第72話 U.S.T.戦 その2

~U.S.T.隊員視点~


「シット! 嘘だろ、アイツこの"エクスカリバー"を指で摘みやがったぞッ!?」


メゾンのベランダから大きく突き出して設置されている全長3メートルのライフル──"エクスカリバー"を扱うU.S.T.のスナイパーが叫んだ。

スコープの中には狙撃をまるで意に介していないRENGEが摘んだ弾を見て不思議そうに首を傾げていた。


「コイツはダンジョン黎明期にドラゴンの鱗を貫いた対ドラゴンライフル、それにさらなる改良を重ねたもんだろう!?」


「落ち着け、これで仕留められないケースも織り込み済みだ! オペレーション続行。次弾の装填を急げ!」


「クッ……ラジャーっ!」


「さあ、ここからが本番だぞ"Angel"。お前のその規格外のフィジカルは魔力操作によって成り立っているもの……その魔力を封じられた時、それがお前の最期だ……!」


U.S.T.隊長は腰に装備していたグレネードを確かめるように手をやった。

それは米国が開発した最新式の対人兵器、"アンチマジック・グレネード"。

それが起こす衝撃波は半径20メートル周囲の魔力波を完全相殺する。

つまり……RENGEは"ただの少女"へと成り下がる。


「頼んだぞ、奇襲兵コマンドーたちよ」


隊長は双眼鏡を固く握りしめ、RENGEの動向を観察した。




* * *




~レンゲ視点~


「さて、ナズナに聞いたけど……"えあがん"ってそんなに遠くへは飛ばないんだよね?」


ということは"びーびー弾"を飛ばしてきた犯人はこの付近に居るということだ。

だからグルリと辺りを見渡していると、


「むっ!」


どこからか細長いナニカがこちらに向けて投げられてきた。

アレは……!

ナズナに"えあがん"の説明の時に聞いた。

確か小さい爆弾型のもので"びーびー弾"をばら撒くものがあるのだとか。

"びーびーぼむ"と言ったっけ?

やはりそれは空中で爆発した。

私は先ほどと同じような鉄の塊が散らばるのかなと身構えていたのだけど、


──キィィィン!


その爆弾は甲高い音を響かせるだけだった。

不発?

そう思った直後、違和感に気が付いた。


「あれ、体に纏ってた魔力が……」


いつの間にか周囲一帯から魔力が無くなってしまっていた。

どういうことだろう?

私が首を傾げていると境内の木の裏側から覆面を被った男の人たちが大きめの"えあがん"を構えて、パラララララッ! と景気よく発砲してくる。


……まあ、いっか。


「モンスターみたいに殺さなくても、取り押さえればいいだけなら素手でもいいもん」


しかし最近のオモチャってすごいんだな。

"びーびー弾"が1秒で14……いや15発も飛び出すなんて。


「よっと」


当たるのはイヤなので、膝を曲げ、ブリッジするように上半身を大きく後ろに反らす。

弾は私の体の上を通過していき当たりはしない。

それから私は両手両足で這うように地面を動き、正面にいた覆面男を掴み、


「えーい!」


立ち上がる勢いを使って投げる。

一時期山に入ってツキノワグマを獲っていた時期があったから、動物を投げるのは得意なのだ。


「あれ」


ギュオンっ、と。

男は7、8メートルくらいの高さに飛んでいってしまった。

思いの他軽かった。


「ごめんなさい、男の人を投げるのって初めてで……」


ツキノワグマを投げる時と同じくらいの力で投げてしまった。

まあでもこれくらいの高さなら大丈夫かな?

それくらいじゃツキノワグマもケガしてなかったし。

男の人は女の人よりも硬くて頑丈とも聞くし……

きっと大丈夫、のはず!

よいしょっ!

後ろのもう1人の覆面男も同じようにしてポイっと投げた。

そうこうしていると、


「あ、まただ」


最初の時と同じ風を切る音が聞こえる。

私の頭目掛けて、また"びーびー弾"が飛んできた。

もう、まだ魔力が使えないのに。

さすがに魔力無しの素手で掴んだらケガしちゃいそう。

私はスゥと深く息を吸って、


「づっっっ!!!」


至近距離に迫った"びーびー弾"に向かって大きく叫んだ。

音波によって空中のその弾を撃ち落とす。

よしよし。

久しぶりにやったけどまだ衰えていないものだね。

ちなみにコツは「づ!」と口をすぼめ、肺の空気を弾き出すようにして喉を震わせること。

ホースから出る水をイメージすると誰でもマネできると思う。

出口が細ければ細いほど出て行く水や音は強くなるものなのだ!

……懐かしいなぁ。

子供のころ、ナズナを連れてお祭りの射的屋さんに行って銃を借りずに「づ」だけで景品全部を倒したことがある。

……でも貰えなかったなぁ、倒したやつ。

やっぱり銃を借りずとも、最初は絶対に300円は払わなきゃいけなかったみたい。


「さて、しょっぱい思い出はともかくとして、」


私は音波「づ」攻撃で撃ち落とした"びーびー弾"を拾う。

やっぱり、さっきと同じヤツだ。

さすがに2回も"びーびー弾"が飛んできたらどこから来たものか見当がつく。

私は親指と人差し指で輪っかを作って、望遠鏡を覗き込むようにしてそちらの方向を見た。

うーんと……

……あっ!


「見ぃ~つけたっ!」


300mほど先のマンションだ。

そこの4階に大きな"えあがん"を構えている人と、双眼鏡でこちらを見ている人たちがいる。

私は私めがけて飛んできた2つの"びーびー弾"を手に持って、腕を振りかぶる。


「こんなの飛ばしちゃ危ないです──よっ!!!」


ビュオンッ!

"びーびー弾"を投げ返す。

そして私もまたそちらに向けて走り出した。

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