第17話 RB@Fixer生配信その4
~RB@Fixerの視点~
「はぁっ? なんだよ、放せよッ!」
「イヤよ」
「はぁ? 訴えるぞッ!」
俺がそう言ってもAKIHOは俺の腕を放さない。
「RB@Fixer、アンタそれでも配信界隈のRTA走者なワケっ? 私のトコにDM来たのよ。いま大注目の謎の美少女Aがアンタんとこで配信されてるって」
「だからなんだよ……!」
「これだけの注目を集める配信してて、なんで途中でカメラ止めるって選択になるわけっ!? 同接数見てんのっ!? もう1万越えてんのよっ!?」
「……!?」
AKIHOに突きつけられた配信画面、
ずっとコメ欄しか見ていなかったから気づいていなかったが……
はっ?
1万5000人!?
配信開始した時は85人とかだったろ!
こんなに早くっ!?
「こんな注目度の高い配信をブチ切りにするっ? まあ確かに配信を切るも切らないもアンタの自由よ。でもね、こうしてひとつの配信に集まった人たちの期待を裏切るようなことをして、それで配信者界隈のRTA走者を名乗れるのっ?」
「クッ……」
>ド正論で草
>RB何も言えないやんwww
>散々RTA配信界隈でトップ獲るとか言っててwww
>この有様は草
>ここで配信切ったらもう界隈に居場所ないよ
>AKIHOが最後のチャンスくれてるって気づけよ
>それすらも気づけないならもうマジで失せろ
「し、し、知るかよ! 俺が終わりっていったら俺の配信は終わりなんだッ! テメーみたいな格下にとやかく言われる筋合いはねーんだよッ!」
そうだ。
コイツは格下なんだ。
俺よりタイムの遅い……ザコだ!
同接数1万5000人?
上等じゃねーか。
最後にこれだけAKIHOに認めさせて終わりにしてやるっ!
「おいAKIHO! お前はさっき俺にRTAで勝つとかイキってた挙句、ボロ負けしたよなっ? それが敗者の態度かよっ?」
「……はぁ?」
「『はぁ?』じゃねーよwww なにとぼけてんの? 俺に負けるヤツが上から目線で俺に配信続けろって? 何様だよ、ちょっとは立場を弁えて敬語のひとつでも使ってみたら?www」
「……」
「だからAKIHO、お前が頭下げてちゃーんと俺を敬って頼んでくるなら配信を続けてやってもいいよwww さ、どうすんの? 注目度の高い配信なんだろ、これ? だったらお前も期待を裏切るなよwww」
ほら、どうだ?
頭を下げたら俺は美味い。
俺がAKIHOを倒したことが周知の事実になるから。
下げなくても俺は美味い。
なにせAKIHOだって視聴者の期待を裏切るわけになるのだから、俺が同じことをしたって問題にならない!
「まずは認めるところからスタートなw お前は19分台で俺は16分31秒。これに間違いはないだろ? なら俺の方がお前より格上だ、そうだろ?」
「……そうね。タイムについては確かにその通り」
「ホラっ、聞いたか視聴者どもっ! 俺はウソなんてひとつも、」
「でも私はタイムで人を見る目を変えたりしない」
「……はぁ?」
「タイムで決まるのは実力よ。ただの実力。だから今回は私の実力がRB@Fixer、アンタに劣ったってことでいいわ。でも、だったら何なの?」
AKIHOが氷のように冷たいまなざしを向けてくる。
「私が敬う人は私が決める。ましてやアンタに頭を下げるなんて考えられないわね」
「……ハッ! 結局お前も視聴者を裏切るのかよっ!」
「そうね。それについては今の視聴者さんには申し訳ないことをする……でも、ひとりの女RTA走者として、コイツに頭を下げるのだけは絶対にイヤ。ワガママでごめん。だから、私なりにしっかり償うわ」
AKIHOはそう言ってスマホを取り出すと、
「本当にごめんね、視聴者さんたち。この生配信は守れなかった。でもスマホがあれば配信はできるわ。だから……私が自分で生配信するからっ」
AKIHOのスマホ画面は配信モードに切り替わっていた。
同接数が一気に2000を越す。
そしてそのまま1000単位で増えていく。
3000、5000、8000、1万、2万──
「専用のカメラはないし、このモニター映像を直で流す準備の時間もないから画質も音も悪いけど……私がなるべくしっかり状況解説するから! ごめん、できたら付き合って!」
>ありがとう!
>配信ありがとう!
>ありがとう!!!
>謝るな!感謝してる!
>本当にありがとう!
>AKIHO最高!
>感謝!
>AKIHO、ありがとう!
>謝らないで~!
>全然いいよっ!
>DM送った者です。無理言ってごめんなさい
>ありがとう!
>AKIHOはすごい。カッコイイよ!
>ありがとう!
>ありがとう!
>AKIHOが来てくれてよかった!
すぐさまズラっとコメント欄が埋め尽くされる。
感謝や歓迎の言葉でだ。
AKIHOは俺に背を向けると、
「さて、それでは今の状況を説明するわね。今は謎の美少女A……今はパーカー女子さんかしら。彼女がいるのは第10階層のようね。倒れてるサイクロプスの横で腕時計を見て立ち止まってるわ……え、なんで?」
>AKIHOが1番状況分かってなくて草
>まあ駆けつけてくれたトコだししょうがないw
>1階層30秒でクリアしてるんだよ
>謎の30秒縛りがある
>時計見て30秒測ってるっぽいよ!
「えぇっ!? 30秒ジャストで1階層を進んでるのっ!? なんでぇっ!?」
>www
>www
>ですよねwww
>目的がまるで謎なんスwww
>なんか理由があるのかも
AKIHOの生配信は普段と同じように、
先ほどまで俺と言い争っていたのがウソみたいに始まった。
テンションも普段の配信と変わらない。
一方で俺の配信からは、
6000、5000、3700、1800、500──
次々に人が抜けていく。
同接数はすぐに2桁に。
……ふざけんな。
なんだよ……
なんだってんだよ……!
「オイッ! AKIHO!」
怒鳴りつける。
「お前がいくら人気商売で同接数を稼ごうがなっ、お前が俺に負けてる事実は何も変わらねーからなっ!?」
「……」
「お前は19分、俺は16分! これはれっきとした差だ! お前は俺には勝てない! 女RTA走者ごときが、本物のRTA走者に混じって生きてけると思うなよッ!」
クルッと。
AKIHOはスマホのカメラをモニターに向けたまま、こちらを振り向いた。
「今は確かに実力不足だって私も分かってる。でもね、私は現状に満足してるわけじゃない。まずは私は15分を切る。そしてそれ以上の力を着ける」
「はっ……?」
「19分だとか16分だとか、そんな次元の話はしてられない。だってもう人類の限界と呼ばれた10分の壁も、女子RTA走者だからトップになれないとかいう常識もすべて昨日
AKIHOが俺を見る。
「アンタはどうする? RB@Fixer」
「……!」
気圧された。
足が勝手に後ろに引いた。
「私はね、謎の美少女Aを目の当たりにして、昨日は正直すごく落ち込んでた。だって、女子RTA走者の常識を覆すのは私がやりたかったことだから。
でもだからって私は腐らない。次は謎の美少女Aを目指すわ。もしかしたら一生敵わないのかもしれない。それでも、私は何も諦めたりしない」
「ば、馬鹿みたいな夢物語言いやがって、それでもプロかよwww」
「……私から言うことはもうないわ」
プイッと。
興味を失くしたようにAKIHOはモニターへと向き直った。
そして実況を続ける。
……ハッ。
「なんだかんだ、結局言い返さないのかよ。言われっぱなしで終わりか?www ダッセーなぁw」
「……」
俺の挑発にもAKIHOは乗ってこない。
……あーあ、やっぱ女だな。
もう諦めたかw
ケンカする度胸もない。
なのに難癖だけつけてくるんだよなぁ。
マジでメンタル雑魚だわw
さて、じゃあもう配信切って帰るか。
うわっ。
まだ20人残ってやがるwww
>RB、言われっぱなしで終わってんのお前の方だよ
>AKIHOにアンタはどうするって訊かれてるだろ?
>答えろよ。まあ答えられないんだろうけどw
>AKIHOは新たな目標を追って前進して、お前は何もできず停滞……謎の美少女Aから目を背けて後退か。RTA走者としての器で負けてるよ、お前
20……16人、
>RB、もうRTA辞めて普通に生きたら?
>お前じゃその世界は無理だよ
>正直もう見てて辛いわ
16……10人、
>生き方が汚いよ
>ブロックするわ
>RTA走者の言った目標を夢物語って・・・もはや自分は次の境地を目指してませんって言ってるようなもんなんだよな
10……4、
>じゃあなRB
……0人。
俺が配信を切る前に、同接数は0になった。
「……ハッ。クソアンチどもがっ、せいぜい死ぬまで言ってろよwww」
コイツら、まだ俺がコメントに反応して何か反論するのを待ってたんだろうなw
何もリアクションしてやらなかったぜ。
「アンチはもう二度と俺の配信見んなw まじウゼーから! あばよ、せいせいしたわwww」
配信を切る。
いやー、最高同接数2万かw
「炎上最高ってな!www」
いやー、来月の広告収益楽しみ過ぎるわwww
これでだいぶ生活楽になるし。
アンチどもは俺の私腹を肥やしてくれる気の良いヤツらだわw
マジで馬鹿どもがよ……w
ホント無能って扱いやすいっていうか、
「はぁ……」
俺は……
どうする、この後?
来月はなんとかなる。
で? 次は?
とりあえずAKIHOは倒したってことで注目は集まるだろ?
それを中心にセルフプロデュースして……
いずれRTA配信界隈トップレベル走者に……
──ブーっと。
スマホが震える。
なんだ?
DMだ。1件来てる。
俺の配信アカに対して誰かが送ってきたらしい。
仕事依頼か?
それともアンチか?
まあ、アンチだろうな。
この状況だもんな。
知ってる知ってるw
……でも、もしかしたら?
AKIHOを倒した俺に注目した誰かが……
俺に可能性を見出してって線も……
いや、まあ期待はしねーけどw
どうせアンチさ。
俺のことを見てるヤツなんて、今はアンチくらいのもの──
DMを開く。
>ゆうな@せ フレ募集中!
>件名:【欲求不満】誰でもいいから…
>本文:ゆうなとせ フレ、になりませんか?
「Botの迷惑DMかよ……!」
謎の美少女Aも、AKIHOも、視聴者も、
俺のファンどころかアンチすらも、
誰も、誰1人として俺を見てないってかっ!?
「……クソがぁッ!!!」
俺はスマホを地面に叩きつけた。
──余談ではあるが、この日を境にRB@Fixerの配信チャンネル登録者数は激減し、数カ月後に引退動画を載せることになる。その再生回数は42回だった。
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