第29話 RENGEの初生配信その3

「RENGEちゃん、レッドキャップっていうのはね……」


AKIHOさんが丁寧に教えてくれる。

"れっどきゃっぷ"はどうやら他のモード(べりーはーど、と呼ばれるはーどモードの親戚?)のフロアボスとして出現する、かなりの強敵らしい。


>というかレッドキャップを知らないとかw

>知らずに倒してたっていうのが恐ろしいわw

>知らずに、っていうのおかしくない?

>レッドキャップは見分けつくだろ

>通常ゴブリン見たことなかったとか?w

>さすがに無理あって草


「あ、いえ……実は恥ずかしいことに、帽子を被ってないゴブリンは先週初めて見ました。"はーどモード"のダンジョンって初めて入ったので……」


「あ……そういえば」


>え?

>え?

>え?

>えっ?

>え?

>え?


AKIHOさんには以前同じことを伝えていたものの、しかし視聴者さんたちは『?』だらけになっている。

やっぱりそういう反応をされちゃうのか……

いちおう、説明はしておかないと。


「これもまた恥ずかしいことなんですけど、私、本当に英語が苦手で……! "へるモード"が1番簡単なモードだって勘違いしてたんですっ! だからその、"はーど"とか、"べりーいーじー"とかはずっと、難しいモードだろうからって思って、絶対に触らないようにしていてっ……」


>ん? ずっと?

>ずっとって?

>いつからずっとなんだ?


「いつからって、それは……初めてひとりでダンジョンに入った日からです」


「え……!?」


>!?

>!?

>!?

>いやいやいや!?

>初めてでHELLに!?

>ちょっと待て理解が追い付かん

>他のモードでいっさい慣らさず・・・?

>さすがに嘘やろ

>でもRENGEちゃんなら本当の可能性も?

>無いって

>申し訳ないけどさすがにあり得ないだろ

>盛り過ぎwww


「うわ……!? コメントが……!?」


ほとんどが否定的……

というか私の言葉を信じてくれていないコメントになってしまっている!

今度はAKIHOさんも、


「さ、さすがに1回は……いえ、何回かくらいは入ったことあるんじゃない? どれだけセンスがある人でも、複雑な身体強化魔法を覚えるのはそこそこ苦戦するはずだよ……?」


「え……確かに身体強化は最初の方には使えませんでしたけど、でも前半の階層くらいなら"素手"でも何とかなりますし……」


「ん、んん……?」


AKIHOさんはまた首を捻ってしまう。


……あ、そうか。素手っていうのは誤解を与えちゃうかも。


「もちろん素手って言っても瞬間的に魔力は纏いますよっ? ホラ、子供の頃とかよく河川敷にいって化石探しなんて言って石割りしてませんでしたか? その時って拳に魔力込めましたよねっ?」


「石割り? 拳? ちょ、ちょっと何を言ってるのか……」


「いえ、ですので拳を握って大きめの岩とか石とかに、『えいや』ってぶつけて割る遊びですけど……」


「しないしない、しないわよっ? え、しないわよねっ?」


>しないwww

>してないwww

>しませんwww

>してるわけないんだよなwww

>拳がイカれるわwww


AKIHOさんの言葉にコメントが同調する。


>そもそも魔力は物理的なものじゃないでしょ

>メリケンサックかなんかと勘違いしてる?

>サックあろうが拳で岩を割れる前提が草

>無理じゃねw しかも子供の時だろ?

>身体強化魔法使ってもできるもんなの?

>5,6倍強化してればワンチャン・・・?

>ダンジョンの壁を素手で砕いて進むチート攻略者が昔居てだな、ソイツは確か身体強化11倍の使い手だったよ


「別に身体強化魔法というワケでは……ぜんぜん複雑なことじゃなくって、」


私はレッドキャップが持っていた鎌を拾う。

それをドローンに見せるように、


「えっと、この刃を岩に見立てますね?」


>え?

>待って何する気?

>まさか・・・www


「はい、ちょっと砕いてみます」


>ちょっと砕いてみますwww

>何というパワーワード

>行動がパワーに溢れてるwww

>百聞は一見に如かずってやつか

>身体強化魔法なしで砕けたら信じざるを得ないな・・・


「そうですね。今は身体強化魔法を使っていない状態です。AKIHOさん、私の体を魔力は覆ってませんよね?」


「え? "魔力が覆う"って……? まあとにかく、強化された感じの魔力反応はないわね。普通の生身の状態で間違いないわ……!」


「じゃあこのまま、デコピンしますね。はいっ!」


鎌の刃は私の指が当たった箇所から、鏡にヒビが入るようにして粉々に砕け散る。


「こんな感じですっ」


>え・・・

>ヤバ・・・

>マジ・・・?

>・・・いやいやwww

>拳ですらないんですがwww

>デコピンで刃砕いたよこの子www

>これCGじゃないよね???

>どうなってんの?


「ほ、本当に砕いた……身体強化魔法なしで……!」


AKIHOが駆け寄ってきて……

ぎゅっと。

私の手を握って食い入るように見る。


「あ、AKIHOさんっ!?」


「確かにいま一瞬、指の先の魔力が爆発的に大きくなったわ……! それが素手でモンスターを倒す秘訣なのっ!?」


「ひ、秘訣? というほどのものではないと思うんですけど、そうですね。これでさっきのゴブリンも倒してます」


こうやって、と。

今度は拳を宙で振ってみせる。

風切り音と共に衝撃波が発生した。


>ヤバいってwww

>なんか白いの発生してるwww

>ソニックブームって目に見えるんやwww

>すごい音してて草

>それだけでモンスター倒せそうwww


「あ、衝撃波コレだけだとモンスターはのけ反るくらいしかしてくれないんですよね……ちゃんと拳を当てないと倒せないです」


>実証済みで草

>おもしろすぎるwww

>強すぎワロタwww

>これできるなら身体強化魔法要らないな

>疑ってごめんよRENGEちゃん・・・

>素手でもいけるわ、これなら

>素手の概念が崩壊しそうで草


「す、すごい……これって私にもできるのかしらっ?」


「はい。誰でもできると思いますよ?」


>マジかっ!?

>教えてほしいっ!!!

>これ覚えたらヤバいでしょ!

>え、魔法技術に革新起こるんじゃね?


「わ、私も教えてほしいっ! 今すぐにでも……なんだけどっ!」


AKIHOは苦渋の表情を浮かべると、首を横に振る。


「技術の詳細ってね、RENGEちゃん、すごく大切な情報よ? 情報には価値がある。それを……私の配信で公開しちゃうのはRENGEちゃんにとって大きな損失になる気がする」


「えっ?」


AKIHOさんは私に近づくと、耳元で、


「……そういう情報はお金になるの。だからね、簡単に私の配信みたいな他所ヨソで公開しない方がいいわ。それはRENGEちゃんのチャンネル上で公開されるべきものよ」


「……!」


……そっか、そうだ。

私はただ配信をしにきたんじゃない。

配信を通じてお金を稼げるかどうかを確かめにきたんだ。

なら、価値のあるものには敏感にならないといけないんだ。


「分かった?」


「……はいっ」


念押ししてくれるAKIHOさんへと頷いた。


「はい、視聴者のみなさんっ! このRENGEちゃんの技の情報は後日改めてです! 私のチャンネル上ではなく、どのような形でかは分かりませんがいずれ公開されると思いますのでそちらの続報をお待ちくださいっ!」


>お預けっ?

>今知りたいんだがっ?

>AKIHO空気読め~!

>まあいいんじゃね?

>後で公開してもらえるなら

>今知りたいって!

>焦らし要らんって


コメントは少し荒れ気味だ。

AKIHOさんはただ私のこと思ってくれているだけなのに……

よしっ


「あっ、あの……!」


AKIHOさんを背に、

私はドローンの正面へと立つ。


「私はまだ配信活動をするかは決めかねていますが……それでも技術の解説の動画くらいならすぐに公開しますのでっ!」


>いーや今知りたい

>後でもいいっしょ。公開してくれるんだし

>いま知りたい

>知りたい

>知りたい

>知りたい勢なに?BOTか?

>配信の趣旨考えろよ、技術解説ではない

>でも強さの秘密に迫ろうって趣旨だろ?

>無理に情報引き出すなって言ってただろ、説明で


「あ、あの、ケンカはしないでくださいっ! 公開する動画には他にもいろいろ私の考えた応用技とかも入れますのでっ!」


「お……応用技って?」


「はいっ。魔力弾とか、魔力ナイフとか……」


私は鎌の柄の部分を指でなぞる。

細切れになった。


「たとえばこんな感じのヤツなんですけど、もしかしてご存じでしたかね……?」


「……!?」


>!?

>!?

>!?

>えっ・・・

>いま何を・・・!?


反応を見るにAKIHOさんを含め、視聴者のみなさんもまた驚いてくれたようだ。

よかった、需要はあるんだね。


「もしご存じでなかったのであればこちらも公開する動画に解説を含めるので、今はそちらを待っていただければと」


>・・・

>・・・

>・・・待つか

>もう、待つしかないな

>どこからツッコめばいいのか分からん

>聞きたい箇所が多すぎる

>イチイチ全部に喰いついてたら陽が暮れそう

>待とう。俺たち、今は黙って見てた方がいい

>それなw

>というか序盤でこれって、つまりこのレベルの情報がこれからどんどん出てくるってこと?


「えっと、この"れべる"? かは分かりませんけど……不死のモンスターの倒し方とか、遠距離攻撃の精度と威力を100倍にする方法とか、ドラゴンを2回の攻撃で倒す方法についてとかはその"れべる"に含まれるんでしょうか……?」


>!???

>はい!!!

>含まれます!!!

>マジで言ってんのか・・・言ってんだろうなぁ

>ドラゴンは草

>遠距離100倍って無敵じゃんよw

>不死ってヒュドラ!?

>倒せるのっ!?ぜひ見てみたいです!

>レベチで草

>レベルが想定を大幅に超えてきて草

>ちょっとコメ欄の争いのレベルが低すぎた

>なんか騒いでてすみませんでした!

>ホントにすみません!!!

>申し訳ございませんでした!!!

>解説動画は後ほどで結構でございますっ!

>引き続き攻略配信よろしくお願いしますっ!!!


「あっ、えっ? とにかく需要はあるということですかね? みなさんそんなにかしこまらず……それでは続きもよろしくお願いしますっ」


何だかコメント欄の様子? ノリ? が変な感じになっちゃったけど……

ひとまず解説は後回しで進められるようだ。

よかったよかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る