第64話 すごい電池
黒雲の中心で、雷が響き渡る。
その中心でうねる竜の姿を見て、
「そうだった、確かあの日は……」
私はあの時のことを思い出す。
その竜を召喚してしまった日のことを。
* * *
それは、両親を追う闇金の借金取りの手から逃れるため、私が幼いナズナを連れて山奥で生活をしていたころだった。
『あぅ、おねーちゃん、"かいちゅーでんとー"の"でんち"がきれちゃったよぉ』
当時5歳のナズナは少しでも辺りが薄暗いと怖がって、だからこそ山奥では火か懐中電灯の光を絶やせなかった。
その日は風が強く火を起こすのは危なかったので、懐中電灯に頼っていたのだが……ちょうどその日に電池も尽きてしまった。
『おねーちゃん、くらいのコワイよぅ……』
『ん~、そうだ! 電池が無いなら、"れんきんじゅつ"で作ってみよう!』
『えぇ? "れんきんじゅつ"?』
錬金術……当時、小学校の友達の間で"ホニャララの錬金術師"というアニメが流行していて、私はその単語を知っていたんだ。
なんか地面に絵をかいて、それに手を当てたら欲しい物が手に入る……
そんな感じの認識だった。
『かきかき……描けたっ!』
薄暗い中で、木の枝を使って私が描いたのは四角い電池の絵。
『おねーちゃん、これ"でんち"の"え"なの……? まるで"じごくのもん"のようだよ……?』
『そんなことないよー』
私はその絵の中心に電池を置くと、両手を置いた。
『いくよっ、れんせい!』
──
たぶん変に魔力を込めてしまったのがマズかったのだろう。
電池の絵だったハズのそこには穴が空き、
黒い光が渦巻き輝いた。
そんな禍々しい穴から出てきたのは、
細長い黄色と青のウロコを纏った蛇のような生き物。
それはしかし、空へと舞い上がると巨大な竜へと姿を変えた。
〔グォォォォォォ──ッン!〕
竜は咆哮する。
黒雲を呼び、その中でうねった。
バリバリバリ、という音と共に暗い空が何度も白く瞬いた。
そして、
──ドゴォォォンッ!!!
私たちの目の前に雷が落ちる。
それは不思議と破壊力の無い雷だった。
そして私が描いた電池の絵の場所に置かれていたのは──
『あっ、電池だ……』
練成に際して絵の中心に置いた電池が、白い光を放ち輝きながらそこに在った。
その光り輝く電池を手に取って懐中電灯へと嵌めてみると、灯りが点いた。
『わぁ、見てナズナ、電池が充電されてるみたいだよっ』
『えっ、この"でんち"ってそういう"しくみ"じゃなくない……?』
その使い捨て電池は不思議なことに、それから3年くらい使えた。
そしてその竜は空高く飛んで行ったかと思うと、どこかへと消えてしまっていた。
* * *
ああ、そうだ。
そういえばそうだったなぁ。
思い出した。
この竜、雷を扱える竜だったなぁ。
「どっ、どうするっ!? どうしようっ!?」
AKIHOは空を見て慌てながら、
「竜なんて、もう半世紀以上も目撃例が無いのにっ! 警察っ? 自衛隊っ!? どこに連絡すればいいのっ!?」
"すまほ"を取り出してアタフタとしていた。
本当、お騒がせしてしまって申し訳ない。
「ごめんなさい、AKIHOさん、それにFeiFeiちゃんたち……私がなんとかしますので」
ちょうどよく、地面には書きかけの魔法陣がある。
しかも寝ぼけて書いたから、あの時と同じ"四角い"形。
これを錬成陣にすれば、きっとまた……!
「AKIHOさん、FeiFeiちゃん、ShanShanちゃん、ちょっと離れていてください……"地獄の門"を開きます」
「「「地獄の門ってなにっ!?」」」
「えぇいっ!」
昔の時と同じように、魔力を込めた両手を自らの失敗魔法陣 (錬成陣)に当てる。
すると、あの時と同じ。
黒く禍々しい光を放つ"穴"が生まれた。
〔グォォォォォォ──ン〕
竜が私たちの居る場所、公園へと向かって降りてくる。
その姿は地面に近づく度に細く小さくなり──
地上の私たちの元へ来る頃には手の平サイズになっていた。
「もしかしてさっき空に打ち上げた熱線の魔力で私に気付いて来てくれたのかな?」
〔キュォォォン〕
「じゃあ、おうちに帰ろうか」
竜は地獄の門……それが本当に地獄に続いているのかは知らないが、その穴へと迷わずに入っていった。
すると、その穴は役目を終えたかのように閉じる。
空の黒雲が晴れ、陽射しが戻った。
「……」
「……」
「……」
AKIHOも、FeiFeiも、ShanShanも……
ポカンと口を開けっぱなしになっている。
「あ、あの……AKIHOさん」
目を白黒させるAKIHOへ向けて、
「私、属性魔法の練習はちょっと控えようかなと思います……」
「う、うん。もしかしたらそうした方がいいかもしれないね……」
その日は、私たちは人目を避けて解散することになった。
その10分後、日本政府は国家非常事態宣言を発令。
竜対策本部を立て、いかなる災害の発生にも対応できる準備があると国民に呼びかけた。
しかし、即日でその宣言は解除された。
竜はすでにこの世界に存在しない、という発表と共に。
その理由について、
信ぴょう性の低い週刊誌の記事の情報ではあるが、
この騒動の裏では"謎のハッカーN"が動いていたとかなんとか。
なんでも各人工衛星がとらえた気象・地表面情報の分析結果を対策本部へと送り、竜がすでに地球惑星内に存在しない証明を立てたらしい。
謎のハッカーNは『まるで身内の過失を申し訳なく思うように』丁寧な対応をしていた……とのことだ。
それが嘘か誠かは誰も知る由もない。
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