第31話 RENGEの初生配信その5

「はぁ……なんだか驚き過ぎてすごく疲れたわね……」


AKIHOさんは大きく息を吐くと、


「でも疲労感のわりに、まだダンジョンに入ってから1階も降りてないのよね、これが」


「す、すみません……私が常識知らずなばっかりにいろいろと足止めをさせてしまい……」


「いやいや、RENGEちゃんのせいじゃないからっ。ただ、RENGEちゃんのすごさに現時点での私の常識がついていけていないだけなのよ」


AKIHOさんは遠くを見るような目で、


「ただまあ何というか、ここまで強さの方程式が違うとね……。素手に魔力を宿したり、体の内側ではなく外側に魔力を纏わせたり、さすがに圧倒されちゃったわ。ガリレオガリレイ誕生以前の天動説を信じてきた人々の気分というか……」


>分かるわ・・・

>この根底から覆された感ね

>コペルニクス的転回

>RTAガチ勢はショックデカそう

>まあ自分たちが走者人生懸けて極めてきた技術が違ったって突き付けられるワケだからな


コメント欄からも同意の声が多い。

……"ガリガリ"なんとかさん、か。

その人の名前は聞いたことがある気がする。

なんか偉い人だったような。


「まあでも……私はそれ以上に嬉しいんだけどね」


AKIHOさんは笑顔を向けてくる。


「RENGEちゃんのことをひとつひとつ分かるたび、私もまだまだ強くなれる気がしてくるの。こんなに楽しいことはないわっ!」


>さすAKIHO

>やはりメンタル強いなwww

>RENGEちゃんから色々吸収しようぜ!


「そうだね、みんなの言う通りだ。RENGEちゃん、続きもよろしくお願いできるかなっ?」


「あ、はいっ! もちろんですっ!」


求められた握手に応じ、再びダンジョンを進む。

すると、やはり出現する"れっどきゃっぷ"。


「えっ……今度は5体も同時にっ!?」


驚愕を口にするAKIHOさん。

コメント欄も、


>レッドキャップ5体!?!?!?

>ヘルモード鬼畜すぎやろ!

>これ誰がクリアできるんっ?

>RENGEちゃん専用モードやんけ、もはや


「っ! ごめん、RENGEちゃん! 私は1体を倒すので精一杯かもっ!」


「分かりましたAKIHOさんっ! それでは私がこちらの3体を倒しますっ!」


「うんっ、よろしく……って、あれぇっ?」


>ちょっ!?

>計算っ!?

>5-1=3!?

>おいっ!? 4だぞっ!

>ただの算数だぞRENGEちゃん!

>おいおいRENGEちゃん!?

>1体フリーですよっ!?


「RENGEちゃん、3体じゃなくて、4体──」


「あ、いいんですいいんですっ。残りの1体は解説用に使うのでっ」


私は3体の"れっどきゃっぷ"を瞬殺して、残りの1体を拘束していた。


「え、えぇっ!?」


AKIHOさんが戦闘しながら、器用にこちらを向いて目を見開いていた。


「えっと、それでは……時短のためにも、AKIHOさんが戦闘されてる間に先ほどし損ねた"れっどきゃっぷ"の倒し方について解説しますね」


ドローンに向かって言う。

そして"れっどきゃっぷ"の拘束を解いた。


>ちょっ!

>えっ!?

>マジで解説始まる・・・!?

>後ろでAKIHOが戦ってるの放置っ?

>鬼畜www


「このゴブリン……"れっどきゃっぷ"はですね、基本的に手に持っている鎌でしか攻撃してきません。鎌の性質上、攻撃は横なぎしか来ません」


ブオンっ。

鎌が私の首目掛けて振るわれる。


「まず攻撃への対処法です。纏っている魔力で吹き飛ばします」


私は体に纏っている内、首元の魔力を瞬時に膨張させた。

すると振るわれた鎌は弾かれて、"れっどきゃっぷ"の手から離れて飛んでいく。


「こうして無防備になった"れっどきゃっぷ"を倒す……これが1番オススメな必勝法ですが、どうやら一般的には魔力が纏えないのが普通なようなので……次に違う対処方を説明しますっ」


>はいwww

>ぜひお願いしたい

>後ろのAKIHO無事か・・・?


「AKIHOさんは大丈夫ですっ! 万が一ピンチになったら私がちゃんとお助けしますのでっ!」


というわけで、再び鎌を手にした"れっどきゃっぷ"が私に向かってきたので解説の続きだ。


「対処法のその2は、鎌を振るわせないことです」


こちらに向かってくる"れっどきゃっぷ"へと私は肉迫した。

"れっどきゃっぷ"は戸惑うように距離を取ろうとするが、私は着かず離れずの位置につく。


「鎌を振るうには一定の距離が必要なんです。なのでその間合いを"れっどきゃっぷ"に与えなければ鎌による攻撃は飛んできません。そうやって対処した上で、近接攻撃で仕留めましょう」


私は拳を振りかぶり、

──バビュンッ!

風を切る速度で打ち出した。


……が、"れっどきゃっぷ"の顔の前で寸止めにする。


>ん?

>あれ?

>レッドキャップさん、生きてる?

>完全にご愁傷様かとばかり


「はい。いま私が寸止めをしたのは、この仕留め方があまりよろしくないからです」


>倒し方がよろしくない?

>たおせりゃよくない?

>何かもっと良いやり方があるのか?


「そうですね。モンスターにはもっと綺麗な仕留め方があるんです。それをちょっとお見せしますねっ」


"れっどきゃっぷ"を再び突き放す。

モンスターは常にダンジョンに潜った人──"ぷれいやー"を狙うようにできているので、躊躇なく再び私に向かって襲い掛かってくる。


>いったいどんな倒し方なのやら

>期待

>期待っ!

>なんかまたトンデモ方法きそうだなw

>それも含めて期待してるwww


「あはは、そんなに期待されるようなほどのことでもないんです。そもそも派手じゃありませんし」


過度な期待に恐縮しつつ、再び先ほどと同じ方法で"れっどきゃっぷ"との間合いを作り、そしてその腕を掴む。

拘束完了。


「通常、モンスターと人の臓器の位置は大きく変わりません。"れっどきゃっぷ"も例に漏れず、です」


>ん?

>ん?

>臓器?


「なので、こうします」


私は指を立てると、そこに魔力を尖らせて、斜め上から"れっどきゃっぷ"の心臓目掛けて突き立てた。


>!?

>!?

>!?

>!?

>!?

>はっ!?!?!?


「この処置が終わったら、なるべく"れっどきゃっぷ"の体を仰向けに横たえましょう。そうすることで血がこぼれにくくなり、ダンジョンの床が汚れにくくなりますっ」


>ちょっとこの子、えっ?

>心臓に指突き立てた・・・!?

>コワイコワイコワイ


「あと、血をまったく流さずに仕留めることもできますが、」


>www

>暗殺拳かよwww

>ホント草

>何なのこの子www

>いやコワイってwww


「ちょっと速度的な問題で解説動画を作るのは難しいかもしれないんですよね……いったん口頭だけでもいいでしょうか?」


>いちおう教えて欲しい

>使える気はしないがなwww

>コワイもの見たさ、というか聞きたさだなw


「では、解説ですが……一連の流れを説明しますと、手を魔力で最大限鋭くしてモンスターの体内に突っ込み、その内側で心臓をギュッと破裂しない程度に握り潰してから引き抜く……これを0.01秒未満で行ないます。そうすると出血なしで心機能を停止させることができるんですっ」


>www

>こんなに分からない解説はないwww

>言ってることは理解できる

>理解できるが上手くイメージできないw

>話がちょっと異次元過ぎてwww

>ちょっと待って? 手を体内に突っ込んだらその傷口から出血するじゃん? それは許容範囲?


「傷口が鋭ければ斬った細胞は死なないので、手を引き抜いた後には傷口の神経も毛細血管もすぐにくっつきます。なので血は漏れ出ません!」


>スゲーwww

>すごいけどさwwwコワイわwww

>ていうかそここだわるところか?

>出血にこだわりあり過ぎでしょwww


「あ、これはできれば、ですね。別にこうしなきゃいけないってワケではないんですけど、なるべく出血を抑える仕留め方をするのが清掃員としての信条と言いますか……私のこだわりでして、」


>・・・そういえばこの子清掃員なんだっけ?

>え、清掃員のみなさん、そうなんすか?

>みんな心臓に指突き立ててるんすか?

>出血気にしてモンスター倒すんスか?

>私は元清掃員です。やりませんw

>俺は現清掃員ですが、あり得ませんw

>現清掃員です。モンスター倒せませんwww

>まあそうだよなwww

>だいいち清掃員は点検しないから、普通w


そんな解説をしていると、後ろから、


「か、勝ったよ……疲れた……」


AKIHOさんが肩で息をしながらやってくる。


「私1人だったらここで確実にゲームオーバーだったよ……」


「お疲れ様です、AKIHOさん」


「かたやRENGEちゃんは余裕を持って4体撃破……これが今の私とRENGEちゃんの差か……ちょっと開きがあり過ぎて上手く悔しがれないや……」


>AKIHOお疲れ!

>ドンマイ!

>というかAKIHOが普通なんやで・・・

>RENGEちゃんが異常すぎるんだw


「まあそうなのかもだけど、ちょっと早いところRENGEちゃんのスキルを私も身に着けなきゃだね……っ」


「すみません、さっきはAKIHOさんの戦闘の邪魔はしない方がいいかと思ってたんですが、私が入った方がよかったでしょうか……?」


「ううん。さっきのは私から引き受けると言ったんだから、大丈夫。気にしないで、ただ……」


AKIHOさんは腕を組んで少し悩みつつ、


「……こんなことを言うとひんしゅくを買ってしまうかもしれないけど、次からはRENGEちゃんがモンスターの相手をしてくれた方がいいかもしれないね。ホラ、たぶん私が出しゃばって相手をしようとすると……かえって配信のテンポが悪くなるような気がするから……」


>AKIHO・・・

>うん・・・

>スマンがたぶん、今回に限ってはな・・・


視聴者の人たちも同調するようなコメントを見せた。

つまり……


「これからは私ひとりで戦闘した方がいい、ってことですかね?」


「申し訳ないけど……うん。私は実況とか解説をメインにしようかな」


そんなわけで、新たな役割分担ができることになったのだった。

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