる気がしないんだよね。
また下手って言われちゃうかもしれないけど、
「カメレオンが"そう動く"から、私はあらかじめそれに合わせて撃ってただけなの……」
「「…………」」
2人は示し合わせたように黙り込んでしまう。
「え、未来視?」
AKIHOさんはひとり、『私ならやりかねない』とでも言いたげに目を細めて呟いた。
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