第14話 RB@Fixer生配信その1
~RB@Fixerの視点~
昼の13時、生配信が開始される。
配信名は『【緊急】最短記録達成、イキり女に分からせちゃいましたw 13:00から』だ。
「──Hey, hey! 見てるか
>とりあえず待機はしといたわ
>RB生配信?
>なっつ。久々に配信きた
>配信の入りダッサw
>分からせと聞いて
……フーン、この数はまあまあな方なんじゃねーの? 最近の方ではさ。
待機していたのが85人。
それからポツポツと、同接数が上がっていく。
コメントの量も多い方だ。
……ムカつくが、やっぱ昨日の【謎の美少女A】のせいだろうな。RTA自体の注目度が高まっているんだ。女のクセして話題性バツグンかよ、気に食わねぇ。
だがまあいいさ。
せいぜい利用させてもらう。
そしてまた俺がRTA配信界隈の期待の星として君臨してやる。
「今日は東京の有明ダンジョンに来てまーすw そんでまあ、そこそこいいタイム出たっていうのと、まあちょーっと楽しいイベント的なモンがあったんでぇ、その報告ってトコかなw」
この視聴者どもが『イキり女に分からせ』って単語でこの配信に喰いついてきたのは分かってんだよ。
それを承知で釣り糸を垂らしたんだ。
「まあ相手は配信タイトル通り女走者なんだけどさ、じゃあクイズにしてみっか?w コメントで当てたヤツ今日の優勝ねwww だーれだ?w」
ホレホレ、喰いつけ喰いつけw
美味しいネタを転がしてやるぞ?
そんで喰いついたところで俺の16分31秒っつータイム見せて度肝抜かせてやるw
答えは来てるかな?
コメント欄の反応は、
>有明ダンジョンか
>なんか今日イベントやってるらしい
>体験コーナーだっけ?
>謎の美少女Aがやったモード体験できるらしい
>TVカメラ来てるらしい
>マジか。行ったら映れたかな
>普通に体験しに行ってみてぇ
ソッチじゃねーよ、喰いついてほしいのは。
思わず舌打ちしそうになる。
……普通に考えて、俺が言ってんのは分からせっていうお楽しみイベントの方に決まってんだろうが。
「……あー、ヒント出すわw ヒントは最近イキってる有名人気取りの女走者な。俺に対してもマジばりばりにイキってきたからさ、軽くボコにしてやったわwww マジ負けて泣いて悔しがってたの笑ったね」
>いいからさっさと言え
>女ボコで笑うとか人格クソw
>焦らすな
>誰でもいいよ。でタイムは?
>言うて謎の美少女Aには勝てんのだろ?
>上コメ、それは当たり前www
>上コメ、比較対象が鬼畜で草
「チッ……」
誰も彼もまったく興味を持ちやしない。
どいつもこいつも、『謎の美少女A』『謎の美少女A』とばかり……
ウンザリだぜ。
……まあいい。
この正解を聞いたらさすがに無視はできねーだろw
「正解は──AKIHOでーす!www」
>はぁ?
>はぁ?
>AKIHO?
>あきほ?
>AKIHOに分からせ?
>いや無理だろ
>どうせいつもの吹かしw
>ウソにしてももうちょいマシなこと言え
>不可能で草
>RB自分のレベル考えな?
>謎の美少女Aはもちろん、AKIHOにも勝てんだろ
>AKIHO、そろそろ20分切るレベルだしな
>お前じゃ無理だよRB
>夢でも見てたんじゃね?
……ほらほら喰いついてきたw
コメント欄の反応はまあ予想通りだ。
俺の配信はアンチ多めだからな。
まあいいさ。
炎上させときゃ広告収入は跳ね上がる。
「いやマジでwww ちゃんと証拠あるからw なんなら本人呼んでこようか?w そこら辺にまだ居ると思うしー」
>出せるもんなら出してみろ
>いやマジであり得ん
>AKIHO、もう並の男性走者以上の実力あるしね
全員懐疑的か。
まあいいさ。
この調子ならそろそろあのコメントも出てくるハズだ。
>ていうか本当ならタイム見せてみろよw
……来た!
これを待ってたんだよ。
やっぱ聞かれてから出すのでなんぼ、ってヤツよ。
思わずほくそ笑んでしまう。
「はぁ? 証拠とかどんだけ疑ってんだよwww まあいいけどね。普通に見せられるし」
ていうかそれを目当てでこの観戦室で生配信始めたんだけどね。
ちょいとカメラの角度をいじれば、観戦室モニターに表示されている【本日の最短記録】のタイムとその横の走者名が配信に移るように調整してある。
「じゃあ俺のタイム発表しまーすw 俺のタイムはなんと────16分31秒ッ!!! 証拠はまあこの画面にある通りっすwww フッ、なんか今日の最短記録とからしいwww いやまあ場合によっては日本トップに喰い込む程度かなぁ。まあ割と余裕だったけどwww」
おっと、興奮してちょっと早口になったかもな。
まあ、いいだろ。
それより視聴者の目はタイムにいってるはずだ。
……ザマァみろ。
実際に走りの映像を見せるわけではない以上、視聴者は誰も俺がダンジョンマップをあらかじめ把握したうえ、モンスターレベルだけNORMALまで落とすというチート対応をしてもらってるなんて気づけない。
さーて、コメントの反応はどうかな?w
>は?
>は?
>は? どこ?
>16分?気でも狂ったかw
>何言ってんの?w
>16分とか盛大な吹かしw
>マジで証拠さっさと見せろよ
>タイムどこだよ
「……あぁ?」
何言ってんだ視聴者ども?
タイムどこだよ、だと?
俺のタイムはモニターにハッキリと映ってるハズ……
「……はぁ?」
いつの間にか観戦室のモニターは切り替わっていた。
俺のタイム表示は無くなり、代わりに現在のダンジョン入り口の映像が映し出されている。
ということはつまり……
「チッ。誰かが勝手にゲームを始めようとしてんな……」
ここは観戦室。
映像がダンジョンに切り替わっているということは、つまり先ほどのHardモードの部屋で誰かが新しいゲームを始めたということだ。
……AKIHOか?
俺にリベンジするために?
だとしたらそれはそれで美味い映像だ。
AKIHOといえど俺のさっきの記録を越えることは不可能。
であればいい引き立て役になってくれるだろう。
「あーあw なんか俺のタイムを見せる前に誰かの走りを見なきゃいけないみたいだわw まあただ待つのもなんだし、次の走者の走りはせっかくなんで俺が実況しますわwww まあ16分31秒は越えないだろうけどwww」
さーて、誰だぁ?w
AKIHOこい、AKIHO!
お前が来て、この生配信の場で俺のタイムの前に改めてひれ伏してくれんなら鬼バズりは確定だ!
ダンジョン入り口の固定カメラの前に走者の姿が現れる。
ソイツは──
「あぁ? 誰だ?」
パッと見の外見は子供。
顔は見えない。
パーカーのフードを深く被っている……
が、肩幅的に女か?
>女の子?
>誰だ?
>謎の美少女A?
>いやいやまさかw
>登録者名的に違うな。左上に表示されてるヤツ
コメントにある通り、ダンジョン走者の名前はモニター左上に表示される。
そこに書かれているのは……【パーカー女子】。
>パーカー女子って書いてるw
>パーカー女子www
>パーカー女子www
>見たそのまんまかよwww
>なにそれ推せるwww
>パーカー女子って響きがすでに良い
>ネーミングですでにカワイイ模様
>RTAにありがちな名前じゃないのが逆に良き
>パーカー女子か、いいなw
>がんばれパーカー女子!
>RTA女子ブーム来たか?
>謎の美少女A、AKIHO、パーカー女子……
>これは界隈に期待っすわ
「チッ……」
なんだよその盛り上がりは。
女に飢えたクソ視聴者どもめ。
……しかしAKIHO以外の女走者とはツイてねぇ。
並みの女走者じゃ俺の比較対象にならねーだろうが。
このパーカー女子とやらの名前を聞いたことはない。
ということは実力者じゃないのは間違いないだろう。
……タイムもいいとこ40分から1時間ってトコだろ? これだけタイムに開きがある相手を俺がこき下ろしたら、プロが素人相手にイキがってるようなもんだ。そうなると逆に俺がダサくなる。
それなら……よし。
こき下ろす対象を変えよう。
主語をデカくして、AKIHOを含めた【女子RTA走者】をターゲットにしてやろうw
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます