第18話 AKIHO生配信その1

~AKIHOの視点~


……まさか、また謎の美少女Aを目の前にできるなんて!

しかも、昨日の実況の翌日に!


RBに代わって始めた実況生配信。

AKIHOは胸に湧き上がる熱々としたものをグッと仕舞いこみ、モニターへと真剣にスマホを向ける。


「視聴者のみなさん、見えてますかっ? いま、パーカー女子走者が15階層を突破しましたっ! フロアボスのハイ・オークを、またもや素手で倒してしまいました!」


>見えてた!

>素手の攻撃は見えなかったけどwww

>それなwww


「あっごめんなさい……スマホの映し方が悪かったですかねっ?」


>違う違う!

>バーカー女子が速すぎるんよ

>目で追い切れないというwww

>動体視力がついていかないのツラ・・・

>さすが謎の美少女Awww


「なるほど、確かに尋常ではない速度ですからね……謎の、ではありませんね。パーカー女子走者、再び30秒を待つ時間となりました」


>そろそろ呼び方統一せん?

>どっちで呼べばいいんや?

>今はパーカー女子だしそっち?

>でも結局は謎の美少女Aだろ

>確定したっけ?

>確定も何も・・・

>こんなことできるの謎の美少女A以外にいなくね?


「そうですね……私も正直、このパーカー女子走者は謎の美少女A走者と同一人物ではないかと思っています」


私がそう言うと、コメント欄が一気に活性化する。

根拠を問うものが多い。


「私がそう思う理由は2つあります。1つは背格好です。あの時と服装は違うものの、ダンジョンモンスターと並ぶことで大体の身長は分かります。恐らく158~160cmといったところでしょうか」


>すげぇ

>そんなん分かるんか!

>さすがAKIHO

>もう1つは?

>教えてくれ~!


「もう1つの理由……戦い方ですね。謎の美少女Aもそうでしたが、25階層まで武器を使用しませんでした。このパーカー女子さんもそう。まるでそもそも武器を使うという選択が無いような……おそらく、そういう攻略方法が無意識レベルで彼女の身に染み付いているのでしょう」


>まーじーでー

>彼女は清掃作業員なんだよね???

>暗殺術が日常所作に滲み出る仕事人かよ・・・

>必殺仕事人で草

>忍者かよwww

>美少女くノ一かな?

>うーんそのカテゴリーはオタク性癖に刺さる

>時代劇・特撮好きにも刺さるんじゃー


「必殺仕事人……というのは【言い得て妙】ですね。恐らく彼女は特殊技能を使っています」


>特殊技能?

>なんじゃそりゃ

>なんて中二病チックな・・・俺の邪眼が疼く!


「邪眼? は分からないですが、素手による攻撃であれほど綺麗にモンスターを倒すのには何か技能があると考えて間違いないでしょう……ちょっとすみませんが、次の第20階層、フロアボス戦で1度私も本気を出します」


>ん?

>AKIHOが本気?

>なにすんの???


「身体強化魔法を使います。部分的にだけギリギリかけられる7倍の強化を動体視力にだけ注ぎ込んで、謎の美少女Aがいったい素手でどんな攻撃をしているのか観察します……!」


>おおっ!

>マジかっ!

>ていうか7倍いけるんや……スゴ

>日本トップレベルでも10倍はいないんだっけ?

>9倍やな

>国内は9倍が最高値のハズ

>そう。国内は9倍、世界だと14倍までかけられる人がいる。現在主流の筋肉補佐の身体魔法強化の特性的にそもそもアジア系走者が耐えられる範囲は狭いというのも要因にある。筋肉構造的に欧米・アフリカ系走者の方が高い倍率で強化ができる

>上コメながっ

>長いよwww

>博識なヤツいるな?

>博識コメ助かるわ


コメント欄から一度目を離す。

そして集中……

少しでも気を緩めれば魔力が暴走し、ケガの危険性がある。


……それでも、見たいっ!

それは視聴者のためだけじゃない。

きっとそこには私が目指す高みもあるに違いないからだ。


そしてしばらくして、20階層に彼女が現れる。

15階層を突破してからキッカリ120秒後だ。


〔ギュォォォッ!!!〕


謎の美少女Aを迎え撃つのはオーガ。

2メートルを容易く超す巨躯に、棍棒のような武器を持っている。

攻撃力に特化した攻撃型モンスターだ。


──謎の美少女Aはしかし、躊躇しない。


「(……動いたっ!)」


謎の美少女Aがオーガの懐へと一直線に飛びこんだ。

通常時の7倍に引き上げた動体視力がその動きをとらえる。

しかし、


「(……これでも速すぎるッ!)」


……もっと集中しなくちゃ。

謎の美少女Aの全体を追うんじゃない。

彼女が仕掛けようとするその攻撃だけに意識を向けるんだ!


謎の美少女Aの右腕に視線を集中。

すると、えた。


「……なっ!?」


謎の美少女Aの貫手がオーガの胸、心臓の位置にまるで滑り込むように入った。

そして一瞬、オーガの胸を中心に胴体がわずかに膨張したかと思うと、その後すぐに謎の美少女Aの手は引き抜かれた。


「今のは……?」


刺し殺したわけじゃない。

何故なら出血が無かったから。

美少女Aの手は血に染まっていなかった。


……それと気にかかったのはオーガの体だ。

一瞬、風船のように膨らんだような気が……


「まさか……!」


昨日のコメント欄を思い出す。

謎の美少女Aが素手で倒したモンスターたちがあまりに綺麗に死んでいくから、『殴っているのではなく、心臓を握りつぶしているのでは?』なんていう恐ろしい推測コメントがあったことを。


……まさか、心臓を出血しないように握りつぶして、心機能を停止させている……!?


なぜ、そんな周りくどいことを?

出血を抑えるため……?

でもなんで?


「(謎の美少女Aは……清掃作業員だ。だとしたら……)」


血でダンジョンを汚さないため……?


──ゾクリ、と。


その考えに至って、背筋に冷たいものが奔る。

まさか彼女はダンジョン攻略にあって、

1分1秒を争うRTAの中にあって、

それでもなお、清掃作業員としての役割を全うしているというの……!?




=======

ここまでお読みいただきありがとうございます。


本作はコンテスト参加中で、

3/15(金)までの読者選考中です。


もし、

「続きも読みたい」

「おもしろい」

「今後の展開が楽しみ」

など思っていただけたら、

ぜひ☆評価をよろしくお願いします!

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