58.『悪夢の聖女たち』

 思いっきりキラキラとしたオーラを満遍なく周囲に振りまいているココロが目の前にいる。


 光属性の正統派美少女である。ラーンダルク王国に飛ばされてきてからというもの、命の危機と隣合わせの時間が続いていたため、知らぬ間に疲れていたらしい。

 ほっと息を吐く。


「……ん?」


 でも、おかしい。どうやってわたしのこと見つけたの? てか、ルナニア帝国の復興支援団体をこのタイミングでラーンダルク王国の国内に入れないと思うんだけど。

 発信機でもわたしの身体についてるのか?


「私ね、リアちゃんのことすっごく心配してたんだよ? あの皇帝陛下のことだから、どうせろくでもない場所に送られてるに決まってるんだもん。だからね、来ちゃった!」


 だからね、来ちゃった!

 で来れないほど、色々なしがらみがあると思うんだ。聖女とか他国の外交関係とか……。まあ、そういうのを全部乗り越える友情パワーが最高だということにしておこう。


「う、うん……ありがとな……?」


「どういたしましてっ!」


 それ、国境線をガン無視してきてないか?


 そして相変わらずわたしはココロに抱きしめられている。ちょっぴり血の臭いがして、焦げ臭いような気もするけど、きっと気のせいだろう。

 ココロが戦争なんかに参加するはずない。ココロは優しくて安心安全な美少女、わたしの癒やしのはずなのだ。


「えっと、それでこの人たちは」


「復興支援団体に参加してくれた先輩方!」


 ルナニア帝国の復興支援団体は、聖女を中心とする三十人前後のグループだ。

 綺麗なドレスとかを着た女の人たちがルナニア帝国の聖女に違いない。……その割には、メイスとかモーニングスターとかを肩に担いでニコニコ笑ってらっしゃるけれども。


 あれ?

 聖女ってなんだっけ?


「プリティエンジェル様……?」


 レオネが怯えたようにわたしの後ろに隠れてきた。いや、確かにいきなりメイスを持って人が降ってきたらそりゃあ、怖い。悪夢だろう。

 しかしなんと説明すればいいのだろうか。真実を伝えてしまえば、それこそレオネとの信頼関係が崩壊する。ううむ、どうすべきか……。


「あっ、そういえばメルキアデスは……!」


 完全に意識からはみ出ていた。

 そうだ、メルキアデスを捕まえてボコボコにしなければ問題の根本原因は解決しないのだ。


「メルキアデス? この人のこと?」


 聖女の一人が潰れたカエルみたいな格好で地面に倒れているメルキアデスの背中を踏みつけていた。


「なんか逃げようとしてたから捕まえておいたけど……リリアス閣下、これで大丈夫ですか?」


 ぴくぴくと動く度に、聖女さんは片手で振り上げたメイスを尻に叩き込む。びくんっ、と痙攣して暴れまわるメルキアデス。


「き、貴様ら……こんなことをしてただで済むと……ぐべぇ!?」


 怒鳴るメルキアデスの口に雑草が詰め込まれた。……なんで?


「うっさいボケナス」「散々私たちを待たせやがって」「落とし前つけさせてもらうわよ」「玉を一つ潰しておこうかしら」「……あ、あの、暴力はいけないと思います……!」


 ……なんか最後の子だけまともよりだったような気がしたけれども。苛立ちを抑えきれない聖女たちによって、メルキアデスは集団リンチの憂き目にあっていた。


「グワァアアアアアアアアアアア!?!?」


 メイスで頭を潰され、顔面にわさびとからしを塗り込まれて、股間はモーニングスターでぶっ叩かれている。

 ちょっぴり可哀想になるくらい一方的だった。


 わーお。ルナニア帝国が野蛮国家だということが目の前で次々と証明されていくぞ。


「……あれ?」


 聖女による集団リンチを受けた後のメルキアデスはぴくりとも動かなくなっていた。白目を剥いて、べろを垂らして酷い顔である。イケメンだったころの面影は全くなかった。


 もしかして死んじゃったの……?


「リアちゃん、ほら、はやくはやくっ!」


「え、え?」


 ココロに促されるまま、メルキアデスの死体を担ぐ。うわ、ぐんにゃりしてる。

 するとフラッシュが焚かれた。見るとココロが魔石で写真を取っている。


「……その写真、どうするの?」


「皇帝陛下に送るんだよ? ……題名は『リアちゃんがやりました』っと。はい、送信っ」


「ちょおっ!?」


 わたしなんにも手ぇ出してないからな!?

 これではますます聖女から遠ざかってしまう! 大聖女から殺戮者になってしまうじゃないか!


「リアちゃん大活躍だねっ!」


 あうぅ、なんてことを。こんなのブラックデッド家が喜んでしまう。母さんの目に止まったら王城の大広間でパーティーが開かれてしまう……。


「……ああ……」


 メルキアデスの死体をその辺に捨てて、蹲ってしまう。


 ココロの善意が眩しい。

 皇帝に与えられた任務を達成できれば、何でも要望を叶えられるという褒賞が与えられるが、逆に任務を達成できなければ一家取り潰しや王城に吊るされるとか、そういう羽目になるのだ。


 ココロはそういうことを心配してくれたんだろうけれど、そうじゃないんだよなぁ……。わたしはそういう方面で成果をあげたくなかった。後でココロにはお話しておかなくっちゃなんねぇ。


 とりあえず殺人兵器起動の鍵になる『銀のペンダント』を取り返す。


「はい、これ」レオネに返す。


「あ、ありがとうございます……」


 てか、復興支援の話ってどうなったんだ?

 今そこで死んでるメルキアデスが復興支援をルナニア帝国に依頼してきたはずなんだけどさ。

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