第二章 ラーンダルク王国滅亡編

37.5.『救国のために』

 変わらなければならない。


 長く続く廊下を闊歩しながら、そう思う。

 この国は、変わらなければならない。

先程の定例会議はどうだっただろうか。大臣は、みな己の保身に走るばかりに何一つ具体的なアイデアを述べてこなかった。


 この国は緩やかに死んでいる。

 魔王軍に蹂躙され、かの帝国に全てを奪われつつある。今この時でさえ、国の頭脳が幾度となく顔を合わせて話し合っても烈日帝の心中さえ読めないのだ。


 焦り、欺瞞、憤怒。

 それらが渾然一体となって戦火に犯された灰のごとく、降り積もる。


 ──このままでは、いけない。


 いけないのだ。


「君が変えるしかない。そうだろう?」


 気がつくと薄暗い只中にいた。


 そして、見た。


 例えば、子供の玩具のような。

 凶悪な暴力の化身であり。

 身の丈を遥かに超える鉄塊だった。


「────っ、」


 それは──例えようもなく、騎士の甲冑だった。

 背丈を遥かに越える、鉄で成形された巨躯。


 幼い日のおとぎ話。

 邪悪な巨竜を打ち倒した、空を駆る白銀の騎士。

 それがここにある。

 幼い自分に刻み込まれた力の象徴がここにある。


「目覚めさせるんだ。君がこれを駆るといい」


 顔の見えない影はゆっくりと囁いた。その影は日傘を差す、少女のような姿だった。


 薄暗い、日の当たらないこの場でもそれが当然というように日傘を差している。


「かつての『永世懲罰軍』を賛美し、烈日帝の支配するルナニア帝国を跪かせろ。──ラーンダルク王国に光をもたらすのだ」


 震える声を押し殺して、呟いていた。


「──分かりました」


 この力があれば、変えられる。国を、ひいては世界をも──。


「良い子だ……」


 クルクルと手に持つ日傘を回しながら、影はゆっくりと足を前に踏み出した──。

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