第25話 お休み
謎の美少女Aが爆誕して2日後。
月曜日の朝。
本来なら私はダンジョン管理施設へと通勤するために朝の準備をしているところだけど……
今日はまだパジャマのままだ。
「ふぅ……」
「どうしたの、お姉ちゃん、ため息なんて吐いて」
ランドセルを背負った妹、ナズナが問いかけてくる。
「それと、お仕事の準備はしなくていいの?」
「うん、ちょっといろいろ事情があってね……お姉ちゃんは1週間くらい勤務が無くなりました……」
「ふーん?」
ナズナはあどけなく首を傾げるが、
「でもよかったね。お姉ちゃん、4月からがんばってずっと働いてたもんね。昨今各企業で取り入れられているリフレッシュ休暇ってヤツだ」
「り、りふれっしゅ……? たぶんそういうのじゃないんだけどね」
「なら有給消化? あれ、1度繰り越されるとなかなか使い切れないから、まとめて消化するように推進する企業も結構あるみたいだね。本来の有給の導入意図として正しいかどうかと言えば微妙だけど」
「ナズナはいったいどこからそういう知識を仕入れてくるの……?」
小学生なのに、ナズナは姉の私よりも色んなことを知っている。
本当に不思議だ。
「ちなみに有給消化でもないよ」
「ふーん……じゃあどういうの?」
「うーんとね……私、ちょっと一部の世間的に有名になっちゃったというか……」
「有名に?」
ぽくぽくぽくぽく……チーン!
なんでか分からないけど、そんな擬音が聞こえた気がした。
「わかった、お姉ちゃんが最近世間を騒がせてる【謎の美少女A】なんだねっ!?」
「えぇぇぇ──っ!? なんでっ!?」
「やっぱりねっ」
ナズナは推理が当たったのが嬉しいのか、ムフーっと満足げに息を吐く。
「土曜日と日曜日、勉強の休憩がてら公園とか図書館に行ってたんだけど、そのとき色んな人がウワサ話していたの。謎の美少女Aについて」
「ど、どんな……!?」
「うーんとね、謎の美少女Aっていう単語と一緒に、清掃員/RTA/世界記録/更新/ヤバい/近所で/まだ中高生くらい/可愛い/ダンジョン/秘密主義……みたいな関連語が聞こえてきて、それらを組み合わせて分析してみたらお姉ちゃんが怪しいかなって」
「す、すごいっ……ナズナ、アレだっ! "えーあい"だっ!」
「AIって……それ別に褒め言葉じゃないよ? それにAIって人工知能のことだからね? 私の思考回路が人工的にプログラムされた論理回路ごときに劣るわけがないじゃない」
ナズナはエッヘンと胸を張った。
うん、本当に胸を張ってもいいよ。
それくらい本当にすごいもんっ!
「すごいなぁ……どうして通知表で5教科ぜんぶ最低評価をもらうようなおバカなお姉ちゃんから、こんなに賢い妹が生まれたんだろう……?」
「うん、そもそもお姉ちゃんからは産まれてないよ。私は妹だからね」
ナズナのツッコミはいつも切れ味が良い。
「それじゃあナズナ、あの、お姉ちゃんのことだけど、」
「わかってるって。学校で言いふらしたりしないよ。もしお姉ちゃんのことがバレたら色んなところに迷惑かけちゃいそうだし」
「う、うん。ごめんね。よろしくねっ」
「別に謝るようなことじゃないし。それじゃあいってきまーす」
「いってらっしゃい」
小学校へ向かうナズナを見送ると、私は朝ごはんの片づけをする。
……ホント、賢い妹でよかった。
昔から、たぶん幼稚園くらいの頃から妹は賢いと色んな先生から言われていた。
なんでも、ぎ、ぎふ、ぎぶ……ぎぶあっぷ?(※)
とかいうものらしい。
(※ギフテッドと言いたい)
「やっぱりナズナはしっかりと大学に行かせないと……」
きっと将来は大物になるに違いない!
ならば今はお姉ちゃんである私ががんばらねば!
「さて、今日やることは……っと」
お仕事が休みなのには理由がある。
施設長いわく、
今週いっぱいはきっと報道陣が施設の前に詰めかけるであろうとのこと。
『レンゲちゃんが来たら大騒ぎになっちゃうから、当面の1週間はお休みね。その代わり準備してほしいこともある』
施設長はそう言って、私に1万円札を渡してきた。
しかも10枚っ!
つまりは10万円だ……!
「け、経費とは言われたけど……本当にこんなにいいのかなぁ」
それは装備代。
次の土日に施設で行う【AKIHO×謎の美少女A 生配信】番組でレンゲが着るための防具に使うもので、施設長いわく『ダンジョン配信に相応しい恰好をすべき』とのことだった。
それにしたって10万円は私の感覚じゃ高すぎる。
施設長は『生配信が自分の施設で行われればそれだけ知名度アップにつながるのだから、これくらいは当然の必要経費』とは言っていたけど。
……本当かな?
なんというか、ただ私のためを思ってしてくれているだけな気もする。
「でも、はぁ……。10万円の買い物なんて初めてだよ……これまでは普段着だってシーズンオフ(※)でワゴンセール中(※)の数百円の服しか買ったことないのに……」
(※日常使いするカタカナ英語くらいならわかる)
AKIHOさんと一緒に生配信をする……
そう決断するのにも勇気が必要だったけど、その準備もまたこんなにドキドキしてしまうとは。
「でも今回は【助っ人】も来てくれるし、きっと大丈夫だ……!」
これも全て経験のため。
もしも私が配信活動を個人ですることになったとしたら、絶対に必要になる知識。
私のため、ひいては妹のためにも躊躇なんてしてられない!
「……さあっ、準備しようっ!」
助っ人との約束は昼。
まだ時間はあるけれど、高い衣装を買いに行くのだからしっかりと準備はしていかなきゃ!
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