第13話 ウソの記録とレンゲの決意
AKIHOさんと施設長が戻ってきたのは、10分ほど後のことだった。
ひと悶着があったようで、
「私の方でもっとここの施設長と早く話せたらよかったんだが、すまないね」
どうやらなかなか捕まらなかったらしい。
制御室に入れたのはだいぶ遅かったようだ。
今日が大盛況しているということもあるのだろう。
RBはすでに完走してしまっていた。
──RBの記録は16分31秒
画面には【本日最短記録:00:16:31:RB@Fixer】の文字。
「はーい楽勝日本TOPレベルぅ~っ。モニターを見てみろよっ、どうやら俺が今日の施設最短記録らしいぜ。公式記録じゃないのが惜しいな~ホントw」
RBは戻ってくると、ニヤニヤとした表情で私たちの方……特にAKIHOさんを見た。
「まあお前も多少はやるみたいだが……所詮は女の記録だよ。力の差が分かったら次からはイキらないことだなぁ」
「よくそんなことが言えたわね……! 魔力感知を使ってる気配もなかったけどっ?」
「オイオイ、負け犬の遠吠えかぁ?」
「……! アンタなんか、次の世界予選でぶっちぎってやる……!」
「ハァ~? 俺参加しませんけどw 俺は配信界隈の人間だぜ? 公式大会なんてかったるいもんイチイチ出ないっつーの。ま、少なくともお前とはレベルが違うってことね、コレ」
「このっ……」
憤りをあらわにするAKIHOに、
「行こう、AKIHOさん。この手の輩にイチイチ突っかかっても仕方ない」
「くっ……はい」
施設長はなだめるように言うと、項垂れるAKIHOさんを連れて観戦室を再び後にした。
「ザマァねーぜ、AKIHOのヤツw さぁーて、せっかくだしこのモニター映して配信すっか。タイトルは"【緊急】最短記録達成、イキり女に分からせちゃいましたw 13:00から"……っと」
RBはそう言ってカメラの準備をし始めた。
私も2人の後について観戦室を出る。
なんだか、後味がすごく悪い。
……よし。
「施設長、ちょっといいでしょうか」
施設長の横に追いついて、
私は小さめの声で施設長にだけ聞こえるように話しかける。
「ん? なんだいレンゲちゃん」
「AKIHOさんがちゃんと自分の実力だけで画面に載せてみせた最短記録が、彼のウソの記録に塗り潰されているのが許せません」
「まあ、それは私もそうだが……」
「ですよね、じゃあ、」
観戦室の外。
私はダンジョン入り口の部屋の方を指さす。
「私が更新してきてもいいでしょうか」
「えっ……!?」
思いのほか大きな声が出たのか、施設長がハッとした表情で口を押えるが、すでにAKIHOさんがびっくりしてこっちを振り向いていた。
「ど、どうかされましたかっ?」
「いっ、いえなんでも。そういえば昼に飲む薬を忘れていたなぁと。ちょっと失礼……」
施設長はそういうと私の手を引っ張って廊下を進みつつ、
「レンゲちゃん、それは本気で言ってるのかい?」
「……はい。あの記録を越せるのはたぶん、私くらいしかいないんですよね?」
「まあ、それはそうだろうが……いったいどうして急に?」
「私、自分にダンジョン攻略のすごい適性があると知って……でも、これが何の役に立つのかがまだ全然分からないんです。でも、今この場でなら少なくともAKIHOさんのためにはなると思ったんですっ」
「……また昨日のように注目されてしまうよ?」
「それについては大丈夫ですっ! 私にちょっと考えがあるのでっ」
結局のところ昨日は速すぎたのが問題だったのだ。
なら、調整すればいい。
RBが16分くらいだったのだから……
私は15分くらいで完走できるようにしたらいいのだ!
「ふむ……まあでも、また昨日のように配信するわけでもないし、この場の問題を解決するだけなら大丈夫か……」
施設長はしばらく悩んだようにした後、
「分かった。確かに先ほどのような不正を放置するのは道理に合わないね。では私の方でいつもの作業着と消毒銃を借りて来よう」
「あ、いえ。万が一のことがあるかもしれないので、このパーカーのフードを被ったままで行きたいのですが……ダメでしょうか?」
「いや、全然いいさ。確かに身バレの危険性はある。もちろんパーカーはそのままでいいさ。では武器はどうしようか。何か使い慣れたものは他に…………無いよね?」
「はい。でもまあ大丈夫ですっ! そちらにも考えがあるのでっ」
というわけで、昨日に引き続き私はまたダンジョンに潜ることになったのだった。
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