第27話 RENGEの初生配信その1
土曜日、生配信当日。
秋津ダンジョン管理施設にて。
ダンジョンの入り口の部屋にいるのは2人。
私とAKIHOさんだ。
「レンゲちゃん、準備はいい?」
「……はいっ!」
AKIHOさんは配信用のカメラを起動した。
「は~い、お待たせしました。視聴者のみなさんこんにちはっ! 生配信へようこそっ! ダンジョンRTA走者のAKIHOでーすっ!」
>こんにちはー!
>Hi!
>ういーっす
>この日を待ってた!
>Foooooooooooooo!!
>配信サンクス!
>AKIHO~~~!
>結婚してくれぇぇぇッ!
さっそくコメント欄には怒涛のごとく大量のコメントが押し寄せる。
さすがの人気っぷりだった。
>同接数がすでに20万越えてる件www
>待機時点で15万だったからなwww
>全世界が注目してるんだろ
>そりゃそうよ
>海外の反応まとめおもしろかったな
>クレイジーとFワード飛びまくってたw
>配信サーバー落ちない? 大丈夫?
「配信サーバーは大丈夫っ! ちゃんとサーバー強化してもらって、しかも監視までしてもらってるから! しかし同接数が……もう30万っ!? こんなの私も初めてだよ……!」
>やべぇwww
>これはこれで快挙で草
>コメント欄にも海外勢多そうだな
「いやー、それだけ今回の配信は注目度があるってことだね。じゃあ、あまり前フリで焦らすのもよくないよねっ!? ではさっそくですがみなさんご存じの通り、本日は特別ゲストをお招きしておりますので、その紹介からっ!」
>待ってました!
>待ってました!
>待ってました!
>謎の美少女A!
>キター!!!
>謎の美少女A~~~!!!
「視聴者さんご待望の謎の美少女Aさんですっ! カメラの正面にどうぞっ!」
「はっ……はいっ!」
AKIHOさんの手招きにいざなわれ、私はカメラの前に出る。
カメラはどろーん? という機会に備え付けられており、フヨフヨと浮いている。
カメラレンズの焦点が私に合う機械音がかすかに聞こえた。
「あ、あのっ……私、謎の美少女Aです……! よろしくお願いいたしますっ!」
ペコリ。
お辞儀をする。
すると"すまーとをっち"? でいいんだっけ?
AKIHOさんに貸してもらった最新式の腕時計が激しく震動した。
……確か、配信に対してコメントが殺到すると震える仕組みなんだっけ?
恐る恐る時計の画面へと触れる。
するとその"すまーとをっち"にコメントが流れ始めた。
>謎の美少女Aキター!!!
>本人?
>同じ顔してるし本人だろ!
>声カワイイ声カワイイ!
>めっちゃ美少女っ!!!
>すごい緊張してて草
>カワイイィィィィィ!
>投げ銭不可避
>待っててよかったぁぁぁ!
>ようこそ配信の世界へ!!!
「うわっ、す、すごいコメント量……!」
まるで滝のように文字の羅列が上へ上へと流れていく。
ほとんどが肯定的なコメントだった。
……よ、よかった。
施設長に『もしかしたら否定的なコメントやセクハラ混じりの嫌なコメントが沢山くるかもしれないから、気を強く持つように』と言われていただけに、ちょっと安心した。
「謎の美少女Aさん、大丈夫ですか?」
AKIHOさんに呼ばれ我に返る。
「あっ、はいっ! すみません! ちょっと視聴者さんたちのコメントに圧倒されていました……!」
コメントはずっと絶え間なく流れ続けている。
しかもほとんどが自分に宛てたもの。
>カワイイ!
>今日も記録更新おなしゃす!
>どうやったらあんなに速く動けるんです?
>CGじゃないんだよね???
「あっ、CGではないです。普通に身体強化魔法を……」
>今日朝ごはんなんだった?
>世界記録獲ってどうだった?
>なんでチャンネル開設しないんだ?
「ちゃ、"ちゃんねる"とかはちょっとまだよく分からなくって……」
>今日の服装可愛いね!
>あ、マジだ。作業着じゃない!
>パーカーでもないな
>ちょっとボーイッシュ?な感じでいい
>防具も着けてんのか
「ありがとうございます! その、防具や服は生配信するんだから買ってきなさいと、施設長にお金を出していただき、事務の方に選んでいただきましたっ」
結局着ているのはそれほど派手ではない(露出の少ない)動きやすい素材の衣装だ。
分類するなら短すぎないゆったり目なショートパンツに長袖の服で、綺麗めな"こーでぃねいと"である。
>施設長GJ
>施設長さん超優しいやん
>俺も服買ってあげたい・・・
>欲しいものリスト公開はよ!!!
>欲しいもの何かないんですか?
「えっ、えっ、えーっと、」
コメントでの質問がいつまで経ってもぜんぜん途切れない。
こういう場合、いったいどうすれば……!
「はーい質問は終わり終わりっ。謎の美少女Aさんもコメント全部に律義に答えようとしなくていいからねっ! せっかくの生配信がQ&Aで終わっちゃうから」
助け舟を出してくれたのはAKIHOさんだ。
「それよりも、確か名前に関して言いたいことがあるんだよね?」
「あっ、はいっ!」
そうだ、そうだった。
今日までに決めていたこと。
まず何よりも先にそれを発表しなくては!
「あのですね、私の名前についてなんですが……謎の美少女Aとして定着させていただいてるところ申し訳ないんですが……本日はRENGEと呼んでいただけると嬉しいですっ」
事前の打ち合わせ通りならこのタイミングで【RENGEと呼んでください】という"てろっぷ"が出ているはずだ。
>RENGE?
>れんげ?
>RENGE?
>謎の美少女Aじゃないの?
>改名?
「あ……はいっ! もともと謎の美少女Aというのも私が決めた名前ではないので……」
>あーこれあのディレクターが戦犯なヤツ?
>ディレクター?
>1番最初の生配信を仕切ってたヤツ
>あのディレクター炎上してたよな
>なんか未契約で謎の美少女A使ったらしい
>マジ?
>走者名登録も勝手にされたのか?
>ディレクターくそ過ぎやろw
「そうですね……ちょっと私は付けた覚えがないですし、それに自分のことを『美少女』とは呼びたくないので変えたいな、と」
>なるほど
>承知した
>事実美少女ではあるんだけどね?
>本人が変えたいならしょうがない
>よろしくRENGEちゃん!
どうやら問題なく受け入れてくれたらしい。
RENGEという名前で呼んでくれる沢山のコメントが押し寄せた。
「さて、視聴者のみなさんがRENGEちゃんと仲良くなってくれたところで、それでは今回の生配信の趣旨の説明です!」
AKIHOさんは手慣れたように説明を始めていく。
要約すると今回は『いかにしてRENGEが世界記録を更新したか、RENGEの強さの秘密とは何か!?』というものだ。
「とはいっても技術は大切な情報です。RENGEちゃんには公開しても問題ないだろう、と考える範囲でいろいろ教えてもらえたらなと思っています。視聴者のみなさんもそのスタンスで、無理にRENGEちゃんから情報を引き出そうとするような行為はご遠慮くださいっ! 今日はあくまで【一般からの特別ゲスト】という扱いですので」
>はーい!
>はーい!
>えっ、マジ?
>チャンネル開設ないんかな?
>だとしたらこの配信かなり貴重なんじゃ
「はい、みなさんご協力ありがとうございますっ! 説明も終わったところで、さっそくダンジョンに潜っていきましょうっ! RENGEちゃんも準備はいいですかっ?」
「あっ、はいっ! 大丈夫ですっ!」
>チャンネル開設ないのー?
>あったら絶対登録するんだけどな
>まあ今はいいじゃん
>配信楽しもうぜ
>本人の自由意志だ
コメント欄からは"ちゃんねる"についての質問が山ほどやってくる。
しかし、AKIHOさんはそれについては触れないで、
「それじゃあまずはモード選択からですね。RENGEちゃん、お任せしてもいいですか?」
「はいっ!」
私はまだ配信活動をするかは決めかねている。
このまま色んな人に知られ続けて生きていくか、それとも一般人としてほとぼりが冷めるまで存在感を消すように努めるか……
どちらがいいかは正直まだ分からない。
……とりあえず今は、この生配信を乗り切って自分の適性を試してみるしかない!
私は"ばあちゃるしすむてむ・こんとろーらー"を操作する。
いつも通りにこの操作盤の1番下、透明なフタに覆われて簡単には押せないようになっている"へるモード"をポチリ。
準備おっけーだ。
「はいっ、RENGEちゃんありがとうございます! それではこれよりHELLモードでの攻略を──って、えっ?」
>e
>え
>え
>えっ?
>えっ!?
>はいっ!?
>ちょっと待って?
>HELL?
>HARDじゃなくてっ?
>HELLモード!?!?!?
「RENGEちゃんっ? いま、HELLモードを押さなかった……?」
「えっ? あ、はい……」
「待って? HELLモードで……どうするのっ? もしかしてこれ、本気の攻略動画と勘違いしてるっ?」
「あ、いえ、毎日お仕事で点検作業してるモードを解説に使おうと思ったんですが……すみません、ダメだったでしょうか?」
私の問いに、AKIHOさんは口をあんぐりと開けて固まってしまった。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
本作はコンテスト参加中で、
3/15(金)までの読者選考中です。
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