27.『勇者復活!』
皇帝によると、アズサは神殿がなくとも復活することができるらしい。
ユニークスキル『リスポーン』の効果であり、『蘇るのに最もふさわしい場所』で復活するのだとか。半信半疑だったが、本当にアズサは復活した。光が寄り集まり、糸状の光がアズサの身体を編んでいく。
そうして傷一つない(ついでに服も着ていない)アズサがひょっこり生えてきた。
イザベラが言っていた『たけのこ』という表現もあながち間違っていない。神々の奇跡ってすげぇなぁ。
皇帝からもらった帝国軍の軍服をとりあえず被せてみたものの、未だにアズサは目覚めない。
「おーい。生きてる?」
「ん……」
息はしてるっぽい。しかし、本当に黙っていると綺麗な顔立ちをしているな。つんつんしたくなってしまう。
神殿内で続々と死んだ人たちが生えてきて、慣れているかのように起き上がっていく。ほとんどが帝国軍の兵士だった。確か今は魔王軍の襲撃の真っ最中だったな。倒したはずの兵士が無限に出てくるなんて魔王軍側からしてみれば、悪夢としか言いようがない。まあ、帝国を攻めたつけということで納得してもらおう。
「では、先に復活した皆様を街まで送り届ける転移門を用意してきます。あなたは勇者様が目覚めるまでそばにいてあげてください」
「一つ聞いてもいい?」
「なんでしょう?」
「……転移門なんて便利なものがあったら、夜道一時間かけて車で来なくても良かったんじゃないの?」
エチケット袋の中に入っているりんごとぶどうのパフェのなれはてを返してほしい。
イザベラは大きなため息をついた。
「神殿は帝国の中枢です。そんなにほいほい転移門を構築できるわけないじゃないですか。大聖女にしか神殿へ続く転移門の構築はできません。そして、私があなたのために作る理由はありません」
「けちんぼ!」
「子供ですか。忌々しい……」
きっ、とイザベラはわたしを睨みつける。
そのまま周りの人たちを連れて行ってしまった。兵士のおじさんが不憫に思ってか飴玉をくれた。
くっ、わたしは幼女じゃないんだぞ。……もったいないから舐めるけど。……チョコミント味だ。あまーい。しあわせ。
「ん……ここは……?」
わたしがほくほく顔で飴玉を転がしていたら、いつの間にかアズサは身体を起こしていた。頭を押さえながら、二日酔いをした朝の父のような顔をして、周りを見渡している。
そして、わたしとアズサの目が合った。
たっぷり二秒半ほど。
「やっほ」
「ひゃああああああああっ!?!?」
アズサはものすごい勢いでごろごろと後ろに転がり、石の盆に頭を強く打ち付ける。
「いったぁ……!」
被せてあった軍服がはだけて色々と見えてしまっている。外見にふさわしい伸びた手足と身長、そして発達途中のもろもろ。わたしには手に入らなかったものを全てこの女は持っている……。
負けた気分だ。何の勝負なのか自分でも良く分からないけど。
「大丈夫?」
「ひゃああああ──」
「それはもういいから」
がしりと肩を掴む。見る見るうちに真っ青になっていく顔。
「や……ころ、殺さないで……っ!」
「わたしは平和主義者なんだぞ。誰が二回も三回も殺すものか」
「ふぅ……ふぅ……っ!」
軍服を被せてやる。そうしてそばに座り、背中をぽんぽんとやってやる。震えが収まってきた。
「私は……どうしたの……?」
「昨日の晩にわたしに殺されて、ここで復活した」
「……」
どうやら思い出したようだった。途端に暗く沈んだように顔を伏せる。
「……死んだんだ、私」
「うん」
「もしかして、さっきの人たちは……」
「昨日死んだ人たちが復活してる。そっちの世界ではどうか知らないけど、こっちだと死んでも簡単に復活できるから」
「…………」
また俯いてしまう。その隙にわたしは懐からこそこそとメモを取り出して広げた。
ふふーん、ココロ直伝の仲直り五箇条!
『新たな三大将軍誕生!? フォックスグレーター新聞
名前はリリアス・ブラックデッド。なんとあの殺戮一族ブラックデッド家出身だ! 史上最強のドーラ・ブラックデッドと史上最年少のアリス・ブラックデッドのご姉妹である! 筆者が遠目から見た容姿は可愛らしい少女そのものの姿! 彼女がどのような活躍を見せてくれるか楽しみだ!
筆者の調査によると、身長は女児サイズ。カップ数は測定不能。絶壁だ。ふくらはぎから十三歳前半程度の成育具合と推定。髪の毛は真っ白で、陽だまりと砂糖菓子の匂いがする。筆者は風に乗った匂いだけで絶頂したので、ぜひ皆様もリリアスたんの匂いを堪能するときは周りの人から十分な距離をとって──』
……。
…………。
…………………。
破り捨てた。
とりあえずこの変態新聞社は父さんに頼んで潰してもらおう。ドーラ姉さんも力を貸してくれるかもしれない。記事を書いた人は後で百回殺そう。今決めた。
仲直り五箇条と間違えて新聞の切り抜きを渡したのか。ココロはおっちょこちょいだな。なんかすごく綺麗に切り取られていているのが気になるけど。
アズサに向き直り、
「……首を飛ばすのはやりすぎた。……ごめん」
頭を下げた。
「わたしたちの世界のために、魔王を倒してくれるのに……殺しちゃって、ごめんなさい」
アズサは一瞬面食らった後、もじもじと肩を揺らす。
「えっと……私も昨日は……その、ごめんなさい。念願の異世界に召喚されて、舞い上がってた部分もあったのよ……それで色々と失礼なことを……」
「本当に失礼だよ、なんだよココロにチューしたとか! 聞いてみたら事故だったっていうじゃないか! わたしがどんなに嘆き悲しんだことかおまえに分か──……あ」
……あー。
「…………本当に、ごめん」
「いやいやいや!! 全然謝る気ないでしょ、君! 私の首をふっ飛ばしておいて、謝らないってサイコパス……いや、サイコパスを通り過ぎてヤバイ人でしょ!?」
ぷちり、とわたしの頭の中で何かが切れた。ココロに教わった仲直りの仕方が全部吹っ飛んだ。
「はぁあああああああああ~? そっちに決闘とか言い始めたじゃんか! おまえが原因だよ!」
「へぇえええええええええ~? そっちが最初に石を私に蹴ってきたのが原因じゃない! 責任転嫁しないでよ、この殺人鬼!」
「わたしは聖女だ! 殺人鬼はそっちだろ!? いきなり剣を振り回してきやがって!」
「私は勇者よ! 君こそいきなり剣を投げてきて、危ないじゃないのよ! あの塔にいた人たちの無事とか考えたことのないくせに!」
……あ。
「な、なんだよ! おまえだって……おまえだってなぁ……!」
「はいはい、語彙力弱々の対人能力ゴミクズですねぇ〜」
「っ、死ねっ! ぶっ殺してやるっ!!」
「暴力に訴えることしかできないざぁ~こ! 皇帝はあんたが私をもう一度殺すことを許してくれるの? 現代人は言葉を剣にするの、拳を使うなんて雑魚雑魚の野蛮人よ!」
アズサは悪魔のような笑みを浮かべている。
「ぐ、ぬ、ぬぬぬっ!! もう知らない! 勝手にどっか行っちまえっ!!」
「ええ、ええ、そうさせてもらうわ。語彙力と知力の足りない殺人鬼と行動をともにするなんて真っ平ごめんだもの!」
互いに顔をそっぽに向ける。
……あれ? 仲直りは?
その時、また懐がブルブルと震えた。伝令用の魔石から今度はエルタニアの凛とした声が響く。
『四天王、ビルギッタライが討伐された。繰り返す。四天王、ビルギッタライが討伐された! 残存する魔王軍は敗走状態にある。これより追撃戦に突入する! 一匹たりとも生きて帰すな、皆殺しだ! 我々帝国領土に穢れた足で踏み込んだことを後悔させてやれ! これは皇帝陛下の勅令である! 殺せ、殺せ! 皆殺しだ!!』
どっちが魔王軍なのか分んねぇなこれ。
ちょうど勇者も起こしたし、前線にココロを迎えに行くか。アズサとの口論のせいで糖分が不足している。蜂蜜パンケーキが食べたいな。
「今の声は……エルタニアさんの声? 四天王とか魔王軍とかスマホから聞こえたけど……ねぇ、どういうことよ」
どうやら関係者には魔石からの伝令が聞こえる仕組みらしい。アズサは魔石をスマホと呼んでいる。意味が分からない。スマホってなんだ。
「おまえが死んでる間に魔王軍が攻めてきたんだよ。四天王の一人が軍勢を率いて帝国を襲ってきたんだ」
「なんですって!? 召喚直後を襲うなんて、魔王軍にしてはなんて巧妙な手口……流石本物は違うわね……!」
本物ってなんだよ。偽物とか見たことあんのか。
「おまえに安心しろなんていうのはなんか癪だけど、魔王軍は帝国軍がフルボッコにしたから勇者の出番はないぞ。四天王がさっき死んだから」
「……は?」
アズサはぴしりと固まる。
「襲撃で死んだ人は神殿で復活できるし、崩れた建物は魔法で元通り。いつものことだ」
「いや、ちょっと待ってよ……! 私は女神から、魔王軍を撃退し、世界を救えるのはあなただけなのです、とか言われた気がするんだけど」
「じゃあ気がするだけだろ。これまでも海の向こうの魔王と帝国は戦い続けてきたんだ。今回みたいなそよ風で崩れる帝国じゃないよ」
どちゃりと、勇者は膝をつく。
「なら……私の存在意義はなんなの……?」
「皇帝が暇つぶしに呼んだだけだって聞いたぞ」
「────────っ、ひぐうぅ……ぅぅう……っ」
涙をぽろぽろとこぼし始めた。
なんなんだ、こいつは。
そんなに戦場に行きたかったのか? わたしよりも弱いくせにバーサーカーとか救いがないな。勇者って。
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