第56話 日本予選Fブロック実況その5
~実況者:
「──え゛ぇ ッ!? ……あ゛~、オホン!」
生帆の、その喉が逝きかける。
あまりにもいろいろな出来事が重なり素っ頓狂な声を出し過ぎてしまっていた。
生帆の声は涸れつつあった。
RENGEの寝落ち、RENGEの逆転、そしてFeiFei・ShanShanのプロペラ走法などなど……
充分以上の見応えだったこのFブロック。
しかし、それだけでは終わらせてはくれない。
「えー、みなさん。タイマーが間違っていないかご確認ください」
生帆は実況用モニターに映し出される時刻を見て、
自分の腕時計を見て、
それからまたモニターの時刻を見て、
「現在時刻10時02分51秒……つい先ほどダンジョン25階層が突破されましたッ!!! 時間、間違えてませんよねっ!?」
そう問うた。
しかし、間違っているはずもない。
>間違えてないです・・・
>間違ってない・・・
>何かの間違いですらあってほしい・・・
>RENGE、マジかよ・・・
>これリアル???
>すごいとは思ってたが、ここまでか
コメント欄からも動揺の声が隠せない。
なにせ、
「RENGE選手、1階層2秒未満で、いっさい休むことなくここまで来ております! この異常性が伝わるでしょうかっ!?」
詳しく解説を挟むヒマもない。
10秒後には最下層である30階層目を踏破しているハズだから。
……RENGEの異常性、それは走りの速さのこと……だけではない。
通常ダンジョンは下に行けば行くほどモンスターが強く、倒しにくくなるものだ。
ゆえにそれだけ踏破に時間がかかる。
にもかかわらず、RENGEは変わらないペースで1階層2秒未満を維持したままで踏破し続けている。
つまり、
──そもそもモンスターが障害になっていない。
RENGEはただトップスピードで走っているだけで、モンスターはさながら後ろに流れていく景色といったところか。
あまりに異常。
常識にも障害にも縛られないなんて。
……おいおい、そんなのまるで何ものにも速さを縛られない光そのもの……光速の体現者じゃないか。
生帆が息を飲む中で、10時02分59秒。
RENGEがその姿を30階層終点へと姿を現した。
フロアボスはキング・サーペント。
巨大な蛇型のモンスターだ。
その突撃は岩をも砕き、鞭のようにしなる尻尾からはソニックブーム付きの超強力な一閃が──
──放たれることは当然なく、サーペントの首が落ちた。
誰も目で追うことのできない速度で移動していたRENGEが、首を失ったサーペントの背後にただ佇んでいた。
「RENGE選手!!! 30階層もまた一瞬!!! HARDモードダンジョン踏破です。その記録は以前自身で打ち立てた最速記録を更新し、3分ジャストッ!!! 世界新記録ですッ!!!」
>おおおおおお!
>RENGE!
>やってくれた!
>RENGEー!!!
>RENGEキター!!!
>すげぇwww
>RENGE信じてたっ!
>3分ジャストはヤバイってwww
>もうこれ世界大会要らんでしょw
>期待を裏切らない女、それがRENGE
>序盤寝なければ1分でクリアできそう
世界新記録にコメント欄も、観客席もまた沸き立った。
そんなこちら側の熱狂とは対照的に、
しかし、実況モニター内のRENGEは悠然とキング・サーペントの横に佇んだまま動こうとはしない。
「RENGE選手、さすがに1階層2秒でのクリアですから疲れが出たのでしょうか? その場から動く様子がありません……いや、冷静に考えて1階層2秒ってなんだっ?」
>それな
>それなwww
>それな
>それ過ぎる
>曲がり角に衝突するやろ普通
コメントの通り、いったいどのような技術があれば1階層最低3つはある曲がり角にぶつからず走り抜けることができるのか……
生帆もそれが不思議でならない。
……それもまた、今後のハウツー動画で明かされるのだろうか……期待して待ちたいところだ。
なんて生帆が思っていると、モニターが映すRENGEの様子に動きがあった。
RENGEがキング・サーペントの側に膝を着き、
『……かば、やき……』
またもそう呟いて……
ガシリ。
「んっ? どうしたRENGE選手、キング・サーペントの体を掴んで……持ち上げたっ!?」
RENGEはそれを両手で鷲掴みにして、顔よりも高い位置へと持ち上げると、
『……おっきな、うなぎ……』
ジュルリ。
わずかにヨダレを垂らした。
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