第15話 RB@Fixer生配信その2

~RB@Fixerの視点~


「あー、次の走者は女の子かぁ……」


俺はそう、呆れた風に言ってやる。


「AKIHOといい最近増えたけどさぁ……結局のところ性別で差が生まれちゃうわけだからさ、男と同じ枠組みに入んないでほしいんだけどな、実際のトコ。結局男には勝てないワケだしwww」


俺のその言葉に対しコメント欄といえば、


>出たよ女性差別

>差別ダサいよ

>マジでRTA走者たちの女嫌いなんなん?

>RBに限らずだよな

>嫌いなわけじゃないだろうけど

>嫌いっていうかイヤなんだろ

>なんでよ

>大会が忖度そんたくっぽくなる部分あるしな

>実際ポリコレ配慮の忖度RTA大会増えたよ

>そうなん?

>男の出場枠の一部を女子枠にしたりとかな

>タイムに関わらずな

>まあそれはちょっと・・・

>差別っていうか区別は必要じゃね?

>だとしてもRBの発言は鼻につくわ

>それはそう

>女子オンリーの大会作ればいいのに

>AKIHOレベルの走者が他にもいればいいんだけど

>実際ショボくなるから協賛が集まらんのよな

>RTAってマジで速さを楽しむもんだからな


……はいはいwww 期待通り期待通り。


女子RTA走者の登場で苦渋を味わったRTA走者は数知れず。

界隈が色々と荒れて、それが最近のRTA衰退の要因のひとつとも言われてるわけだから、視聴者の中にも女子RTA走者を快く思っていないヤツは多い。

議論が生まれるワケだ。


……このどっちつかずの状況で、俺は女子RTA走者を実況で煽り散らかしてやる!


これだから女子RTA走者は、ってな具合にな。

視聴者の喰いつきもいいだろ。

せいぜい燃え上がって欲しいもんだwww


「さーて、パーカー女子はどこまでやれんのかね、無理してケガとかされても困るんだけどなwww それ普通に放送事故だしwww」


そう煽っているとパーカー女子がスタートする。

さて、いったいどんなチンケな走りを披露してくれるのやら。


「第1階層のタイムはどれくらいかねぇ? まあ俺は29秒で余裕だったけど。女子だしやっぱ3、4分はかかるかなぁ……あれ? 動かないなぁ?w」


>パーカー女子、微動だにせん

>モード選択間違えたか?

>迷子説

>迷子だったら超危なくね?

>走者名登録してるしそれはないだろ


「まあ迷子じゃないだろうけどw にしても普通は走りながら魔力感知するもんなのにさぁ……もしかしてそこからしてやり方が分かってないか?www あるいはできないかwww」


>初心者?

>それは可能性としてある

>初心者がいきなりHardやるか?

>謎の美少女Aも最初こんな感じじゃなかったっけ?

>ああ、確かに

>じゃあもしかしてマネしてるとか?

>謎の美少女Aを?

>ヒーローごっこじゃんwww


コメント欄も疑問に満ちている。

これはチャンス!

こき下ろしてやる!


「いやさぁ、やっぱ女ってそういうとこあんのよwww 憧れとかだけですぐ動く直情型というか、家電買って説明書読まないみたいなさwww RTAのやり方を理解しないままRTAされに来られても困るっていうか、」


──シュッ、と。


俺の言葉を遮るように。

パーカー女子の姿がモニターから消えた。


「はっ?」


>?

>?

>?

>は?

>は?

>ん?

>あ?

>え?

>なに?

>はぁっ?

>はいっ?

>なんだ?

>えwww?

>何が起こった?


第1階層入り口の映像を見ても誰も映っていない。

しかしその直後に、その隣に映し出されていたモニターに変化。

第1階層の終点。

そこに待ち構えていたモンスター……ゴブリンたちが電車にまとめて轢かれるように吹き飛んだのだ。


そして、その映像の中心に佇んでいるのは。

パーカー女子だった。


>は?

>HA?

>は?

>え、ナニコレ

>あれっ!?

>もう終点にいるっ!?

>はぁっ!?

>おいおいおいwww

>これ昨日も見た気がするんだけどっ?

>俺も


「第1階層のタイム……14秒っ!?」


ありえない。

ありえないタイムだ。

こんなの世界トップレベルだぞっ!?


>やばっ

>謎の美少女A級?

>というかこれ謎の美少女Aなのではwww

>それ以外ありえん

>パーカー女子=謎の美少女A?

>別人かも

>どれだけバケモノ女子がいるんだよ・・・

>とにかくヤベェことは確か

>昨日の謎の美少女Aの走り見てなきゃ失神するレベルの驚きなんだが


パーカー女子はしかし、

そこからまた動かなくなった。


>あれ?

>せっかく14秒の好タイムなのに・・・

>好タイムっていうか、人外タイムな件

>まさかの3分切りあるかなと思ったんだが

>なんだ? 腕を見てる?

>腕時計っぽいのしてるな

>なんかジジくさい時計だな?


そう。

パーカー女子は時計に見入っていた。

そしてしばらくすると、

タッと。

再び駆け出して地下2階層へと降りた。

そこで第1階層のタイムがモニターに表示される。


──第1階層タイム:30秒。


「……はっ、はぁ? まあ俺よりは遅いなっ」


俺の口から、なにかを言わなければ、

と思って出た言葉はソレだった。


……だが、ホントになんで立ち止まってた?


魔力の異常放出で立ち眩みでもしてたのか?

しかし、その異常性は第2階層でも同じだった。

パーカー女子は一瞬。

それだけで第2階層の終点までたどり着く。

もちろんモンスターたちを簡単に蹴散らして。

タイムは……はっ!?


「2秒だとッ!?」


>www

>www

>www

>いやwww

>2秒www

>笑うしかないわwww

>【確定】謎の美少女A、再来

>マジでこれはwww

>音速越えてて草なんだ

>人じゃないんだがwww

>高速リニアで草


そしてまた、謎の時間が訪れる。


『……』


映像の中のパーカー女子は微動だにしない。

再び腕を覗き込むと、そのまま。

時計を見ているのだろうが……

その理由が何も分からない。


そしてしばらくすると、

タッと。

再び駆け出して地下3階層へと降りた。

そこで第2階層のタイムがモニターに表示される。


──第2階層タイム:30秒。


そして、その次の階層でも同じだった。


──第3階層タイム:30秒。


──第4階層タイム:30秒。


──第5階層タイム:30秒。


一瞬で階層をクリアするとしばらく立ち止まる。

それを何度も何度も繰り返す。

でも、さすがにそこまでされると……気が付いた。


「あぁっ!?」


思わず、大きな声が出る。


……コイツ、このパーカー女子……!


まさか腕時計を見て、各階層のクリアタイムを調整してんのかっ!?




===============


次は20時に更新します。

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