第73話 U.S.T.戦 その3

~U.S.T.隊員視点~


「おいおい、どんなイカれたジョークだッ!?」


U.S.T.隊長の中年の男は、双眼鏡に映るその光景に声を震わせる。


「あの"アンチマジック・グレネード"は相手が誰だろうが魔力の発生を最低30秒は抑える米軍最新式の近接兵器だぞッ!? ”Angel”とて身体強化魔法は使えないハズ……!」


「だがよ隊長、実際に"Angel"は俺たちの仲間を天高く放り投げた挙句、2発目の"エクスカリバー"もどんな手を使ったか分からねーが打ち落としやがったぜ」


「あ、あり得ん……! 魔力波の計測はどうなってる? "Angel"周囲の魔力状況は確かに0だったかっ!?」


隊長が部屋の中の機器を前にしている隊員に対して聞くと、


「隊長、確かに0でした。あの場で魔力は使えなかったハズです……!」


「じゃあ、いったいどうやって"Angel"は我々の攻撃を凌いだと……」


「……魔力以外の方法によって、としか考えられません……」


「オーマイゴッド、そんなことがあっていいのか……!?」


隊長が頭を押さえていると、


「た、隊長ッ!!!」


スナイパーの隊員の震える声が響く。


「さ、300m先の"Angel"と、スコープ越しに目が合いました……!」


「なんだと、そんなわけ、」


そんなわけない──

もはやこの場に居る誰も、そんな言葉に1オンスほどの重みすら感じられやしない。

RENGEならやりかねない。


「たっ、退避だッ! この部屋は爆破して全ての痕跡を消し去る! 総員──」


隊長が指示を出し切る前だった。

その耳を超高速で飛んできたナニカが掠め、インカムマイクを粉々にする。

それと同時に全長3メートルの"エクスカリバー"ライフルもまた、飛んできたナニカによって大破させられた。


「なっ……」


その場の全員が唖然とする中。

フワリ、と。

地上4階のそのメゾンのベランダに舞い降りたのは──RENGE。


「……!」


思わず"Angel"と口にしかけて、隊長はその言葉を飲み込む。

データによればRENGEは英単語ひと言で眠りに落ちる。

そして……眠りに落ちたあとのRENGEはフルオートで周囲の敵を攻撃する"撃滅モード"に切り替わる。

一歩間違えればこの特務隊は全滅だ。

U.S.T.の初作戦は崖っぷちだった。




* * *




~レンゲ視点~


「……!」


"びーびー弾"を飛ばして来た犯人を追い詰めた。

でもまさか、犯人が全員外国人だったなんて……!

しかも、全員大人だ。


「こんないい歳した人たちが近所の小学生たちを"えあがん"で撃とうとしていたの……!?」


「エアガン?」


一番老け込んでいる犯人が首を傾げた。

マズいっ!


「ちょっと! 喋らないでッ!」


「ッ!?」


私は口に人差し指を当てて「静かにして」と身振り手振りで強めに注意をする。

犯人たち (この部屋にいるのは3人だけみたい)は肩を跳ね上げるようにして驚いていた。

もしかしたら怯えさせてしまっているかもしれない。

でも、必要な注意なのだ。

万が一英語なんかを喋られた日には私は寝てしまう。

その時えあがんで攻撃されてしまったらどうなるか……


「何か一言でも喋ったら、殺しちゃうかも……」


「ッ!!!」


犯人の男たちの顔からサァーッと血の気が引いていく。

あ、もしかして日本語通じてるのかな?

だとしたら相当物騒な呟きをしてしまったかもしれない。

まあでも小学生を撃ってるような人たちだし。

これくらい怖がってもらった方が後々のためかもしれない。

よしっ。

ここはビシッと!


「あなたたちがやってることはとてもいけないことです! いいですか、あなたたちは遊びのつもりでも、万が一"びーびー弾"が目に入ったら失明することもあるんですよっ? そうナズナが言っていました!」


「……?」


「首を傾げてしらばっくれないでください。あなたたちにはこれから沢山叱られてもらいますから!」


学校で配られたプリントの続きにはこうあった。


【もしエアガンを使っている犯人に心当たりのある方は学校までご連絡ください】


つまり、私がこれからすべき行動はひとつ!


「さあ、学校まで行きますよ。ついてきてください。場合によっては親御さんも呼ばれちゃうかもしれませんからね。覚悟してください」


私は3人を連れて神社へと行き、地面に倒れ気絶していた2人の覆面男も担いでナズナの通う小学校へと向かった。

小学校の裏側の入り口で事情を説明すると、職員の方々が戸惑いつつも応接室に通してくれる。

すると6年生の学年主任の先生がやってきて……

目を見開いて私と犯人の男たちを見比べた。


「あ、花丘さん……ご無沙汰してます。さっそくなんですが、この状況はなんなんでしょう……?」


「ご無沙汰しております、先生。"えあがん"の犯人を捕まえましたので連れてきました」


「エアガンの……ああ、あのプリントの!」


学年主任は得心したように頷いて、


「しかしまさか直接連れてきてしまうとは……ありがとうございます。ただねぇ、」


先生は困ったように笑う。


「この人たち、どう見ても中高生には見えないというか……むしろ明らかに中高年が混じっているというか……そもそも日本人じゃないですし、」


「はあ」


「人違いですね、確実に」


「えぇっ!?」


そんなバカな。

だってこの人たちは確かに"えあがん"を持っていたのだ。

そして私に向けて発砲もしてきた。


「先生、でもこの人たちが持っているもの見てください。銃ですよっ」


私は覆面男が私に向けて撃ってきた"えあがん"を先生の前の机に置く。

しかし先生は苦笑して、


「ああ~、まあ銃ではありますね。ただ……区別がつき辛いんですけど、この方たちが持ってるのはエアガンじゃなくてモデルガンなんですよね」


「"もでるがん"?」


「女性はあまり関心がないかもしれないんですけど、モデルガンっていうのはより本物の銃に似せて作られるマニア向けのものでしてね。発砲はできないようになってるんです。一方でエアガンはBB弾を飛ばせる作りになっている代わり、精巧さはあまりない」


先生はその銃を持ち、窓に向かって構えると、


「まあとにかくこうやって狙いを定めてトリガーを引いてもですね、モデルガンの場合は弾は出ないんですよ──」


──パラララララッ!


パリンパリンパリンガシャーーーンッ!!!


弾が出て窓ガラスが割れる。

銃の反動で先生は後ろに倒れる。


「うっ──うわぁぁぁぁぁッ!? 弾が出たぁぁぁぁぁッ!?」


発砲音、破壊音、そして学年主任のその先生の悲鳴を聞きつけて他の先生方が駆けつける。

すべての授業は中断され、生徒たちの間でも大きな騒ぎとなった。

そして翌日の全国ニュースで、


【秋津町の小学校で発砲事件!?】


と大々的に記事になったのだった。

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