第37話 RENGEの完全介護生配信その1
AKIHOさんとの生配信から1週間経ち、再び土曜日。午前9時55分。
私はいつも通り清掃作業をしつつ、そろそろかな? というところで"いんかむ"に向けて、
「ナズナ、聞こえてる?」
『うん。音質良好。追跡ドローンの調子も問題なし。いつでもいけるよ』
問いかけに対し"いやほん"からナズナの声が返ってくる。
『お姉ちゃん、言っておくけど付き添いは今日が最初で最後だからね?』
「う、うん」
『今日は初めてってことで私も事務室にお邪魔して配信を見守ることにしたけど……これから平日とかに生配信をするときは全部自分でやらなきゃいけないんだからね? 機材準備も立ち振る舞いもしっかり覚えるように!』
「わ、わかった。がんばるよ……!」
今日からさっそく、初めての単独生配信をすることになっていた。
すでに告知済みで、ナズナによればすでに数十万人が待機しているらしい。
正直桁が大きすぎて、うまく想像がつかないけど……
これっと相当な数だよね?
『配信開始10秒前から数えるから。お姉ちゃん、しっかりね』
「えぇっ? もうっ?」
さっきまで9時55分だったのに、
もう59分になってる!
配信先のコメント欄と同期されている"すまーとをっち"はブルブル震えていて、コメントを見るにすでに視聴者の間では楽しげな秒読みが始まっているようだ。
……どうしようっ、改めて緊張してきたっ!
『10秒前ー、9、8、7……』
「(えぇっ!? 早いよ……!)」
"いやほん"越しにナズナの秒読みが始まった。
お姉ちゃん、まだ心の準備が整っていないのですが!
『3、2、1……』
「(……はっ、始まっちゃう……!)」
『……』
「……?」
……あれ?
ナズナどうしたの?
『0』
が聞こえないんだけど?
「……あれぇ?」
もしかして、なにか不具合かなぁ?
"どろーん"の調子が悪いとか?
「おーい、ナズナー? お姉ちゃんのこと、見えてるー?」
フヨフヨと私のナナメ上を漂う"どろーん"に向かって手をフリフリ。
「お姉ちゃんだよー、ナズナぁー? "どろーん"故障しちゃったかなぁ?」
『ちょっと! お姉ちゃん!』
「あっ、ナズナっ?」
『配信もう始まってるからっ!!!』
「へっ?」
ぶるるるるっと。
"すまーとをっち"が連続して震えていた。
>RENGEwww
>お前ってヤツはwww
>開始直後0秒からやらかしてて草
>期待を裏切らないwww
>ナズナってもしかして妹さん?
>妹さんに手をフリフリしてて可愛いかよ
>自分のこと『お姉ちゃん』自称なんですね・・・
>RENGEの妹になりたい
>俺も
「うっ、うわぁーーーっ!?」
なにそれっ?
えっ?
さっきのをみんな見ていた……ってことっ!?
>うわぁーってwww
>心からの叫びで草
>ちょっと野太いのガチ悲鳴じゃんwww
>RENGEらしいw
>まあ、あんな素の姿さらしちゃったらねぇ・・・
「なっ、ナズナっ? なんで配信スタートって言ってくれなかったのぉっ!?」
『秒読みしてたでしょっ!? お姉ちゃんこそなんで黙っちゃってたのよっ!?』
「だって、0って言ってくれなかったじゃない! 1で止まってたから……」
『マイクに私の声が被らないようにするために、生配信の秒読みでは0は入れないのっ! 1までなのっ!』
「えぇっ!? 秒読みって1までなのっ!?」
>なんか言い争ってて草
>姉妹ケンカ勃発?
>秒読み勘違いしてたのかwww
>若々しい・・・笑
>こっちにはRENGEの声しか届いてないのに、なんとなく言い争いの内容が分かるのがクソおもしろいwww
>生配信ってこと早くも忘れてそうw
「うっ、うぅ……ごめんねナズナ、お姉ちゃん失敗しちゃった……」
『いいからほらっ! お姉ちゃん、早く配信始めて!』
「う、うん……!」
私は"どろーん"に改めて手をフリつつ、
「み、みなさんこんにちはっ! えっと、RENGEですっ! なっ、生配信を始めていきたいと思いますっ」
>がんばれーwww
>顔真っ赤やんけwww
>初々しい・・・
「はっ、初の生配信にょぉがんびゃるにょりょれっ!? はっ、
舌が回らなかったあげく、噛む。
血の味がするほどに。
「ひっ、
──出だしで盛大にコケたこの配信は後に、【最強ポンコツお姉ちゃんRENGEの完全介護生配信】として大いに話題を集め、妹の存在にも大きくフィーチャーされることになるのだが……
もちろんこの時のレンゲたちがそれを知る由もなかった。
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