第77話 ドラゴンと戦ってみた その1
クリスマス・イブ、土曜日の正午。
今日はAKIHOさんによってこの秋津ダンジョン管理施設は貸し切ってもらうことになっていた。
「「「レンゲちゃんっ、"めりーくりすます"っ!」」」
「えぇっ!?」
綺麗なリボンのついた袋が3つ私の前に差し出された。
「私たちからのクリスマスプレゼントだよ、レンゲちゃん」
「私のはお菓子詰め合わせネ。たくさん食べて欲しいヨ!」
「私はRENGEちゃんに合いそうな色付きリップ……気に入ってくれると嬉しいなぁ」
AKIHOさん、それにFeiFeiちゃんとShanShanちゃんは口々にそう言って私の手にその"ぷれぜんと"を載せてくる。
「えっ、えっ? これ……いいのっ?」
「いいに決まってるヨ! だって今日はRENGEに沢山お世話になるからネ!」
FeiFeiが胸を張って答える。
ちなみに今日の予定は以前にAKIHOさんから要望のあったドラゴンとの戦闘をしに行くこと。
FeiFeiちゃんたち姉妹がいるのは、AKIHOさんは『自分だけ抜け駆けするのはフェアじゃないから』とのことで、2人のことも誘ってくれていたからだ。
「そうそう。私はレンゲちゃんに普段からお世話になってるし、その分も込めてね」
AKIHOさんが渡してくれた"ぷれぜんと"はなんだかひと際重たい。
なにかすごいものが入ってる気がするよ……!?
私はそんなに特別なことを3人へとできているつもりもなかったから、なんだか少し気が引けるけど、
「3人とも、ありがとうございます……! 私、ナズナ以外に"ぷれぜんと"を貰ったのって初めてですっ!」
これまでは毎年ナズナと些細なモノを贈り合うくらいだったからすごく嬉しい。
「あっ、ナズナちゃんにも用意してるんだけど、今日は……」
『ありがとうございます、AKIHOさん』
ダンジョン入り口の固定"すぴーかー"から声が聞こえる。
事務所で控えているナズナだ。
『私は今、動画撮影の準備中ですので……プレゼントは後でありがたくいただきますね』
「うん、分かった。じゃあレンゲちゃんに預けておこうかな」
「お預かりしますっ。ナズナにも"ぷれぜんと"、ありがとうございますっ!」
私は"ぷれぜんと"をまとめて手に持つと、魔力を高速回転させてできる
『今日中には帰って来れるようにね、お姉ちゃん』
「うん」
ナズナの声に、私は"撮影用どろーん"に向けて手を振って答える。
『行き帰り4時間、休憩1時間、戦闘2時間の行程表だから忘れないように』
「はーい」
ナズナに返事をしつつ、さっそく私はダンジョン入り口の機械をいじる。
"へるモード"でダンジョンを起動!
「それじゃあさっそく行きましょうか、ダンジョンに!」
「うん。よろしくねレンゲちゃん」
「ヤー! ドラゴンと戦えるの楽しみネ!」
「フェイフェイ、はしゃぎすぎちゃダメだよ?」
"へるモード"ダンジョン地下1階層へと足を踏み入れる。
そうして、小走りに。
「ドラゴンがフロアボスとして出てくるのは50階からです。なのでそこまで走って行きますよー」
「……え、50階?」
AKIHOさんが訊き返してくる。
私は頷く。
「その後は70階と80階、95階と100階にドラゴンが出てきますけど……さすがにそこまでみんなを連れて行くのは時間がかかってしまうなぁと思いまして」
「い、いやいや! 50階でも充分に深いと思うけど……そもそもHELLモードで行き帰り4時間って私たちに可能なのっ? モンスターも出るだろうし……」
「大丈夫ですっ。みなさんは走ってくれているだけで!」
そうこう話している内に、さっそく私たちの進路を塞ぐようにモンスターが現れる。
「ていっ」
正面の1匹に魔力を込めたパンチを当てる。
空気中の魔力へとその波紋が巻き起こった。
〔ピギャッ!?〕
その波紋に当たった他の帽子ゴブリンたちは目耳から血を流し、その場へ倒れた。
よし、排除完了!
「す、すごいネ……! 走るペースまるで落ちてないヨ!」
「さすがRENGEちゃん……!」
FeiFei・ShanShanちゃんたちにどうやら褒められているみたい。
そんなに大したことしてるつもりはなかったけど……
嬉しいな。
張り切って走ろう!
──地下2階層、
「てぇいっ!」
グーで叩く!
排除!
──地下4階層、
「てぇいっ!」
バーンと蹴飛ばす。
排除!
──地下5階層、フロアボス:
「てぇいっ!」
掴んで壁に叩きつけてダーン!
排除!
私はタッタカタッタカと小走りで走り続ける。
そんな調子で地下10階層まで来て──
「「もう無理ぃ~~~!」」
FeiFei・ShanShanちゃんたちが同時に地面に突っ伏した。
「えっ、えぇっ!? 2人ともどうしたのっ!?」
「どっ、どうしたもっ、なにもっ」
FeiFeiちゃんがゼェゼェと激しくお腹を上下に息を切らしながら、
「もっ、もう20分くらいっ、休まずマラソンしてるアルよ~!?」
「フェイフェイもっ、私もっ、マラソンは苦手……なのっ」
どうやら普通に走っているだけでも体力を使い切ってしまったらしい。
たったの20分でっ?
2人ともあんなにRTA速いのにっ?
「典型的な"魔力全振りタイプ"なのね、この2人は」
一方のAKIHOさんはぜんぜん息切れしていないようだ。
「たまにいるのよ。魔力の出力に長けているから、その魔力だけに頼る走者の人。2人も魔力爆発による推進力頼りで走っているようだし……自前の体力は鍛えて来なかったってことね」
なるほど。
確かに魔力だけで飛ぶ分には体力って減らないもんね。
私も山で暮らしているころ、ナズナがトンビに奪われたウサギ肉を取り返すために空を飛んでみたことがあるから分かる。
『お姉ちゃん、そのペースだと2時間で50階層まで行けないよ?』
"すぴーかー"を通してナズナが言う。
確かに。
ここで休憩を入れる予定はなかったからなぁ。
「じゃあ背負うね」
「えっ、ちょっ! 待つネ!?」
「きゃあっ!?」
驚くFeiFeiちゃんたちの声もそこそこに聞き流しつつ、私は2人を両肩に背負う。
ツキノワグマに比べるとなんと持ちやすく軽いことだろう。
「えっと、AKIHOさんは疲れてないですか? AKIHOさんも乗れますけど……」
「わ、私は遠慮しとくね。まだ走れるから」
そういうワケで私は2人を乗せて引き続き走ることになった。
タッタカタッタカ。
──10階のフロアボス:双頭のバジリスク。
「てぇいっ!」
蹴り上げると、バーン!
バジリスクが天井に叩きつけられて絶命する。
「もう何でもアリね……」
AKIHOさんはちょっと困ったように眉を曲げつつ微笑んだ。
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