第74話 情報量の多さをぶつける戦い、情報戦
~米国ホワイトハウスにて~
「まさか暗殺をミスするとはな」
ワシントンD.C.、ホワイトハウス。
世間が浮かれたクリスマスムードに染まっていく中で、しかしその大統領執務室には沈鬱な空気で満たされていた。
米国大統領は向かいに座る秘密組織UCA (未確認生物・現象統制局)の局長に対して大仰な身振りと共にため息を吐きつつ、
「精鋭のハズのU.S.T.がまさか小学校で現地ポリスの世話になったあげく、ネットニュースにまでさせられるとは……。尻拭いは大変ハードだったよ」
「申し訳ございません、大統領。まさかあのような事態になるとは想定できず……」
「私は君たちがどうしても暗殺が必要だと言うからゴーを出したんだ。こんな体たらくになるくらいなら、ジャパンの警視総監にRENGEの逮捕をリクエストして監獄にぶち込ませればよかったのだ」
「……いいえ、それでは不十分です。RENGEに監獄など無意味でしょう」
「脱獄する可能性があるか? もしそうなったとしても日本政府とRENGEが対立してくれるなら我がアメリカは安泰だ」
「大統領、あなたはまだRENGEの脅威を正しく理解していない」
「なんだと?」
局長は深く息を吸うと、
「RENGEを縛れるものなど、今現在この世のどこにもありません。日本政府は言うまでもなく、もしかすれば我らが切り札のドラゴンでさえもです。それほどの力がアメリカに、世界に向いたならば……今のこの世界秩序は完全に壊滅するでしょう」
「何を馬鹿なことを……」
大統領が一笑に付せようとしたその時、
──ギィ。
大統領の執務室のドアが開いた。
「お邪魔しますわ、大統領」
大人びた流暢な英語で部屋に入ってきたのは、まだ幼い少女だった。
裾長の黒いワンピースに、二つに束ねた長い黒髪。
そしてその背には"ランドセル"。
「な……NAZUNA……!?」
RENGEの妹であるNAZUNA……
その少女が腕を組んで立っていた。
「あら、私のこともご存知で? やっぱりお姉ちゃんの肉親である私にも調べはつけていたわけね。セカンドプランでは私を人質にでも取るつもりだったのかしら」
「い、いったいなぜ君がここに……!? 表の警備たちは何をしているっ!?」
「説明が必要かしら?」
NAZUNAは執務室から一度出ると、どうやら外に立っていたらしい"姉"の手を引いて再び執務室へと帰って来た。
姉、つまり……RENGE。
「ナズナぁ~? ここどこ? 目隠しと耳栓、まだとっちゃダメ……? さっきから色んな人が襲い掛かって来るんだけど……」
「ダメだよ。ヨシヨシ」
NAZUNAは、アイマスクにヘッドホンをさせられたドッキリ直前のような恰好のRENGEの背中を撫でて落ち着けつつ、大統領たちへと冷たいまなざしを送る。
「これでお分かりになりましたね、サー?」
「「……!!!」」
大統領も局長も声を上げることはできない。
万が一英語で自分の声を聞かせたならば、その
「よく覚えておくことです。私の目と耳はどこにでもあるし、私の姉はどこにだって飛んでいける」
「「……!」」
「暗殺者なんてつまらないもの次に送ってきたら、ホワイトハウスが地下にめり込みますよ」
「「……!!!」」
「あ、喋っても大丈夫ですよ。いま姉には何の声も届かないので」
大統領と局長は目を見合わせて、そこでようやく張り詰めさせていた息を吐いた。
そして局長が口を開く。
「……君たちの目的はいったいなんだ?」
「平穏な生活、それだけです」
NAZUNAは即答する。
「私は元々姉を有名にするつもりなんてなかった。姉が配信を通じて自分の力を世のために役立てたいっていうから後押しをしたけれど、でも本当ならその想いを無視して2人でひっそり暮らしていたかった……。あなたたちみたいなのがいずれ現れると知っていたから」
ギロリ。
NAZUNAの眼光が局長を射抜いた。
まだ12歳というのがウソのような迫力に、局長はつい椅子から転げ落ちてしまう……
いや、ただの迫力じゃない。
それは本物の魔力による"圧力"そのものだった。
「NAZANAっ! きょ、局長に何を……!」
「大統領、約束してください」
大統領の言葉をさえぎって、NAZUNAは指を3本立てた。
「3日時間を与えます。その間に二度と私たちに対して無作法なマネをしないと公の場で示してください。私がそれを信じられるレベルで。それができなければ……全てを暴露してこの"世界の秩序"とやらをめちゃくちゃにしてやります」
NAZUNAがそう言ってポケットから取り出したのは小型記録媒体。
「ドラゴン保有国リスト、ここ10年の米国先端兵器開発状況、各国に潜入中のアメリカ工作員・協力者リスト……この情報は全て、さっき姉を連れて
「なッ!?」
「あと純粋なクラッキングで入手した貴方の愛人リストもありますよ」
「なッ!?!?!?」
金魚のように口をパクパク開閉するしかない大統領を置いてNAZUNAは、
「3日です。忘れないでくださいね」
そう言い残して執務室を後にした。
交渉の余地などまるで残さずに。
「ま、待ってくれ……」
震える足でヨタヨタと歩き、大統領はその後を追う。
しかし、もうすでにNAZUNAの姿もRENGEの姿もどこにもない。
「くそ、日本の監視はいったい何を……それにいったいどうやってアメリカまで来たというのだ……!?」
へなへなと。
大統領はその場に座り込むしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます