25.『聖女のお仕事 1』

 イザベラに続いて神殿に入ると、そこは別世界のような光景が広がっていた。


 まるで、星空が降りてきたような光景だった。

 床に水が溜まっている。神殿の真ん中には、大きな石の盃があった。そして、神殿の内部の空間には星々のように光る光球が無数にある。

 光球同士は互いに寄り合い、押し合い、くるくると回り合いながら互いに決してぶつからないように飛び回っている。

 時折、光球から線が繋がって星座のような形を作り、すぐさま散っていく。


「きれい……」


 思わず呟いてしまった。

 わたしは死んだことがないから、神殿の中は見たことがない。けれど、こんなに綺麗な景色の中で蘇るのなら死ぬことは怖くないんだろうな、とか思ってしまう。


「夜明けまであと少しです。急ぎますよ」


「えっと……復活ってどうすればいいの?」


「この周りにふわふわと浮いている埃のような光は見えますか?」


「埃って……これのことでしょ? まぁ、見えるけど」


 光球の一つを突いてみる。意外なことに感触は柔らかい。ぷにぷにしているぞ、これ。

 もしかして普通の人には見えないものなのかもしれない。選ばれた者にしか見えないとかだったらテンション上がるな。


「それは神殿の加護を受けた者の魂の欠片です。帝国に暮らす人々ならば全員分この神殿の中に収まっています。魂は肉体と繋がっていますのでつんつんしないでください。つんつんされた魂の持ち主は、血を吐いて倒れるでしょう」


「先に言ってよっ!!」


 慌てて手を退ける。突然血を吐くとか、なんのホラーだよ。


「まあ、冗談ですが」


「……」


 イザベラは涼しい顔をしている。分かってきたぞ、この人の性格。割と何でもやっていいタイプの人間だ。


「大聖女が行うのは監視だけです。魂の欠片が変に飛び回っていたり、くっついていたり……そういうのを直す作業が必要となります」


「直さないとどうなるの?」


「復活した後の身体は神殿内にある魂の欠片から元となって、魔力によって形作られます。魂の欠片がおかしなことになっていると、復活したら頭が二つになっていたり、他人の身体に精神が移っていたり、尻尾が生えていたり、爆発四散なんてことも」


 いや、怖すぎるんだけど。話の内容も、それを真顔で話すイザベラさんも。


 決心する。わたしは絶対に神殿のお世話にはならないぞ。復活直後に爆発四散なんて、絶対にイヤだからな。


「わたしの魂の欠片とか見つけられるかな」


「魂の欠片は大元に引き寄せられますからね。念じてください。それで近寄ってきたやつがリリアスさんの魂の欠片です」


 見るとイザベラさんの背後にはすでに光の玉がふわふわと浮いて漂っていた。球から何やら線が伸びてイザベラさんのおヘソに繋がっている。


「『魂脈』。魂の欠片と私の魂が一時的に繋がっているのです。神殿復活の適用がされている証拠ですね」


 犬のリードみたいで可愛いなぁという安直な感想が浮かんでくるのをかき消して、わたしは目を閉じて念じてみる。


 なるべくかっこよく光ってるのがいいな。それでいて、賢者のように賢そうな振る舞いとか……。

 目を開ける。


「……へ?」


 黒と赤に光る禍々しさ全開の太陽のようなものが目の前にあった。荒々しく猛り狂い、周囲の魂の欠片たちも怯えたように近づかない。


「まあ」


 イザベラは興味深そうにわたしの目の前のものをじっと見る。


「……もしかしてだけど」


「あなたの魂の欠片でしょうね。何とも禍々しい……魂までブラックデッドに染まっているとは」


 目の前に浮かぶ禍々しいものを見てしまえば何も言えなくなる。え、これで欠片なの? こんな野生の心をわたしは飼っていたのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る