第4話

 未代とはあれから、関係を断った。

 いや、断たれたといった方が正しいのだろう。

 私は、しばらくしてから今まで勤めていた事務の仕事を辞め、スーパーのレジ打ちへと転職した。

 「どうぞ。」

 にこやかに演技をしながら、来る客来る客をさばいて愛想をふる撒いている。とても楽しかった、今では、これが天職なのでは?とさえ思っている。

 けれど、

 「あれ、七子さん?」

 「ああ、久しぶり。どうぞ。」

 と、たまに前の職場の同僚などに会うことがあって、それは本当に嫌だった。

 私は、もう誰にも見られたくなかった。

 何を望んでいるのかさえ分からなかった。

 私は、自分を持て余していた。


 ゆっくりと進む船に乗り、私は進んでいる。

 こんなことをしたって、意味が無いって分かっているのに、私はただただぼんやりと前に進み続けている。

 泣き出していしまいそうな衝動を抱え、ただ前を見ていた。


 私は、気が付けば40代になっていた。

 ずっと一人だった。

 家族は、元々ばらばらだったから、会うこともほとんどなくなっていた。

 そして、私はあまりそういう身寄りもなかったから、自営で販売をしながら、生計を立てている。

 できない、とさえ思わなければ、相当の不運がない限り生き続けることはできるのだと悟った。

 たまに、未代のことを思い出す。

 未代には、悪いことをしてしまったと思っている。

 だって、あの、未代と付き合っていたおじさんを私が、殴ってから二人は別れて、でもまたよりを戻した。

 何なの、と思ったけれど、本当に分からなくて、私は二人を避けたし、しかし未代はそれを許さずはっきりと、会いに来ないでと私に告げた。

 やることなすこと全てが裏目に回っている。

 それすら、面白いと思ってしまえる程、悲惨だった。


 けれど、

 「七子、老けたね。」

 「いや、未代の方が老けてるよ。それに、誰?その子。」

 「子どもよ。この年齢なんだからわかるでしょ?」

 「まあね。」

 未代の隣には、もう10歳にはなるだろう女の子が不安そうな顔でこちらを窺っていた。

 そして、ああ、きっとこの子は母一人子一人なのだろうと悟っていた。

 私は、だから彼らを、家に招き入れた。

 言動は普通だけど、体はやせ細って、見ていられなかった。

 あいにく、私には金がある。

 すごく嫌な言い方だけど、だから誰かを、過去の親友を、拒む理由など何もなかった。

 バタン、とドアは閉じた。

 そして、私達は企むのだ。

 悪事を。

 また、誰かを傷付けて生きようとしている、しかし、ただ無表情に冷静に、見ているだけだった。

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