26.『聖女のお仕事 2』
正直ドン引きである。
「あ、だけど……これ、わたしと繋がってないよ。『魂脈』だっけ? 自分のものならわたしと繋がるはずでしょ?」
わたしの魂脈はおヘソから飛び出してはいるものの途中で薄くなって消えているし、禍々しい魂の欠片に至っては、魂脈はあさっての方向──神殿の外に伸び続けている。
なんだこれ。わたしの魂の欠片、どこいった?
「……可哀想に」
「自分の魂にさえ見放されるって、わたし何したんだよ!?」
「知らないですよ。このような事例は初めてです。……惹きつけたということは、魂の欠片はこの禍々しいので合っていると思いますが、魂脈が繋がっていないとなると神殿復活は……」
イザベラは難しい顔で考え込んでいる。
「あなたは、死ぬと普通に死ぬでしょう」
ちょっと何言ってるのか分からない。
「つまり、死んでも神殿復活は行われないということです。あなたの魂の欠片は恐らくこれ」
イザベラは禍々しい魂の欠片を指差す。
「ですが、あなたの魂と魂脈は繋がっていません。つまり、死んでから放逐される魂を回収することができないのです。普通に死にます」
「……はぁ」
何かと思えば……なーんだ。
「おや、意外と驚かないのですね」
「今まで通り、死なないように普通に過ごせばいいんだろ」
意外とこれまでの人生で死んだことはないのだ。何とかなるなる。バーサーカーどもとなるべく関わり合いにならないように引きこもって暮らしてきたからだろうけど。
……でも、三大将軍(仮)になっちゃったしなぁ……どうしようかなぁ……三大将軍って引きこもっていてもいいんだろうか。
人生設計をやり直さなければいけなくなりそう。
魂の欠片たちを見回りながらそう考えていると。
「……あなたは『死』についてどう思っていますか?」
急にイザベラから質問が飛んできた。
「この国では『死』は『本当の死』ではありません。遥かな昔、神々は各地に神殿を築きました。その加護を受けた人々は死を超克することができました。加護を受けられる条件は、この神殿だと『太陽の女神を信仰する』ことです。日の出とともに復活できる帝国の神殿は、各国の神殿よりもよほど優れているでしょう」
難しいことは良くわからない。もっと勉強しろということだろうか。
「アンネリース皇帝は『太陽の女神』のところを無理やり『アンネリース・フォーゲル・ルナニア』に書き換えて、圧倒的な権勢を振るったのです。皇帝を信仰しなければ、神殿の加護を得ることができないように作り変え、帝国を支配してきました。……死は、人間が等しく恐れるものです。それを皇帝は利用したのですよ」
「……つまり、どういうこと?」
「あなたは死を恐れていない。皇帝の呪縛から抜け出した唯一の存在です。そんなあなたに聞きたい。あなたは『死』についてどのように思っているのですか?」
イザベラは真面目が二つほど重なるような顔を向けて、わたしに聞いてきた。いつもと同じような感じで答えるのも何だか気が引けたのでちょっとこっちも真面目に考えてみる。
うーん、うーん……。
「めちゃくちゃ痛そうなものって感じしか思いつかないな。死んだ後のことなんて分からないから、死なないように頑張ってるんだけど……命を投げ捨てる帝国軍とか見てると、こっちが間違ってる気がするし……良く分からない。とりあえず、痛そうだから死ぬのはイヤだな」
結局いつもとそんなに変わらない。頭空っぽなわたしがいくら頑張ったってそんなもの。……自分で言ってて辛くなってきた。
「神殿復活については、どう思うのですか? その『痛い』のを無限に味合わせるのが神殿復活です。摂理を歪めて、死の苦しみを無限に増幅するのですよ?」
どうしてそこまでこの話にこだわるんだろう? 大聖女としての仕事みたいなものだろうか。仕事ならば仕方がない。ほんの数日前に社会人になったわたしが大聖女に快くアドバイスをしてやろう。
ちょっとイザベラさんの顔が怖い気がするけど。
「その考え方はちょっと違う気がするな。普通死んだらその人とはもう二度と会えなくなるし、話せなくなるし、その人に触れなくなるんだろう? それをなんとかしたのが、神殿じゃないか? わたしはココロが死んだら神殿に真っ先に駆け込むし……イザベラさんは違うのか?」
まあ、ココロは死なせないけどな!
ココロに手を出すようなやつがいたらぶっ殺してやる。
一瞬だけ、ほんの一瞬。
イザベラの瞳が鈍い光を流したような気がした。
「──そうですね。私もその通りだと思います。否定しておきながら……未だにその恩恵に頼っている私が言えたことではありませんでしたね」
「……?」
相変わらずイザベラの言うことは良く分からないが、一通り話の区切りはついたようだった。
神殿の扉から見える山際はすでに赤く染まっている。
「復活の儀式なんかはしないのか?」
「別に儀式はいりません。勝手にたけのこみたいに人体が再構成されて生えてきますので」
「神殿ってすげぇ!」
人間がまるで野菜みたいだ! 人間の価値ってなんだろう! 全部神殿でいいんじゃないのか!?
ちょっぴり危ない思想に至りながらも割と初めて見る日の出に興奮する。
「すげぇでしょう。大聖女を目指すのならば慣れておいたほうがいいですよ。……その時にまだ神殿があればですけどね」
イザベラは最後の方で何やら言っていたが、日の出に夢中のわたしには良く聞こえなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます