第57話 日本予選Fブロック実況その6
──おっきな、うなぎ。
震撼した。
RENGEのその言葉を聞いた瞬間に、
実況席、観客席、そして配信を見ている視聴者のすべてが。
「んーーーっとッ!?!?!? RENGE選手、どうしたっ!? キング・サーペントをうなぎと勘違いしている……!?」
>待て待て待て
>おいwww
>まさか蒲焼きって・・・
>いや嘘だろっ?
>それ蛇・・・
>何をどう見たらうなぎになるんだよっ!
>寝ぼけてるっ!?
>いや、絶対寝てるってコレwww
コメント欄の戸惑いも、観客席の戸惑いも、ダンジョン内には届かない。
RENGEはキング・サーペントの体を宙へ軽く投げて浮かせると──
そこから始まったのは、眠りながらの光速調理だった。
──調理開始0.01秒:
スススッ、と。
RENGEは高速で両手を動かしていた。
宙に浮いたキング・サーペント……
瞬く間にそのウロコの付いた皮が剥がれ、綺麗な枝肉となり、両手で持てるブロックサイズとなってRENGEの元へと自由落下を始める。
──調理開始0.12秒:
『……くし……』
串が必要であった。
RENGEが両手を拡げるように、自身の横、虚空へと手をかざす。
グニャリ。
集中させた魔力により空間が黒く歪む。
そしてその歪んだ空間から現れたるは──2本の真紅の槍。
それがHELLモードダンジョン70階層付近を低確率で彷徨っているモンスター、暗黒騎士ドン・キホーテが固有スキルで生み出す槍をRENGEが模倣したものであるということは、この現代に至ってはRENGE以外の知るところにはない。
RENGEはその2本の槍を落ちてくる蛇肉へと突き刺した。
──調理開始0.25秒:
RENGEは蛇肉の刺さった2本の槍の柄を地面へと突き刺した。
蒲焼きを作るのだ。
焼く前に、まずタレを塗らなくてはならない。
──調理開始0.28秒:
タレを掴もうとした手が空を切る。
タレが──無い。
例外発生。
タレが無い。
例外発生。
例外発生。
RENGEの本能が警報を鳴らす。
例外発生、タレが無い。
──調理開始0.88秒:
発生した例外によってRENGEの処理動作はコンマゼロ数秒止まっていた。
しかし復旧。
本能は決断を下した。
なにも蒲焼きにする必要なんてない。
白焼きでもいいじゃないか、と。
──調理開始0.92秒:
熱を通す工程。
電子レンジの仕組みを知っているだろうか。
あれは物を直接熱しているわけではない。
マイクロ波を照射することによって食べ物が含む水分子を高速振動させ、それによって発生した熱エネルギーによって加熱されているのだ。
もちろん、そんな理屈をRENGEが知るわけがない。
──調理開始0.95秒:
しかし本能はいち早く正解にたどり着く。
RENGEは黒い
ただしそれが放つはマイクロ波ではない。
RENGEがなんとなく魔力を練ったら宿った、人智が未だ辿り着かぬ謎に満ちた魔磁力の波だ。
──調理開始1.00秒:
その拳で蛇肉を殴りつけると、雷が落ちるような音が響く。
そして一瞬にして肉から水蒸気が噴き出した。
ピンク色をしていた肉の塊は白身に変貌し、表面にいい具合に焦げの色が付き、ほぐれやすそうなホカホカのお肉となっていた。
「──んんんんんッ!?!?!?」
生帆は驚愕した。
キング・サーペントが一瞬で串刺しになっていたことに。
しかもホッカホカである。
>えっ
>えっ?w
>www
>おいwww
>いやいやいやwww
>どうなってんのwww
>マジかよwww
>いや、ちょっwww
>手品っ!?
>なんかめっちゃ速く動いてたけど
>嘘だろ?調理してたん?www
生帆の見るコメント欄は今日一番の速さで新しいコメントが流れていく。
観客席は総立ちだ。
「突如現れた串焼き……RENGE選手が度々呟いていたかばやきとは、本当に蒲焼きのことを指していたのでしょうかっ!? いや、しかし……いつ調理をっ!?」
>ホントそれwww
>3分クッキングも顔真っ青な速さ
>もしかしてあらかじめ用意してた?w
>明らかに調理した形跡がwww
>蛇の皮がまだ宙を漂ってるの草
>にしても美味しそうwww
>くっそ、なんか腹減ってきたw
>ちょっと味見したくて草
>お前らwww
>蒲焼きじゃない件
>白焼きですね、これは
>そもそもうなぎじゃない件について
>これ言っとくけどモンスターだよ?w
モニター上で、RENGEはその串を両手に持ち、そして、
『……あがー』
大きく口を開いた。
>マジで喰う気だっ!!!
>ゲェェェッ!!!
>まあ蛇は食えるだろ
>モンスターだっつってんだろw
>というか、それ以前にさ・・・
>あのモンスターってゲーム上のものでは?
『がぶりっ!!!』
RENGEがその蒲焼き? に喰らいついた。
その直後、
『ふっ……ふぅんっ!!! 苦いぃぃぃッ!!!』
RENGEはとっさに蒲焼きから口を離した。
──それも当然。
ダンジョンに出てくるモンスターは全て【エーテル】という特殊薬液と魔力によって実体化されているものである。
つまりその味は薬液そのもの。
渋みと苦み、そしてエグみの集合体だ。
『うぎゃぎゃぎゃ……渋っ、渋柿……!』
パチクリ、と。
RENGEがその目を見開いた。
そして自らの大きな歯形ついたその蒲焼きをマジマジと見つめる。
『えっ……何、これ? どういう状況……?』
口の周りをグシグシと吹きつつ、RENGEはとうとうその目を覚ましたのだった。
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