第11話 普通ってこういうコト
次に施設長に連れて来てもらったのは同じ施設の別の大部屋。
そこもまたダンジョン入り口らしいのだけど……
「ここは……人が少ないんですね?」
「ああ。まあここは体験コーナーではない、本当のHARDモードの部屋だから」
「はーど……」
つまり……昨日私が清掃したのと同じ難易度のダンジョンってことだ。
周りを見渡す。
誰も彼も、先ほどの体験コーナーではしゃいでいるような人たちとは雰囲気が違う。
「チッ、またかよ……」
準備運動をしていた男のひとりが、こちらを見て舌打ちをしていた。
「昨日の今日で突然ダンジョンに目覚めたバカどもが押し寄せやがって……こんなところにまで邪魔しに来やがるとは」
「ああ、すみません。ただの見学ですからお気になさらず」
露骨に忌々し気な視線を受けても施設長は流そうとする。
しかし、
「『お気になさらず』? 気に障るから言ってんだよジジイ。
「……!」
ずいぶんと酷い言葉をぶつけてくる。
思わず私の方がムッとしてしまう。
なんなのだこの人たちは。
私たちが何をしたっていうのだろう。
「──見学だと言っている人に失礼ね。それでもプロ?」
私たちが入ってきた部屋の入り口の方から、女性の声がする。
施設長は振り返ると、
「あ、AKIHOさんっ!?」
そう言って目を見開いた。
あきほ?
施設長の知り合いだろうか。
すごく綺麗な人だ。
セパレートタイプのスポーツウェアから覗く
洗練されたという言葉が似合う、女性なら誰でも憧れるだろう理想形のスタイルをした女性だ。
「え、あなたは……! 昨日の秋津の……!」
そのあきほさんもまた驚いたような表情をする。
秋津の?
あ、もしかしてこの人……
そういえば聞き覚えのある声だ。
昨日の実況をしていた女性じゃないだろうか?
「フン、気に食わねぇ客だと思ってたらAKIHOと知り合いか? どうりで」
男はあきほさんと施設長を軽蔑するように鼻を鳴らす。
「ここはよぅ、訪問介護の施設でもなきゃあ女が来るような場所でも
「それはあなたに決められることじゃないでしょ。最近大会の結果が振るわないからって他人に当たるのはどうかと思うわね」
「ンだと……!?」
どうやら図星だったらしい。
男が肩を怒らせて立ちあがる。
「なに? ケンカならしないわよ。私はプロ。競うのはタイムだけ」
「オイ、勘違いすんなよ? テメェがプロの座に居られんのはアイドルみたいにチヤホヤされてっからだ。実力じゃねーんだよ」
「口ならなんとでも。RTA走者ならタイムで語りなさいよ」
「……口の減らねぇクソガキが……いいぜ、やってやるよ」
男はダンジョンを指さした。
「HARDモード30階層のタイムアタックだ。それで白黒着けようじゃねーか」
「いいわよ。元々、今日は自分の実力をちゃんと客観視したくて来たんだから」
あきほさんは快諾すると、こちらへと歩み寄ってくる。
「秋津の施設長さん、昨日はお世話になりました」
「ああ、いえ。こちらこそ。それと何だか我々のせいで変なイザコザに巻き込んでしまい申し訳……」
「いいんです。あの男、いつも"ああ"なんで、私も辟易してたところですから」
目をやれば、男はどこかに電話しているようだった。
こちらの視線に気が付くと、不敵な嫌らしい笑みを浮かべた。
「ダンジョンRTAは明確に性差の出てしまう競技です……でも、私は負けるつもりなんてない」
「応援しています」
「ありがとうございます。ところで施設長さん、その……昨日のことですが、」
「……申し訳ない。彼女のことについて、私の口から語れることは多くありませんな」
「……ですよね。分かりました。無理には聞きません」
AKIHOさんは小さく肩を落とすと、ダンジョンへと向かっていった。
「施設長、今の方って……」
「レンゲちゃん、観戦室に行こう。そして見ておきなさい。今のAKIHOさんは日本の女性RTA走者の中でTOPレベルの実力者だ」
私たちは観戦室へと向かう。
RTAの最中の各階層の様子を見られるらしい。
そしてAKIHOさん(あきほ、ではなくローマ字で書くのだと教えてもらった)の走りを見る。
──記録は19分53秒。
「すごいな……! 20分の壁を破ったか……!」
画面に大きく映し出される【本日最短記録:00:19:53:AKIHO】の文字。
それを見て施設長は感嘆の息を吐いていた。
同じく観戦室に来ていた先ほどのプロ(?)の男も驚愕に口を大きく開けている。
よほどすごいタイムなのだろう、でも、
「レンゲちゃん、見ていてどうだった?」
「えっと……」
コソッと施設長が訊いてくる。
いったい、どう返すべきだろう……?
「気にしなくていい。思った事をありのままに言ってみなさい」
「え、えっと、その……本当にいいんですか?」
「いいとも」
「では、その……どうして速く進まないんだろう、って思っちゃいました……」
「……うん。そんなことだろうなとは思ったよ」
施設長はそう言って肩を竦めた。
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