第66話 RENGEの弱点克服配信その1

苦手を苦手のままにするのは悪いことではない。

でも、それが他人に迷惑をかけてしまうことならちょっと違う。

それに加えて、自分がその苦手を克服したいと願っているなら……克服するべきだろう。

そんなわけで今日は私の苦手を克服する時間にしようと思い立ったわけである。


「あ、あ~~~。こんにちは、声聞こえてるかなぁ?」


>!?

>はいっ!?

>唐突にRENGEの配信が始まった・・・!?

>そんな予定あったっけ!?


配信カメラを載せているドローンに手を振ると、すぐに配信と連動させた"すまーとをっち"にコメントが流れてくる。

平日の朝だというのに、配信開始十数秒で100人以上の視聴者さんが集まって来た。

誰もが驚いている様子。

やっぱり事前告知無しというのは視聴者さんを驚かせてしまうのだろうか?

でもナズナとも相談してのことだし……

大丈夫だよね。


「えっと、今日はですね、人によってはおもしろくないと感じる内容かもしれないです。実験的な内容なので、爽快感とかはあまりないかと」


>?

>???

>何をやるつもりだ?


「みなさんご存じの通り、私は外国語が苦手です。でもこのままじゃいけないと思うんです。アジア予選は中国で行なわれるそうなので……今のままではとてもじゃないですがまともに戦えません」


>いや?

>そうか?

>そんなことないだろ?

>戦えてたじゃんwww

>"まとも"とはお世辞にも言えんがな


「あっ、あれじゃダメなんですっ! あんな……あんな戦い方はもうしません!」


後日、配信の録画を見させてもらったけど、もう何というかいろいろとめちゃくちゃで顔から火が噴き出そうだった。


「今回は日本だけだからよかったですけど、アジア予選なんかで寝てしまったら……私のみっともない寝顔が世界中に公開されちゃうじゃないですかっ! そんな事態は絶対に避けなければなりません!」


>www

>いやそれはwww

>もう手遅れなのでは?

> (全世界配信だったって知らんの?)

>(知らない方が幸せかもな・・・)


コメントが濁流のように流れてきて追い切れないけど、どうやらみんなは私が寝てようが起きてようが構わない様子。

いや、それじゃダメなんだって!


「寝顔問題だけではないです。次のアジア予選はAKIHOさんたちともいっしょに走るんですから……迷惑をかけないようにしなくちゃなんですっ!」


>なるほど

>志はいいな

>それでどうするんだ?

>英語を克服するの?


「はい。私は今回英語を克服するため……昨日の夜からこのような仕込みをしておりました」


私はまずはしっかりと耳栓をし、そうしてさっそく"へるモード"のダンジョンの地下第1階層へと降りる。

すると、


『~~~~~~っ』


何かの放送が聞こえる。

私は耳栓をしているので何も聞こえないわけだが、しかし視聴者は違う。


>なんか英語の放送流れてる?

>英会話が流れてるな

>なんて言ってるのかは分からんけど

>もしかしてこの英語放送の中を走る?

>無謀だ。RENGE暴走→ダンジョン壊滅する


「克服は段階的が望ましいとナズナに言われたので、もちろんこの放送は切ります。ナズナの助けもない今……魔力を込めている最中に英語を照射され続けてしまったら最悪の場合は地球が割れるかもしれません」


>ちょっwww

>待てwww

>待ってwww

>ダンジョン壊滅どころじゃなくて草

>今すぐ克服をやめろ!!!

>RENGEウソだと言ってくれ!!!

>緊急避難警報!緊急避難警報!

>どこに避難すんだよ!!!

>地球が割れてんだぞ!!!

>そうだ、火星に行こう

>母ちゃん、俺は配信観ながら逝くぜ

>母ちゃん産んでくれてありがとう

>親孝行もっとしとけばよかった・・・


「あっ……すみません。さすがに今のは冗談です。そんな危ないことにはなりません」


>冗談なんかぁぁぁいッ!!!

>くぉらぁぁぁぁ!!!

>おぉぉぉいッ!RENGEぇぇぇッ!

>このおバカさんめ!!!

>RENGEぇぇぇ!知ってたけどぉぉぉ!

>ノリいいなw

>まあマジで割れそうだからなw

>地球割れそうなヤツが『これから地球割るかも』って言ったら俺たちは"覚悟"決めなきゃならんのよな


「あっ、はい……すみません。冗談って難しいですね。今後は気軽に言わないように気をつけます……」


さすがに私だって地球は割れない。

コメントを見るに本気にとらえてた人はやっぱり少ないみたいだけど、でも本気にした人にとってはただ事ではなくなっちゃうもんね。

反省。

とりあえず英語の放送は一度切る。


「この英語放送をひと晩流し続けていた理由ですが、これから私が挑戦する"ぱろっとぺあ"に英語を覚えさせるためです」


>ぱろっとべあ?

>なんだそれ?

>ベアってことは・・・熊?


「はい。熊です。このモンスターは"へるモード"のダンジョン地下20階層付近に出現するのですが、その特徴として人の言葉を操ることができるんです」


>つまり・・・?

>パロットベアに英語を喋らせるつもり?

>それと戦闘するというわけか


「"ぱろっとべあ"に英語を話してもらいつつ戦えるようになるのが今日の目標です。なのでさっそく頑張っていきたいと思います!」


私はそう宣言して、地下20階層へと向かうことにした。

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