第5話 伝説の実況その2

「RTA専用ドローンが着いていけないスピードなんて──スタッフさんカメラ切り替えてッ! 第1階層中央付近ッ!」


AKIHOの上げた声に、慌てたように生配信スタッフたちが動き始める。

そうしてカメラが切り替わった。


「映りました、第1階層の中央エリア──っと!?」


そこにわずかに、少女の残像。

しかしすぐにまた消えてしまった。

残されたのはピカピカになったダンジョンの壁と床のみだ。


>え?

>さっきからどうした

>なにこれ?

>放送事故?

>放送事故やんけ


「違いますっ、カメラが彼女をとらえきれていないんですっ!」


驚愕を噛み締めるように、AKIHO。

コメント欄には『?』が飛び交っていた。

呆気に取られたままだった隣の実況者、生帆は我に返ると、


「こっ、これはいったいどういうことでしょうっ? 視聴者の方々からも困惑の声が上がっているようですが……」


「次です、次で何が起こっているのか、その一端が見えるハズ……!」


「はいっ?」


生配信のカメラが再び切り替わった。

ダンジョン備え付けの固定カメラだ。

画面に映し出されたのは第1階層終点。


「ゴブリンがいますね、数は……10体。どうやらハイ・ゴブリンも混ざっている模様です」


映像のゴブリンたちは棍棒や剣を構えて、完全に地下2階層への階段を塞いでしまっていた。

謎の美少女Aの姿はまだない。

立て続けに起こったカメラの切り替えが収まり、

そこでようやくコメント欄も流れも一定する。


>???

>流れ分かってないの俺だけ?

>何が起こってた!? さっぱり分からん!

>誰も何も分かってない

>美少女Aどこ行った!?

>カメラの動作不良だろ

>放送事故やな

>放送事故とか今どき珍し過ぎるだろw ちょっと掲示板に書き込んで来るわ。


「……どうやら、コメントを見るにまだ誰も状況をご理解できていない様子ですね。仕方ありません。私もやっとのことです」


「じょ、状況を整理しておきましょう。私もよくわかっていないので……AKIHOさん、解説をお願いできますでしょうか……?」


「はい。まずは配信映像が乱れており申し訳ございませんでした。しかしこれは機器の動作不良などに起因するものではございません。単純に、謎の美少女A選手が速すぎただけのことです」


>は?

>は?

>え?

>カメラの不調ではないと?

>どういうこと?

>美少女Aが速すぎって?


「恐らくは高度な身体強化魔法を使っているのだと思います。カメラを積載していたRTA専用ドローンも追いつけないほどの速度で移動されてしまったため、予定を変えて各階層に備え付けの固定カメラの映像に切り替えさせていただきまし──あっ、ゴブリンたちが何かに反応しましたっ!」


>!?

>ん!?

>はいっ!?

>次はなんだ!?


「AKIHOさん、いったい!?」


「謎の美少女A選手が来たということですっ! ゴブリンたちが臨戦態勢に入りました!」


「いやまださっきの地点から20秒も経っていな、」


「これで確かめられます! 謎の美少女A選手の実力をっ。とはいえカメラに映るのは10秒か、いや5秒か……」


「ま、まさかっ! AKIHOさんっ、ゴブリン10体ですよっ!? 1体ではないんですよっ!?」


>5秒!?

>5秒www

>5秒w

>エアプやん

>いやさすがにそれは

>世界トップ走者レベルで草


「来たようです! 本格的な接敵!」


「謎の美少女Aの姿が見えましたっ、武器を構えたゴブリンたちへ突っ込、あぁぁぁ──っとッ!?」


生帆は叫んだ。

言葉に成らなかった。

ゴブリンが目に見えぬ雷に撃たれたかのように、その場で崩れ落ちたのだ。


>???

>???

>???

>は?

>なに?

>なんだ?

>ゴブリン死んだ?


「なっ、何がっ!? そして謎の美少女A選手の姿が再び消えたっ!?」


「か、かすかに、謎の美少女A選手が手を振っているところを目視できたような、できていないような……い、急いで映像の切り替えをっ!!!」


映像が切り替わる。

地下2階層のカメラだ。

映し出されたのはウルフ、ゴブリン、それにオークたち。

その死骸らが煙を立てて消えていく様子だった。


>?????

>???????

>????????は?

>なんかもう死んでるですが?

>俺たちは何を見せられてるんだ?

>美少女Aは?

>【悲報】実況配信なのに状況が不明


「地下2階層に……もういないっ!? AKIHOさん、これはいったい……」


「つまり、もっと下に行ったってことでしょう……スタッフさんッ! 地下10階層の全部のカメラチェックさせておいてくださいっ!」


「10っ!? AKIHOさんっ? まだ地下5階層にフロアボスモンスターがいますが……!?」


「いえ、カメラ切り替えの手間が余計にかかるだけです……恐らく相手にすらならない」


AKIHOは断言した。


「私にも何が何だかわかりません。でも、あり得ないことだけれど、謎の美少女A選手は世界TOP走者……いや、それ以上と仮定して実況した方が良さそうです……!」




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その3へ続きます

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