第4話 伝説の実況その1

~実況者の視点~


同施設、その別室の放送席。

2人の男女が卓上マイクの前に座っている。

RTA生配信の実況者たちだった。


「おや……?」


その別室に、生配信スタッフの1人が駆け込んできた。

かと思いきや、メモ用紙を男へと渡した。


「え~っと??? どうやらここで飛び入り参加……の方のようですね」


「飛び入り、ですか?」


「そうみたいです……っと、どうやらカメラにいま映っているようですっ!」


ダンジョン入り口のアリーナ部屋。

そこに映っているのは作業着のような出で立ちの少女だった。

ミディアムロングの黒髪を後ろでひとつにまとめている。

するとすぐにコメント欄が慌ただしく流れる。


>おっ、可愛いくねっ?

>テコ入れ回きたな

>美少女きたー!


「参加者名は……【謎の美少女A】! 謎の美少女AがHARDモードのダンジョンRTAに挑戦だぁーッ!」


>謎の美少女A?

>匿名希望?

>女はくんな

>人気でそう

>可愛ければなんでもOK


……ディレクターめ。


男の実況者、RTA実況歴20年の生帆 宇壮なまほ うそうは心の中で舌打ちした。


……どうせ今回もヤツの差し金だろう。

ヤツは同接数しか気にしないんだ。

RTAってのはそうじゃないだろ?

命懸けで1分1秒のタイムを競う神聖な舞台なんだ。

美少女とかアイドルとか出して稼ぐもんじゃねーんだよ。


「しかし、ずいぶんと若く見えますね……私と同じか、それより下のような……」


隣からうろたえるような声が聞こえる。

AKIHOのものだ。

彼女は生帆と同じゲスト実況者。

そして新進気鋭のRTA走者でもある。

アイドル顔負けの美少女で、しかも現役女子高生。

主に男性視聴者からの人気が高い。


>AKIHOちゃんの言う通り

>謎の美少女A、幼くね?

>普通に危険では?


AKIHOに同調するようなコメントが相次ぐ。

生帆もまたそれは気になっていた。


……そもそもちゃんと誓約書にサインさせたのかね?

命の危険があるんだぞ?

変に注目浴びて、後から非難集中とかにならないだろうな?

いいのかよ、このまま続けても。


「放送席より、ディレクター」


生帆は実況用マイクをミュートに。

別通信で確認を取る。


『いいから、やっちゃえやっちゃえ』


ディレクターは面倒くさそうに指示を出した。


……はぁ。


いいんだな? 

わかったよ。

俺もコレが仕事だ、やってやる。

生帆は再び実況用マイクのミュートを解除した。


「さて、謎の美少女Aがスタート位置に移動します。これまでのRTA実績は不明、手に持っている武器は銃でしょうか? AKIHOさん、見たことあります?」


「銃……いやっ、前にちょっと見たことありますけど、ダンジョン清掃用の消毒銃に見えますね」


「消毒銃? 清掃業者が持っている、あの?」


「そうですね、見間違いじゃなければ……まさか今から清掃作業でも始めようとしているんじゃなければいいんですけど」


>どういうことよw

>まさかの清掃RTAで草

>AKIHOちゃんの貴重なボケやw

>貴重なボケありがてぇw

>ネタ枠か? 謎の美少女Aとかいう名前といい

>真面目にやってほしいとこだな


「さて、それでは次の走者に移る前に、これまでの走者を振り返りましょう。AKIHOさんお願いします」


「はい。まずは第1走者のHIDE選手はRTA歴5年の若手注目株のひとり。得意の剣技で今回も危なげなく50分での完走でした。序盤の勢いが1番ありましたね。

 続いて第2走者のアルファ選手はRTA歴14年のベテラン。両手にハンドガンを持ったスタイルで、終始走るペースを一定に、1階層約1分で攻略する腕は見事で35分での完走となりました。

 第3走者のナカナカ選手はRTA歴1年。こちらも使用武器は剣。しかし開始20分、12階層地点で脱落と残念な結果となってしまいました。


>HARDモードは実際辛い

>HARDはなぁ

>マゾ専用モードですし


「コメントでも頂いている通り、HARDモードのRTAはとにかくモンスターの数が多く、やることが多いのが特徴です。普通にクリアするだけでも非常に困難です。

 そもそも完走できるのが現在のダンジョン攻略者人口の30%ほど。そんな条件下でタイムはともかく、いったい彼女がどこまで行けるのか、果たして完走なるのか注目をしたいところですね!


>AKIHOさん解説助かる

>がんばれ~

>男で無理なんだから女ができるわけない

>だからネタ枠なんだろ?

>なんかさっきから女走者アンチいる?

>女流でやれって話。男と肩並べてRTAは無理

>AKIHOがいるやろ


「AKIHOさん解説ありがとうございました。さあ、画面を見る限りそろそろスタートのようです。スタート地点から前に出た瞬間にゲームスイッチが押されてタイム計測が始まります。注目の滑り出しはいったいどのようになるのか、」


『では、失礼して行って参りますっ』


「ここで謎の美少女A選手、スタート! 地下第1階層へと足を踏み出しました。その背中をRTA専用のカメラ搭載ドローンが追っていきます」


>声カワイイ

>がんばれ!

>死ぬなよ!


「謎の美少女A選手を激励するコメントが多く届いております」


「やはり心配な部分が大きいんでしょうね。私が言うのもなんですが、女性走者でHARDモードのRTAができる人なんて本当に一握りですから」


「なるほど。そうですね、安全面には充分に気をつけてほしいところですが──おっと? 謎の美少女A選手、ダンジョンに入るなり立ち止まりましたね?」


その少女はまるで瞑想するかのようにその場に立ち尽くしていた。

とはいえ数秒かそこらだろうか。


『よしっ』


少女がそう意気込んだ。

次の瞬間だった。


──少女の姿が一瞬でカメラから消えたのは。


「き、消えたぁッ!?」


>えっ

>えっ?

>えっ

>は?

>???

>???

>?

>どこ行った?


視聴者のコメントが濁流のように流れてくる。

そのほとんどが『?』だ。

生帆もまた、思考が空白になった。

唯一反応できたのは、


「し、身体魔法……!? でも、これほどのレベルは……!」


実況者のAKIHO、ただひとりだった。




=======

ここまでお読みいただきありがとうございます。


本作はコンテスト参加中で、

3/15(金)までの読者選考中です。


もし、

「続きも読みたい」

「おもしろい」

「今後の展開が楽しみ」

など思っていただけたら、

ぜひ☆評価をよろしくお願いします!

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