第38話 RENGEの完全介護生配信その2

「あっ、みなさんっ、今日は見に来てくれてありがとうございますっ」


舌を噛んで悶絶すること、10秒。

改めてあいさつし直した。

すごく、ヒリヒリする……

でも、気にしていられない!

台本通り、決められたセリフを言わなきゃなんだ。


「きょ、今日はですね、生配信の場で何をするかというとですね、えー、独創的なものをですね、お届けしたいと……」


ま、マズい……

さっきの恥ずかしさで配信の趣旨説明のセリフが飛んでしまった。

簡単に要旨をまとめたものをナズナに考えてもらっていたのに……!


>独創的なもの?

>独創的とは?

>なんかめっちゃ緊張してない?w

>アカン、なんか共感性羞恥が・・・

>顔真っ赤やん


「え、えっとぉ……」


た、助けてほしい……!

私の思考はもう真っ白。

なんだっけ、

どう説明すればいいんだっけ!?

キーワードだけが頭の中をグルグルめぐる。


──/今日の生配信/他の配信に無い/独創的な/私にしかできない/視聴者が喜ぶ/視聴者が見たいモノ/お仕事について/へるモード/みんなの期待/……


……えぇいっ! もうわかんないっ!


「とっ、とりあえずこれから"清掃作業"しますよろしくお願いしますッ!!!」


幸い、やることだけは覚えている。

それだけ言って私は駆け出した。


>清掃作業?

>え、説明終わりっ?

>清掃作業って?

>これから清掃作業すんの?

>お仕事配信ってこと?


"すまーとをっち"がブルブル震えてたくさんのコメントが寄せられるけど、そんなの気にしてる余裕が今は全然ない。

心臓がドキドキ、不安と焦燥にギュンギュンと締め付けられる。

ダメだ、涙出てくる……!


「ひぃ~~~! 大失敗だよぉっ!」


ああ、もう!

何やってるんだろ、私っ!


>落ち着けwww

>RENGE、大丈夫だから歩け!

>深呼吸しよう

>みんなそんな厳しい目で見てないから

>ゆっくりでいいよ


うっ……視聴者さんたちが優しい。

ほとんどが慰めの言葉だ。


……そうだ、何をテンパっていたのだろう。


視聴者のみなさんは私の敵じゃない。

むしろ応援してくれる存在なのに……


「みっ、みなさんごめんなさい。私、本当に訳が分からなくなっちゃっていました。みなさんの言う通りちょっと落ち着いて……って、イタっ!?」


"すまーとをっち"を見ながら走っていたらナニカにぶつかった。

勢いよくぶつかったものだから後ろに転んでしまう。


「うぅ……」


なんだろう?

私、何にぶつかった?

"すまーとをっち"がブルブルする。


>RENGE!

>逃げろ!!!

>ダッシュッ!!!


「へっ?」


>ドラゴンじゃん!!!

>3つ首あったよな?

>まさか・・・不死のヒュドラかっ!?

>ヤバいもう攻撃モーション入ってる!

>上見ろ上見ろ!!!


「……あっ」


私の頭上から私を見降ろしていたのはコメントにあった通り、3つの首を持った禍々しい姿のモンスター。

その頭が3つ、大きく口を開いて私めがけて迫ってきていた。


「しっ、視聴者のみなさん、すみません……続けてお見苦しいものをお見せしてっ」


私はそのモンスターを燃やし尽くした。

一瞬でそれは炭に変わる。

それが崩れ落ちるのを横目に見つつ、


「ど、どうやらこの52階層目の清掃が行き届いていなかったらしく、魔力の淀みから"ヨゴレ"が発生してしまっておりました……加熱殺菌したので、もう大丈夫ですっ」


私は"どろーん"に頭を下げた。

はぁ、今日は不運続きだ。

こんな清掃が行き届いていないところも見せちゃうなんて。


>???

>!?!?!?

>え、ヒュドラさん???

>あれっ? 不死っ?

>伝説のレアモンスター即死っ?

>ヨゴレ呼ばわりで草

>ていうかナチュラルに52階層ってwww

>待て、それってHELLのだよな?

>こんな朝っぱらから地獄の底にいるの???


「それと、先ほどまでは取り乱してしまっていて本当にすみませんでした。でも、みなさんのおかげでだいぶ落ち着きました。本当にありがとうございましたっ!」


>待てwww

>待てぃっwww

>何事もなかったように進めるなwww

>いやこっちは落ち着いてないんだがwww

>独りで落ち着いてて草

>情報量が多すぎなんだよなぁ・・・

>いま何したんすかっ!?

>結局そこはどこなんだよwww

>配信の趣旨説明忘れとるんやって!


ブルルルっと、激しく"すまーとをっち"が震える。

コメントが殺到しているみたいだけど、

うーん……

さすがに見る暇がないなぁ……


「みなさんすみません、なんだか他にもモンスターいっぱい来てるので、引き続き清掃作業を続けますねっ!」


ヨゴレの気配に引かれて集まってきたのだろう、モンスターたちがさらに集まってくる。

大きな蛇型と、立派な3本の角を持つウシ型と、よく分からない錆びた甲冑を身に纏った首無しの騎士のモンスター。


>バジリスクに、グガランナ……!?

>デュラハンもいる・・・

>HELLの52階層目ってのはガチみたいだな

>通称"無理ゲー"モンスター勢ぞろいやんけ

>VERY HARDの最終フロア付近で、1%くらいの確率で出てくるボスだよな?

>HELLじゃこんなに当たり前に出てくんのっ!?

>誰がクリアできるんだよwww


やっぱり、こまめに清掃はしないとダメみたい。

今週は今日が初めての"へるモード"の清掃だから、

いつもより数が多いや。


「20秒くらいかかっちゃうかなぁ……」


私はホルダーから銃を抜いた。

と、それと同時に、


『配信をご覧の視聴者のみなさん、姉が失礼をしております。妹のナズナです。姉が少々テンパっているため、急きょ補足説明に入らせていただきます』


"いんかむ"と宙を漂う"どろーん"の両方から、ナズナの声が2重で聞こえた。

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