第62話 スタンスとライバルと協力
アジア予選への挑み方。
1人が本戦へと進むためにみんなで協力するか。
あるいは全員バラバラで戦っていくか。
そのAKIHOからの二者択一に、
「あの……それって、どちらもじゃダメなんでしょうか」
私は思わずそう訊き返してしまっていた。
「どちらも……って、どういうこと?」
「えっと、そもそもRTAって、1番速く走る人を決めるものなんですよね? だからまず、本番で協力し合うっていうのはなんだか違う気がして」
「……そうね。それはその通りだと思う。誰かの協力を得ることでアジア1位になれたとして、世界大会本戦で戦っていけるかは別問題になってしまうから」
「はい。それに……最近感じることがあって、」
「感じること?」
「私のRTAを観た人たちは、私が記録更新をしたりするとすごく喜んでくれるんです。それはたぶん、私が私として走ったからなんです」
清掃作業だけしにダンジョンに潜っていた時は考えもしなかった。
ダンジョンを走り抜ける……
それだけの姿を応援し、楽しみ、歓声を送ってくれる人たちがいることなんて。
でも注目を集めてみて、初めて分かった。
「AKIHOさんにも、FeiFeiちゃんやShanShanちゃんたちにも、きっとそれぞれを応援してくれる人たちが沢山いるんです。日本代表としての走りじゃなくて、みんな自身の走りを見に来てくれている人たちが、です。だから私たちは1位にしたい誰かのためにじゃなくて……自分のために走るべきかな、って」
「ヤー! 私もRENGEの意見に賛成アルよ!」
ピーンと挙手したのは、FeiFei。
「私も学校のトモダチがいっぱい観てくれてるもん。1位になりたいヨ! それにやっぱり、手抜きなんて無しでオネーチャンといっしょに速く走りたいから!」
「で、でもフェイフェイ……私とフェイフェイは一緒には世界大会本戦には出られないんだよ?」
「ウーン、私、本戦には興味ないネ! 別に1位をとっても、私たちの次に速かった人に譲ればいいヨ」
FeiFeiは迷いなく即答する。
「オネーチャンは本戦に出たいアルか?」
「えぇと、ウーン……フェイフェイとの遊びの延長戦だったからなぁ。私も別にいいかな?」
「じゃあ決まりアル! AKIHO、RENGE、私たちは私たちで自由にやることにするヨ! 今日からライバルになるネ!」
FeiFeiの意気込みに、AKIHOは少し苦笑いをしつつ、
「レンゲちゃん、2人もこう言っているし、私自身としても自分の力を全力でぶつけたいと思っているから……全員一致で同じ意見みたいだね」
「はいっ……! がんばりましょうっ!」
「それで、まだレンゲちゃんには話したいことがあるんだよね?」
促してくれるその言葉に、私は頷いて、
「本番はライバルで、って話になりましたけど、アジア予選までの期間、お互いに協力して高め合っていくっていうのであれば話は別なのかなって思うんです」
「どういうことアルか?」
「つまりその……例えば時々にでも、いっしょに特訓しませんか?」
「えっ」
私の提案に息を飲んだのはShanShanだった。
「ねぇRENGEちゃん、私たちはそれってすごくありがたいけど、RENGEちゃんはそれでいいの?」
「え?」
ShanShanは少し遠慮がちに、
「だって、私たちができることって……RENGEちゃんにもできることじゃないかな? 私たちがRENGEちゃんといっしょに特訓することで得られるモノはあっても、RENGEちゃんには無いんじゃないか、って」
「えっ? そんなことないよっ! それに私ももちろん1位を目指すけど、みんなにもたくさん活躍してほしいから……"ぶーむ"のためにも」
「ブーム?」
「私が世界大会予選に参加したのは、このダンジョン"ぶーむ"をもっともっと大きなものにしたいからなの。そのためにはもっと多くの人たちにダンジョンに興味を持ってもらわなきゃいけなくて、だからみんなの力が必要だと思う」
「すごい……RENGEちゃんは、世界大会とかじゃなくてもっと大きなものを見てたんだね……」
「え、えぇっ? そんな大したものでもないよっ?」
いつの間にか目をキラキラとさせるShanShanに慌てて弁明するも、
「RENGEちゃん、カッコイイ……」
「ええぇっ!?」
ShanShanはポワっと顔を赤くするばかりだ。
これ、どういう反応っ?
「あはは、オネーチャンはRENGEの大ファンだからネー。しょうがないしょうがない」
FeiFeiは笑って言うと、
「RENGE、私たち2人も喜んで特訓に付き合うヨ! RENGEの技を間近で見ていっぱい盗むアル! AKIHOはどうするカ?」
「私? 私はもちろん、レンゲちゃんがいっしょに潜ってくれるというならお願いしたいよ。アジア予選まで協力し合っていくって方針にも大賛成。たぶん私からも、少しはレンゲちゃんのためになる情報を提供できるハズ」
AKIHOは私たち3人を見渡して、それからその立てた人差し指に炎を宿す。
「レンゲちゃんもFeiFeiちゃんたちも魔力そのものの扱いに特化してるから……もしかしたらこういう一般的な【属性魔法】って使ったことないんじゃないかな?」
「な、ないです……」
「ならこれの特訓もしてみない? きっとできることがもっと増えるハズだよ」
私とFeiFeiたちは顔を見合わせると……
一様にコクリと頷いた。
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