第20話 レンゲ、さらに注目される
「──ふう、これでよしっ!」
私がダンジョンの地下30階層へとたどり着くと、
──テッテレーレーレ~!
という音と共に、聞き慣れた放送が流れる。
『RTA完走おめでとうございます。あなたは【HARD】モードダンジョンを完全クリアいたしました。今回の記録は15分00秒です。本日の施設最短記録です』
狙い通り。
ちゃんと15分でダンジョンを完走することができた。
「施設長から腕時計を借りれてよかったぁ」
ちゃんと1階層ずつ30秒で攻略するようにしたから、速すぎない結果になった。
これなら私が目立つことなく、RBの記録を上書きできるハズだ。
「まあ、本当に密やかな抵抗、って感じなのが情けないけど……」
本当ならAKIHOさんがRBに色々言われてるあの場で助太刀すべきだったのかもしれないけど……私はなんて言って割り込めばいいのか分からなかった。
それに知らない男の人に意見するのなんて、やっぱり怖いし。
「さて、帰ろー」
私はダンジョンを遡って地上へと戻る。
施設長には無理を言ってしまったし、ちゃんとお礼を言わないと──
「ああ、おかえりレンゲちゃんっ! 早速だけど逃げようかっ!」
「え……えぇっ!?」
なんでも、ダンジョンの大部屋の前に大勢の人々が押しかけているらしい。
施設長は鍵を掛けた戸を背に、冷や汗をたくさんかいていた。
……いや、どうしてっ!?
「実はね、私も気が付くのが遅れたんだが……配信されていたらしい」
「配信……?」
「レンゲちゃんの攻略の様子がね、最初から最後までさっきのRBとかいう男と、その後にAKIHOさんによって実況生配信されてしまっていたんだよっ」
「え……えぇぇぇっ!?」
ウソでしょっ?
しかし、施設長は首を横に振る。
「ぜんぶ映っていたよ……1階層ごとにしっかり30秒で攻略する様子とか……」
「さ、30秒ならちょっと良いくらいですよね……? そんなに目立たないハズですよね……?」
「……言ったろう。【全部】配信されていたって」
「……それじゃあ」
「ああ」
施設長は力なく頷いた。
「2秒で階層全踏破して残りの28秒を腕時計を見ながらジッとしている様子もぜんぶ配信されてたよ……」
「そ、そんなぁ……!」
「他にも、そもそも15分がどれだけ速いタイムかとかいろいろ説明したいことはあるけれど……とにかく今はこんな状況だ。早く退散することにしよう」
施設長は背にしている戸を振り返りつつ、
「とりあえず今はここの施設長に事情を説明して鍵を借りているからなんとかなっているけどね……報道陣に建物ごと囲まれるのも時間の問題だろう」
「そんな、建物に立てこもった凶悪犯みたいな扱いをされちゃうんですか……?」
「されちゃうかもしれないね……さあ、行くよ」
私は施設長に連れられて、部屋の従業員通用口を通って施設内のロビーに戻る。
幸いなことに、他のお客さんたちの注目は先ほどまで私たちの居た部屋に釘付けで、こちらに気付く者はいない。
私はそそくさと更衣室へ戻ると急いでパーカーを脱いだ。
普段着に戻る。
「……ふぅ、もう安心かな……」
「油断はしないようにね。いちおう昨日の配信で顔も見られちゃっているんだから」
施設長と共にダンジョン管理施設を後にする。
駐車場の車へと向かうその道中で、
「レンゲちゃん、今日キミが見てきたこと、実際に体験したことによって、昨日キミがどれだけすごいことを成し遂げたかは分かってもらえたと思う」
施設長は話す。
「ただね、問題はここからだ」
「問題、ですか……?」
「レンゲちゃん、キミはもう有名人なんだ。このままダンジョンへと関わり続けるのであればその注目をずっと避けることなんてできないだろう……たとえ清掃作業員だけを続けたいのだとしても、ね」
「……はい」
「だから決めなければいけない。ダンジョンから離れて注目を避けるか、それともダンジョンの仕事を続けて有名人として生きるか」
「……施設長、もし私があの施設で働き続けたいと言ったら、迷惑でしょうか?」
「そんなわけないさ。私自身はレンゲちゃんにウチで働き続けてほしいと思っている」
「そ、そうなんですかっ?」
「もちろんだよ。レンゲちゃんは一生懸命に働いてくれるし、よく私たちのことを気遣ってくれるし、だからレンゲちゃんが居てくれるとすごい助かるんだ」
「でしたらっ、私はこれまで通り働かせていただきたいですっ! 私も施設長たちにはたくさんお世話になっていますし、お仕事もやりがいがあります。それに……」
楽しいだけじゃ生きてはいけない。
実際、ダンジョン清掃の仕事は大変な肉体労働だ。
でもその分お給料が良い。
他の仕事じゃ同じだけ働いても収入は下がってしまう。
そうしたら……
「私はどうしても、お金を貯める必要が……」
「妹さんのためにだよね? それなんだが……もしかすると、レンゲちゃんにはもっと相応しい稼ぎ方があるのかもしれない」
「もっと相応しい稼ぎ方……?」
そうこう話している内に、駐車場へと着いた。
車まであと少し。
「長くなる。詳しくは帰りの車内で話そうか」
「はっ、はいっ」
そう応えて車に乗りかけたところで、
「ちょっ、ちょっと待ってぇぇぇっ!」
どこかで聞いたような女性の声。
振り返るとそこに居たのは、
「あ、AKIHOさんっ!?」
「見つけた……き、奇跡ね……!」
AKIHOさんは両肩で息をしながら、膝に手を着いて立っていた。
そして私を見て、
「あなたが……あなたが謎の美少女A、さんなのよねっ?」
「えっ、えぇぇぇっ!?」
さっそく正体がバレてしまった。
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