48.『ラーンダルクの事情』
ラディストールの案内に従って進んでいく。
衛兵に見つからないように王城の階段を下に下に降りてきて、地下水路についた。
どうやらずいぶんと前からクーデターに備えた隠し通路を整備していたのだとか。
地下水路のある一点の石畳に体重をかけると、ガシャンガシャンと金属音を立てながら壁のレンガが組み替えられていく。……なにそれかっこいい!
どうやらレンガに見えたのは外見だけで、中身は機械っぽい。ラーンダルク王国はこんなこともできたのか。
そうして、組み上がったのは立派な隠し通路。
ルナニア帝国にもこんなのほしいな。帰ったら皇帝に頼んでみよう。
「この先を進むと城下町の郊外にある小屋に繋がっているの。プリティエンジェル……っ、読みにくいわね……そこのバカは後ろからついてきなさい。私が先導するから」
「人をバカっていうなよ! チクチク言葉は使っちゃいけないんだぞ!」
「だったらもっとまともな偽名をつけなさいよ! バカだからバカっぽい名前しか考えつかなかったんでしょうが、このバーカ!」
そんな暴言と一緒にランプを差し出してくる。
「あー? これだからセンスのない連中は! プリティなエンジェルだぞ、私の美貌にぴったりだろ!」
ランプをひったくる。
まったく悲しくなるね、こんな感性の貧弱な人に否定された高尚な命名家たちがこれまで何人いたんだろう。
「てか、双子騎士っていうんだからクーデターを起こしたのはおまえの身内だろ。何とかならなかったのか?」
「何とかしようと頑張ったけど、出来なかったの。だって私の兄さんはめちゃくちゃ強いのよ? それこそルナニア帝国の三大将軍だって撃退したこともあるほどだし」
「え、マジ……?」
あのアリスとかドーラ姉さんを撃退した? どんな化け物だよそれ。
「それに比べて私は弱いのよ。剣だってろくに振れないし、魔法だって非殺傷のものしか使えない。……ま、このお姫様は何の因果があってかこんな私を騎士に引っ張ってきたんだけどね」
自嘲気味に唇の端を軽く釣り上げる。でも、レオネを見守るその目には今まで見たこともないような優しい光が宿っていた。
ふむふむ、なるほどなるほど……。
「と、おまえの騎士は言っているがそこんところはどうなんだ?」
「まさか。武力で世の中を変えるのはもはや時代遅れです。だからこそ武力に長けた兄ではなくラディストール、あなたを選んだ。……それに可愛らしいのはそれだけで素晴らしいと思いませんか、プリティエンジェル様?」
「まー、可愛いかどうかは各々の感性に基づくとして、その通りだな。暴力に頼らないことは良いことだと思うぞ」
なんと素晴らしい考え方だろうか。ラーンダルク王国の王女レオネッサは平和主義者だったのだ!
こんな人が量産されれば世界はもっとマシになっていたに違いない。せっかく聖女になったのに物騒な外交などに行かなくても済む女の子もきっといたに違いないのだ。
「……む、無駄口叩いてないでさっさと歩く! レオネッサも!」
「ふふっ、分かりましたよ。ラディストール」
ラディストールは、顔を前に向けて黙ってしまった。影に隠れてうまく見えないが、頬がほんのりとピンク色に染って……え、ちょっと待って、こいつ意外とチョロいのでは?
ヒュン、と何かが空気を貫く音がした。
「っえ、」
ラディストールの脳髄は暗闇から飛んできたものの勢いに引きずられて、飛び出し、そのまま散った。
死んだ。
ラディストールは暗闇の中から飛来してきた矢に脳天を貫かれてあっけなく死んだのだ。
思考が凍る。さっきまで一緒になって軽口を言い合っていた相手が、簡単に。
「おい……!」
力が抜けて倒れ伏した身体は、動き出すことはない。虚空をポカンと見つめた瞳はもう動かない。
「行きますよ! 矢を射掛けたことから、すでに相手からはこちらの姿が見えています!」
「こいつは」
「死体を持っていく気ですか? 今はそんな重たいものを持っていく時間はありませんよ!」
「……なんで」
なんで、そんなこと言えるんだよ……? 信頼しあっていたんじゃなかったのか。死んじゃったんだぞ……?
「──ご機嫌麗しゅうございます、レオネッサ殿下」
「貴方は……!」
隠し通路の先から現れたのは、ラディストールと同じブロンド色の長髪を一つに結んだ男。流麗な騎士の鎧を身に纏っており、手には矢を弄んでいた。
「メルキアデス・ゴストウィン。殿下をお迎えに参上いたしました」
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